妊娠中の獲得免疫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 15:33 UTC 版)
免疫系の要は、「自己」と「非自己」の認識である。従って、「非自己」と見做されるヒトの胎児を、免疫系の攻撃から守るメカニズムは、特に興味深い。拒絶反応が起こらないという不思議な現象を包括的に説明する事は出来ないが、2つの古典的な理由が胎児が許容される理由と考えられる。1つ目は、胎児は子宮という非免疫学的バリアーに守られた体の一部を占めており、免疫系が日常的にパトロールする事はないという事である。2つ目は、胎児自身が母体の局所的な免疫抑制を促進する可能性がある事である。この様な寛容性の誘導についてのより現代的な説明は、妊娠中に子宮内で発現した特定の糖タンパク質が子宮の免疫反応を抑制するというものである(eu-FEDSを参照)。 胎生期の哺乳類(単孔目を除く全ての哺乳類)の妊娠中には、内在性レトロウイルス(ERV)が活性化され、胚の着床時に大量に産生される。ERVには免疫抑制作用があることが知られており、胚を母親の免疫系から守る役割を果たしている事が示唆されている。また、ウイルス融合タンパク質は、胎盤合胞体の形成を引き起こし、発育中の胚と母親の体との間の遊走細胞の交換を制限する(ある種の血球は隣接する上皮細胞の間に挿入する事に特化している為、上皮細胞では充分に出来ない事である)。免疫抑制作用は、HIVと同様、ウイルスの初期の正常な行動であった。融合タンパク質は、感染した細胞と他の細胞を単純に融合させることで、他の細胞に感染を広げる方法であった(HIVもこれにあたる)。現代の胎生哺乳類の祖先は、このウイルスに感染した後に進化し、胎児が母親の免疫システムから生き残る事が出来る様になったと考えられている。 ヒトゲノム計画では、24のファミリーに分類された数千のERVが見つかっている。
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