X論文 影響

X論文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/31 04:38 UTC 版)

影響

論文発表後、程なくして筆者が政策企画本部長ケナンであることが判ると、その名は世界に広く知れ渡り、彼は冷戦政策の立案者と目されるようになった。しかしそれは、ケナンの本意ではない。彼が提唱した「封じ込め政策」の概念は、次第に独り歩きを始めるようになる。

ケナンは、ソ連が平和で安定した世界の利益を侵食しようとしたならば、どこであろうと対抗力を行使することが重要であると主張した。この「対抗力」を軍事力と解する動きが、政権内外で広がったのである。ウォルター・リップマンは主著『冷戦(The Cold War)』で、この誤解に基づいた批判をケナンに加えている。

しかし、ケナンが意図したのは政治的な対抗手段であり、前提条件を見誤ったリップマンの批判は当たらない。また、ケナンは世界のあらゆる地域でソ連の影響力の増大を防がねばならないとは考えていない。トルーマン・ドクトリンを批判した際に明らかにしているように、彼が重視したのは西欧や日本など、近代的軍需生産が可能な地域であった。「封じ込め政策」について考察するに当たっては、こうした点に留意せねばならない。

参考文献

※X論文の全訳を収録
  • ジョージ・F・ケナン『ジョージ・F・ケナン回顧録―対ソ外交に生きて(上巻)』 清水俊雄訳、読売新聞社、1973年、ISBN 4643521007
  • 菅英輝「ジョージ・F・ケナンと『封じ込め』構想」 『北九州大学法政論集』8巻2号、1980年
  • 佐々木卓也『封じ込めの形成と変容―ケナン、アチソン、ニッツェとトルーマン政権の冷戦戦略』 三嶺書房、1993年、ISBN 4882940434
  • 鈴木健人「ジョージ・ケナンとマーシャル・プラン―『封じ込め』構想とドイツ問題を中心に」 『歴史学研究』571号、1987年
  • 油井大三郎『戦後世界秩序の形成―アメリカ資本主義と東地中海地域 1945-1947』 東京大学出版会、1985年、ISBN 4130210475

関連項目


  1. ^ 英語の「containment」は、「中に容れること」「抑制」を意味する。これに「封じ込め」という強圧的な訳を当てるのは適当でないとする指摘があるが、「封じ込め」は一般に通用している訳語であるため、本項もこれに倣う。
  2. ^ 「ことばで見る政治の世界 米中の対立、軽々しく「冷戦」と呼ぶべきではない」(朝日新聞GLOBE+)
  3. ^ George Kennan and Containment(アメリカ合衆国国務省ホームページ内)
  4. ^ 共産主義思想は論者によって十人十色であり、マルクスの理論がそのまま継承されたわけではない。論文中でケナンも指摘しているが、典型例として挙げられるのが、農民の位置付けである。マルクスやエンゲルスによれば、農民は保守的であるばかりか反動的ですらある(『共産党宣言』第1章)。しかしこうした規定は次第に変質し、ソ連のシンボルに「鎌と槌」があしらわれたことが示すように、農民(は農民の象徴)は労働者(は労働者の象徴)と同じく革命の担い手とされるに至った。






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