モールス通信の時代
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 01:34 UTC 版)
無線の実用化と時を同じくして、船舶通信士という職業が出現した。ただ初めのころは船客の電報を扱うサービス係として遇されることが多く、航海安全における無線の重要性はあまり認識されていなかった。また能力や自覚に欠ける通信士も少なくなかったようである。 これらを変えるきっかけとなったのは、タイタニック号沈没事故における無線通信の不手際である。一次大戦後は遭難など緊急時の通信に関し、多国間条約による国際協力が行われるようになり、また船舶通信士の国際的な能力基準も制定された。また電波航法の実用化もあり、船舶と通信する海岸局も陸上に設置されて有線系通信との連係体制も整ったので、無線の重要性は広く認められるに至った。 日本の船舶で無線通信が正式に行われるようになったのは1908年 からで、海岸局も設置された。初期の従事者は逓信省の元有線通信士で、1915年に私設の無線設備が認められるまでは、船舶局の通信士は官員つまり公務員だけだった。1920年代からは一定以上の船舶に対し無線の装備が強制されるようになり、民間人の船舶通信士も増加したが、船員組織における地位は不明確だった。正規の船舶職員とされたのは1944年からで、モールス通信を行なう船舶は強制か否かにかかわらず、船員組織に無線部を設けねばならないことになった。無線部の船舶職員は電波行政で規定する資格と、海技従事者としての船舶通信士免状 とを併有している必要があり、これは現在でも同様である。 二次大戦後は無線電話が発達し、また電波航法の自動化も進んだので、専任の通信士が乗務しない電話のみの船が増えた。1952年以降は無線の装備を強制される船舶であっても、種別やトン数によっては電話の設備だけでも良いこととなり、この場合は専任の通信士である無線部職員も必要としない。さらに1960年代には短波帯の無線電話が導入され、モールス通信なしでも遠洋から連絡が取れるようになる。そして70年代には船舶電話など、特に無線の能力を要さない一般通信も普及してきた。 1970年代以降の国内航路で電信用設備と専任通信士とを義務付けられるのは、近海以遠を航海する客船や大型貨物船のみとなっていた。ただ実際にはモールス通信を行なう小型の内航船や沿海フェリーも存在した。また電話専用の資格で国際通信を行なえるもの が80年代初頭まで存在しなかったため、国際航路では専任通信士によるモールス運用が一般的だった。これらには労働政策上の理由もあるが、日本ではあまり大きくない船でも長距離長期間の航海を行なうことが多く、専門的能力を有する通信士を乗船させる必要があったためでもある。いっぽう漁船も航行区域が広範囲に亘るため、法律的には電話のみで済む場合でも、近海以遠では電信用の設備を有している船が多かった。ちなみに遠洋漁業では、短波帯のモールス通信が今なお行なわれている。
※この「モールス通信の時代」の解説は、「通信士」の解説の一部です。
「モールス通信の時代」を含む「通信士」の記事については、「通信士」の概要を参照ください。
- モールス通信の時代のページへのリンク