特異点とブラックホール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/09 02:15 UTC 版)
「シュワルツシルト解」の記事における「特異点とブラックホール」の解説
シュワルツシルト解は r = 0 と r = rs において特異点を持つようにみえる。すなわち、計量のいくつかの成分が発散するのである。シュワルツシルト計量は重力源となる物体の半径 R よりも外側についてしか有効であると考えられないため、R > rs の場合には問題は存在しない。通常の恒星や惑星では常にこの条件が成り立つ。例えば、太陽の直径はおよそ 7008700000000000000♠700000 km であるが、シュワルツシルト半径はわずか 7003300000000000000♠3 km でしかない。 シュワルツシルト座標の r = rs における特異点は座標を二つの非連結な座標パッチに分割する。このうち、r > rs を満たす「シュワルツシルトの外部解」は恒星や惑星の生み出す重力と関係がある。対して、0 ≤ r < rs を満たす「シュワルツシルトの内部解」は r=0 に特異点を含み、外部とは r=rs の特異点により完全に断絶している。そのため、シュワルツシルト座標は内部と外部で物理的な繋りをまったく持っておらず、別々の解と見做すことができる。しかし、r = rs における特異点は見掛け上のものにすぎない。このような存在を座標特異点と呼ぶ。名前の示すとおり、この特異点は座標の選びかたもしくは座標条件(英語版)が悪いために生じるものである。座標を適切に変更すれば(例えばルメートル座標、エディントン・フィンケルシュタイン座標、クルスカル・セケレシュ座標、ノビコフ座標、グルストランド・パンルヴェ座標など)、計量は r=rs において正則となり外部の座標パッチと内部の座標パッチを繋ぐことができる。したがって、座標変換を用いれば外部と内部を関連付けることが可能となる。 しかし、r = 0 の場合は話が異る。r がどんな値でも成り立つような解を求めようとすると必ず重力の特異点と呼ばれる真の物理的特異点が原点に生じる。この特異点が真の特異点であることを理解するためには座標の選択によらない量を調べる必要がある。そのような量のうち重要なものとして、下に示すクレッチマン不変量(英語版)が挙げられる。 R α β γ δ R α β γ δ = 12 r s 2 r 6=48 G 2 M 2 c 4 r 6 {\displaystyle R^{\alpha \beta \gamma \delta }R_{\alpha \beta \gamma \delta }={\frac {12{r_{\mathrm {s} }}^{2}}{r^{6}}}={\frac {48G^{2}M^{2}}{c^{4}r^{6}}}} r=0 において曲率は無限大になり、すなわち特異点の存在を示す。この点では計量および時空そのものが良い定義を持ちえない。長い間、このような解は物理的でないと見做されていた。しかし、一般相対性理論がよりよく理解されるにつれて、このような特異点は珍しい特殊例ではなく、この理論にまつわる一般的な特徴であることが明らかになってきた。 r> 0 の全域において成り立つようなシュワルツシルト解を、シュワルツシルト・ブラックホールと呼ぶ。これはいくつかの奇妙な特徴を持っているが、完全に妥当なアインシュタイン方程式の厳密解である。r < rs において、シュワルツシルト座標 r は時間的となり、座標時 t は空間的となる。したがって、r を一定に保つような曲線はもはや粒子や観測者の世界線には成り得ず、どのような力を加えたとしてもこのような軌跡を描くことはできない。このことは時空が著しく曲がっているため原因と結果の向き(粒子の未来光円錐)が特異点にしか向かわないことに起因する[要出典]。曲面 r = rs はブラックホールの「事象の地平面」と呼ばれるある種の限界を表わしている。これは、光ですら重力から逃れることができなくなる点を表わしている。その半径 R がシュワルツシルト半径よりも小さくなった物理的物体は全て重力崩壊を起こし、ブラックホールとなる。
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