『忠臣蔵』との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/28 09:04 UTC 版)
「加々見山旧錦絵」の記事における「『忠臣蔵』との関係」の解説
この浄瑠璃の『加々見山旧錦絵』と、それをもとにした歌舞伎の『鏡山旧錦絵』とはその内容にいろいろと違いがある。たとえばお初が尾上の仇として岩藤を討つ場所が、歌舞伎では奥庭すなわち屋外になっているのに対して、この原作の浄瑠璃では奥御殿の中となっている。しかしいちばん大きな違いは、岩藤が尾上を草履でもって殴るに至った経緯とその心理である。 この『加々見山旧錦絵』は「女の忠臣蔵」ともいわれる。岩藤より侮辱を受け死んだ尾上の仇を、その下女のお初がとる話だからであり、七段目の「尾上部屋」ではお初が『忠臣蔵』すなわち『仮名手本忠臣蔵』を引き合いにも出すが、その前の六段目「鶴岡八幡」もあわせて読むと、これが実際に『忠臣蔵』のパロディになっているのがわかる。 まず『仮名手本忠臣蔵』についていえば、初段大序で執権高師直が鶴岡八幡での兜改めのあと、塩冶判官の妻であるかほよ御前に横恋慕し、無理やり付け文を押しつけ言い寄ろうとする。この場では結局かほよには逃げられるが、のちの三段目に至ってかほよから拒絶の意を込めた古歌を送られるのである。師直はひどく機嫌を悪くする。そしてそこにはかほよの夫である塩冶判官がいあわせたが、判官は師直と妻かほよとのいきさつなど知らない。その不機嫌を夫の判官に、師直は散々八つ当たりしてぶつけ辱める。あまりのことに耐えかねた判官は師直へ刃傷に及び、後日切腹を命ぜられ果てた。 いっぽう『加々見山旧錦絵』の六段目では、場所は『忠臣蔵』大序の舞台と同じ鶴岡八幡、岩藤は同じ家中の桃井求馬に恋焦がれ、その思いを綴った付け文を善六を介して求馬に渡す。しかし求馬にはすでに早枝という恋人がおり、結局岩藤の思いはかなわなかった。ひどく機嫌を損ねた岩藤は、以前から快く思っていなかった尾上に八つ当たりをするのである。もちろん尾上にとっては、岩藤がなぜ機嫌を損ねているのかなど知る由もない。しかしそれが嵩じて、岩藤はそれまで自分が履いていた草履でもって尾上を殴るという所業に至る。尾上はその場では必死にこらえたが、やはりのちに自分の部屋で自害する。この展開は『忠臣蔵』の男女を入れ替え、同じ流れの話を取り入れているといってよい。改めて『仮名手本忠臣蔵』の人物を、『加々見山旧錦絵』に置き換えると以下のようになる。 高師直 → 岩藤 塩冶判官 → 尾上(及び腰元早枝) かほよ御前 → 桃井求馬 現行の歌舞伎の『鏡山旧錦絵』では上の岩藤と桃井求馬をめぐるような話は出ないので、岩藤が尾上を草履で殴る理由はまた違うものとなっている。それは最初から尾上本人に直接向けられた憎悪であり、草履も前もって用意されたものであるが、原作の浄瑠璃を見るとその筋立ての一部もまた『忠臣蔵』に倣い、尾上が本人とは関わりないことがきっかけで理不尽な目にあう話になっているのである。
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