「遠くの呼び声」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 09:18 UTC 版)
(とおくのよびごえ)(単行本第3巻所収) 都重畑絵(とえ はたえ、女子生徒)の趣味は耳掃除。同じクラスの間嶋安彦(まじま やすひこ、男子生徒)の趣味も耳掃除。2人とも、他人の耳を掃除するのが好きで、耳が痒そうな同級生を見つけては、耳掃除してあげようかと持ちかけるが、2人に自分の耳を委ねる生徒は皆無である。 都重は、至近距離から名前を呼んでも反応が無かったり、「いるわけがない」を「ヒルは毛がない」と聞き違えたりなど、注意力が散漫で、自分の耳を委ねるには勇気が必要であるといえる。また、入学当初は、主に男子生徒が都重に耳を委ねたこともあったが、思いっきり耳を引っ張ったり、2週間の後遺症を残すなど、耳掃除が非常に下手であることがわかり、程なく誰も耳を委ねないようになった。また、家族も耳を委ねてはくれないという。 一方、間嶋は、男子生徒に耳を委ねたい生徒などいないため、自分の耳と家族の耳だけで我慢しているという。 あるとき、間嶋は、都重の名前を呼んでも反応が乏しいことから、都重自身は自分の耳を掃除していないのではないかと思い当たり、本人に問うてみた。都重は最初は否定したが、実は何年も掃除しておらず、耳の中が時々ガサガサと音を立てたりすることを明らかにする。小学生の頃に自分の耳を毎日掃除していたら、中耳炎になってしまい、それ以来自分の耳には触らないことにしているという。 当然、間嶋は、“何年も掃除してない耳”を掃除させてもらおうとするが、間嶋が何か言う前から都重はこれを予想し、先んじて断る。しかし、耳が汚い女の子という存在について間嶋が疑問を呈するなど、息詰まる駆け引き(これの詳細を文章で表現することは困難である)の末、後ほど都重に間嶋の耳で練習させるという条件で、間嶋は都重の耳を掃除できることになる。 いざ、耳掃除。間嶋は都重の耳の中を見て、驚きの叫び(但し「♥」(ハートマーク)を伴う)を発するが、すぐに真剣な表情になり、普通の耳掻きだけでなく、ピンセットや、耳掃除用に糊の付いた綿棒などの道具(常備している)を駆使し、耳掃除にひたすら興じる。そして、都重の耳からは、描画できないほどの凄まじさの耳垢が摘出された。間嶋は、あまりに楽しかったのか、感涙にむせびながら余韻に浸っている。都重は、耳の通りが良くなった気がするとの感想を述べ、耳垢を瓶に入れて皆に見せに行った。 その後、間嶋は耳掃除が物凄く上手いという噂が広がり、多数の同級生が、間嶋に耳を委ねてくれるようになった。一方、さきの約束どおり、都重は間嶋の耳で耳掃除の練習をしてみたが、間嶋の耳を痛めつけて中耳炎にしてしまった。注意力散漫だったことと耳掃除が下手だったことは、相互に無関係だったらしい……。
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