珪素鋼のベイナイト変態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 15:55 UTC 版)
「ベイナイト」の記事における「珪素鋼のベイナイト変態」の解説
珪素鋼においては、前述の珪素を含まない鋼のベイナイト変態の機構と比べて、珪素によってセメンタイトの生成を抑制される特徴がある。炭化物の形成が完全なベイナイト変態の前提であるため、セメンタイトの生成が抑制される珪素鋼は不完全な変態となり、高い残留オーステナイト量を持つこととなる。変態生成物は生成後の炭化物生成によって変化しないため、珪素鋼の研究はベイニティックフェライトの生成機構を解明するための重要な方法を供することができる。 珪素はセメンタイトに実質的に不溶である。セメンタイト核の成長は排出される珪素の拡散に支配され、ベイナイトの生成は変態温度でゆっくりと進むことになる。このセメンタイト核の生成による珪素の濃度勾配によって、局部的に炭素の活量が強く上昇する(図16参照)。そのために、セメンタイト核における炭素の移動が減少し、核は成長し続けることができなくなる。 珪素鋼の上部ベイナイト域における変態は炭化物の生成が二段階に分かれるために進みづらくなる。第一段階では、ベイニテッィクフェライトの生成が非常に速い速度で進み、周囲のオーステナイトに炭素が強く濃縮される。第二段階では、珪素鋼ではとても長い時間の後に、この炭素が濃化したオーステナイトから炭化物が生成する。オーステナイトの炭素量低減によってフェライトの生成を継続して進めることができ、ベイニティックフェライトプレートの横方向への成長により二次的なフェライトが生成する。下部ベイナイト域においては、珪素がε炭化物の生成に小さな影響しか与えないために、フェライトからのε炭化物の生成は短い時間で進む。しかし、セメンタイト中のε炭化物の変態は珪素の存在により制約される。この下部ベイナイトの炭化物の生成は、上部ベイナイトよりも少ない残留オーステナイト量となる。この炭化物には相当な量の珪素が含まれるために、セメンタイトとしては識別されない。ローリグ(Röhrig)とドラジル(Dorazil)は上部ベイナイト変態の温度域に長時間保持すると炭化珪素ができることを報告している。 大きな珪素量と350℃から400℃の変態温度においては、合金の機械的性質に悪影響を与える、炭素が濃縮した残留オーステナイトが多量に生じうる。成長するベイニティックフェライトに囲まれたオーステナイトにおいて、局所的に炭素が濃化したオーステナイトに変形双晶が観察される。
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