子の利益
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 07:16 UTC 版)
「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の記事における「子の利益」の解説
本条約に基づく子の常住居国への身柄の返還は、原則、子の利益(「子を返還することが子にとって良いことか?」)を考慮することなく行われる。このことに関し、ハーグ国際私法会議が発行するExplanatory Report on the 1980 Hague Child Abduction Conventionはパラグラフ23で「違法に連れ去られた子の迅速な返還に関して、条約には子の利益を考慮する明文の規定は存在しない」と解説し、その理由として「子の利益は曖昧な概念で法的判断に適さないこと」(パラグラフ21)および、「連れ去られた先の裁判所が子の利益を判断すると、その国の文化的、社会的価値観を反映した子の利益になり、連れ去られた元の国の価値観と合わない」(パラグラフ22)を上げている。 ただし本条約は、子の利益に関連して返還をしない決定をできる特例を2つ上げている。 「子を肉体的、精神的な危害にさらす」または「子を耐え難い状況に置く」重大な危険がある(本条約13条b) 子が返還に反対の意思を示し、子の意見を聞くだけの年齢に達している(本条約13条2項) 「子を耐え難い状況に置く」という特例は幅広い解釈が可能であるが、「子の利益に反する」より限定された場合にしか適用することはできない。子の意思に関して、何歳から子の意見を聞くべきかについては、条約起草段階でも議論されたが結論が出ず、個別の事案について判断することとされた。 なお、この2つの特例は「裁判官が返還を命じなくても良い」特例であり、子の権利として「返還を命じられない」というものではなく、返還を命じるか否かは裁判官の裁量である。このため、十分意思表示できる子が明確に返還に反対の意思表示をしても、返還されない保証はなく、裁判官が裁量で返還を命じた場合にはそれに従わざるを得ない。 一方アメリカでは、「子の意見を聞くことは、子の心に負担をかける。親のうち一方を選び他方を捨てる判断を子にさせるべきではない。」との意見から、子は自分の意見を返還裁判で言うことすら許されない運用をされる場合がある。 日本における法制審議会の議論では、「子に対する危険(DVなど)や、子が返還を拒否している場合など、条約上の返還拒否事由がある場合、返してはならないと国内法を整備すべきだ」という意見に対し、「外務省の意見」ということで「条約上返還拒否事由がある場合でも、国は子を返還させることができるように法律を作る」という意見が出され、了承されている。
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