掲載論文
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 17:40 UTC 版)
2001年5月に Classical and Quantum Gravity (CQG) 誌はボグダノフ兄弟による Topological theory of the initial singularity of spacetime(『時空の初期特異点に関する位相幾何学理論』)と題した論文を審査した。査読官のひとりは「独自で、かつ興味深い、と思われる。訂正を加えれば掲載に値するものになると私は期待する」と述べた。その論文は7か月後に受理された。 しかし、論文が掲載され世間が議論に包まれた後、CQG誌編集部の Andrew Wray と Hermann Nicolai による電子メールを数学者 Greg Kuperberg がユーズネットに投稿した。以下はその一部である: Regrettably, despite the best efforts, the refereeing process cannot be 100% effective. Thus the paper ... made it through the review process even though, in retrospect, it does not meet the standards expected of articles in this journal. The paper was discussed extensively at the annual Editorial Board meeting ... and there was general agreement that it should not have been published. Since then several steps have been taken to further improve the peer review process in order to improve the quality assessment on articles submitted to the journal and reduce the likelihood that this could happen again. (遺憾な事に、最善の努力にも関わらず、審査過程は100%有効ではありえません。したがって件の論文は…後から見れば、本誌の掲載論文に期待される基準に合致していないにも関わらず、査読を通過してしまいました。件の論文は年次編集部会議で広く議論され…出版されるべきではなかったという一般合意がありました。それ以降、本誌に送られる論文の質を評価し事態再発の可能性を下げるために査読過程をより改善するいくつかの段階的措置が取られています。) しかし問題の論文はCQG誌から取り下げられていない。後に、編集長は少し異なる声明を、CQG誌の所有者であるイギリス物理学会の代表として発表している。その中で彼は、彼らの通常の査読手続きが追跡調査されたという事実を主張しているものの、問題の論文の価値についてはもはやコメントしていない。典型的には、「本誌の掲載論文に期待される基準に合致していない…」と「件の論文は年次編集部会議で広く議論され…出版されるべきではなかったという一般合意がありました」という部分が削除されている。しかし、前者は『ニューヨーク・タイムズ』紙・ 『The Chronicle of Higher Education』 ・『ネイチャー』誌で引用されている。さらに『ディー・ツァイト』紙は、CQG誌の co-editor である Hermann Nicolai による、もしその論文が自分のデスクに届いていたなら即座に拒絶査定しただろう、という発言を引用している。 2001年にはチェコの Czechoslovak Journal of Physics がイゴール・ボグダノフによる Topological Origin of Inertia(『慣性の位相幾何学的起源』)という論文を受理している。審査官による報告では「私の意見ではこの論文の結果は独自のものであると考えうる。掲載については、修正された形でならこの論文を推薦する」と結論されている。翌年、中国の Chinese Journal of Physics がイゴールの The KMS state of spacetime at the Planck scale(『プランクスケールにおける時空のKMS状態』)という論文を掲載した。報告では「この論文で提起される視点はプランクスケールの物理に対する可能性あるアプローチとして興味深いものでありうる」とされ、いくつかの修正が要求された。 全ての査読での評価が肯定的だったわけではない。Journal of Physics A の代表として査読官を務める Eli Hawkins は、ボグダノフ論文のひとつを拒絶査定するよう提案し、「全ての間違いを列挙するには余りに多くのスペースが要る。実際、ひとつの誤りがどこで終わって次がどこで始まるかを言うのが難しい。結論として、私はこの論文の本誌における、またはいかなる専門誌における掲載も、推奨しない」とした。 掲載された論文のうちいくつかはほとんど同一で、比較的重要でない面のみが異なっていた。CQG誌の掲載論文はグリシュカの学位論文のほとんどを要約したもので、ただし段落の順番がほぼ完全に逆になっている。Chinese Journal of Physics ・ Nuovo Cimento ・ Annals of Physicsの掲載論文はタイトルと概要を除いて本質的に同一であり、誤字脱字もそれら全てに渡って繰り返されている。
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