TRONプロジェクト T-Kernelプロジェクト(TRONプロジェクト第2ステージ)

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > TRONプロジェクトの解説 > T-Kernelプロジェクト(TRONプロジェクト第2ステージ) 

TRONプロジェクト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 07:41 UTC 版)

T-Kernelプロジェクト(TRONプロジェクト第2ステージ)

T-Kernel仕様OS(イーソル株式会社製作のeT-Kernel)を搭載したカメラ、Pentax K3(2013年発売)。T-KernelはITRONに引き続いて家電で広く使われている

坂村健が2000年に開始した、TRONプロジェクトの第2ステージであるT-Kernelプロジェクトである。2002年発足のT-Engineフォーラムが中心となって推進していた。

eTRON

ICカード、特に非接触のものの通信や、認証などのセキュリティなどの規格。2000年発表。

T-Engineを搭載したチップ同士が安全に通信を行うための公開鍵基盤(PKI)である。全てのモノがネットワークで接続されるユビキタス・コンピューティング社会においてはセキュリティを守るため、利用される全てのT-EngineボードにはeTRONが搭載されることが前提となる。

T-Engine

ハードウェアやソフトウェアなどを含む、T-Kernelの開発環境。2001年発表。

T-Kernel

GUIを持つシステムで使われることが想定されるT-Kernel。トヨタカーナビや車両周辺監視システム「パノラミックビューモニター」(富士通テンの開発した「マルチアングルビジョン」)でイーソルのT-Kernel仕様OSが採用されている。

ITRONをベースに設計された、組み込み向けRTOS。2002年公開。

ITRONでは1980年代当時のハードウェアの性能による制限から、仕様書だけ策定されており、実装はハードウェアに合わせて各自で行なう「弱い標準化」の方式となっていたため、最小のシステムから大規模システムにまで対応できるスケーラビリティを持つ一方、それぞれの実装で細かい違いがあり、ソフトの再利用などが困難だった。その反省から、T-Kernelでは2000年代のハードウェアの性能に合わせて「強い標準化」を目指し、仕様書だけでなくソースコードもオープンとなっており、それによって細かな実装上の違いをなくし、デバイスドライバやミドルウェアの再利用が促進できるようになっている。

GUIを持つことが前提となる「T-Kernel」とともに、T-Kernelと互換性を持ちつつ必ずしもGUIを持たないような小さいシステムでも利用できる「μT-Kernel」も策定された。このように、ソフトの再利用性やミドルウェアの利用による開発の容易さと言った特徴を持ちつつも、RTOSとして小規模なシステム開発から大規模なシステム構築用途にまで対応する「フルスケーラビリティ」を持つ。

旧来のμITRONのソフトウェアをT-Kernel上で再利用するため、T-Kernel上でITRON用アプリを実行できるラッパーも用意されている。

T-Engineボード

T-Engineの標準プラットフォームで、T-Kernelが動作するハードウェア。eTRONを搭載している。ソフトウェアの移植性が高く、異なるCPUを搭載したボードでも同一のソースでソフトウェアが使用できる。

2019年現在、パーソナルメディア株式会社よりトロンフォーラム公認のT-Engineリファレンスボード(U00B0021-02-CPU)が販売されており、T-Kernelの評価ができる。標準価格 49,800円。

TRON多国語言語環境

T-KernelおよびBTRONで多漢字・多言語を実現するための多言語処理環境。

2000年に開始した日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「マルチメディア通信システムにおける多国語処理の研究」プロジェクトにおいて開始され、2001年に東京大学に設置された東京大学多国語処理研究会によって引き継がれ、設計が進められている。

その成果は66,773字セットを搭載した「GT書体」として2000年にリリースされ、2001年にはGT書体を標準装備したBTRON3仕様OS『超漢字3』がパーソナルメディア社から発売され、TRONにおいて多国語言語環境が実現できることが実証された。GT書体の収録文字数は、2011年時点で78,675字。

2011年にはGT書体を収録した、Windowsなどでも利用できるTrueTypeフォント「Tフォント」として公開された。

明朝体・ゴシック体・楷書体がある。

ユビキタスID

ucodeが埋め込まれた三角点。右上にucodeのマークが見えるが、屋外なので色褪せている

RFIDタグ(無線ICタグ)などに付与する識別コード(ucode)の体系化を目指したプロジェクト。

T-Engineフォーラムに2003年に設置されたユビキタスIDセンター(センター長:坂村健)と、東京大学ユビキタス情報社会基盤センターの坂村健(2009年よりセンター長、2017年に定年退職)および越塚登(坂村の定年退職後にユビキタス情報社会基盤センター長)によって推進されている。

ucodeをタグだけではなく空間に埋め込む「空間コード」の実証実験が2007年より始まった。日本各所の三角点などに128ビットのucodeが埋め込まれており、ICタグリーダを使用することで情報を読み取ることができる。

TAD(TRON Application Databus)

BTRON仕様OSにおいて使われるデータ交換形式。BTRONにおいて扱われるデータに関する情報を標準化したもので、このファイル形式を採用することで、アプリケーションのメーカーやバージョンに関係なく、BTRONを搭載した全ての機器におけるデータの完全な互換性が実現される。

BTRON3

2001年頃より爆発的に普及し始めた、GUIを搭載した携帯情報端末において、BTRONの採用が増えるだろうと予測されていたので、BTRON3が主要なプロジェクトと位置付けられていたが、結局1つも発売されなかった。

パーソナルメディア社がBTRON3仕様OS『超漢字』で実装した、「マイクロスクリプトで簡単にGUIが作れる」や「GUI上で17万字の多文字が扱える」と言った要素は、パーソナルメディア社が2003年に発表したT-Kernel仕様OS「PMC T-Kernel」のGUIミドルウェア「T-Shell」にそのまま引き継がれている。元々パソコン向けのOSやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を作るプロジェクトであったBTRONプロジェクトの成果は、組み込み向けの「T-Engineプロジェクト」においては、多文字を利用する国である日本・中国・韓国向けの組み込みシステムのGUIや、電子辞書のシステムの開発などで生かされている。

2006年に発売されたBTRON3仕様OS『超漢字V』は、Windows上で動くPCエミュレータ上で稼働する前提で、事実上Windowsのアプリケーションのように動作する。T-Kernelで利用されるスクリプト言語「マイクロスクリプト」が動くので、「WindowsにおけるT-Kernelの開発環境」としての利用が想定されている。

BTRON3仕様OSの設計に関わった松為彰(2008年よりパーソナルメディア社の代表取締役社長)は、T-EngineプロジェクトにおいてはT-Kernelの次世代仕様策定の中心人物として、2010年よりT-Kernel2.0 SWG(サブワーキンググループ)の座長を務めている。

μITRON4.0

2006年にITRON仕様のVer. 4.03.03がリリースされた。これがμITRON仕様の最終となる。

あくまでT-Kernelへの移行がしやすくなるために改訂されたもので、μITRONからT-Kernelへの移行は不可欠であると坂村は仕様書の冒頭において語っている。

μITRON仕様において、実装定義についての記述を一覧表にまとめ、これまでわかりにくかった部分がわかり易くなった。また、μITRON3.0、μITRON4.0、T-Kernelにおいて同等の機能を持つサービスコールを規定し、将来的にT-Kernelに移行する際、μITRONからT-Kernelへの移植をより容易に行うことができるようになった。

トヨタ夢の住宅PAPI

1989年に建設されたTRON電脳住宅の第2弾として、2004年に建設された。トヨタ自動車及びトヨタホームをスポンサーとして、愛知県愛知郡長久手町のトヨタ博物館向かいに建設された。

第1弾と比べると、屋上がすべて太陽電池になっているなど、「エコ」になっているのが大きな特徴。「愛・地球博」の開催に合わせ、2005年3月25日より9月25日まで一般公開された後、非公開でトヨタの様々な実験に使われ、2014年に解体された。

2010年にはトロン協会が解散している。

T-Kernel 2.0 AeroSpace

T-Kernel 2.0 AeroSpaceで制御されるジオスペース探査衛星「あらせ」(想像図)

YRPユビキタス・ネットワーキング研究所(所長:坂村健)とJAXAが2013年に共同開発した、宇宙航空向けのOS。

宇宙航空分野において、低消費電力とリアルタイム性などが評価され、ITRONやT-Kernelなどが多数採用されていた。そのため、東京大学が2013年に開発した惑星分光観測衛星「ひさき」を含むこれまでのノウハウの蓄積を元に、2011年リリースのT-Kernel 2.0をベースとして、高い信頼性、安全性の向上、高精度の時間管理機能などと言った、宇宙航空分野で必要な機能を追加した。

JAXAが2015年に打ち上げ予定のジオスペース探査衛星「あらせ」に搭載することを前提として開発された。「あらせ」はT-Kernel 2.0 AeroSpaceを搭載して2016年に打ち上げられた。


注釈

  1. ^ 「6月」というのが具体的に何をした時なのかはよくわからない。サーベイ等はもっと前から行っており、前月の5月に研究集会での発表も行っている。
  2. ^ 先頭のアルファベットを並べると「IBM」ではないか、という冗談があった。後にCTRONが加わり「ICBM」と、より物騒になった、というオチが付く。
  3. ^ ジョイコンに搭載されたNFCチップの制御用に使われている。なお、Switchの設定画面の「知的財産の表記」の項目にFreeBSDのライセンス表記があることから、本体のOSはFreeBSDベースだと考えられる。
  4. ^ 2015年4月1日に「T-Engineフォーラム」から「トロンフォーラム」に名称変更。さらに以前は社団法人トロン協会が中心となっていたが、2010年1月15日付けで解散し、2000年頃から併存していたT-Engineフォーラムに吸収された。

出典

  1. ^ 坂村健 1987c, p. 2.
  2. ^ The Objectives of the TRON Project doi:10.1007/978-4-431-68069-7_1
  3. ^ 坂村健「TRONの目指すもの」、『TRONプロジェクト'87-'88』pp. 3~19
  4. ^ 『μITRON3.0 仕様 Ver. 3.02.02』p.5、監修 坂村健、編集/発行 社団法人トロン協会、1997年
  5. ^ 『μITRON4.0仕様 Ver. 4.02.00』p.7、(社)トロン協会ITRON仕様検討グループ、2004年
  6. ^ 『μITRON4.0仕様書 Ver. 4.03.03 』p.1、T-Engineフォーラム、2010年
  7. ^ リアルタイムOS・ツール・ミドルウェア ユーザ事例”. イーソル株式会社. 2019年8月30日閲覧。
  8. ^ 『μITRON4.0仕様書 Ver. 4.03.03 』p.7、T-Engineフォーラム、2010年
  9. ^ 『IoTとは何か 技術革新から社会革新へ』坂村健、KADOKAWA、2016年
  10. ^ IoTは本物か?:坂村健×SEC所長松本隆明(後編) (2/3)”. MONOist(モノイスト). 2020年5月21日閲覧。
  11. ^ T-Licenseの考え方”. トロンフォーラム (2004年10月5日). 2019年8月30日閲覧。
  12. ^ T-License 2.0 FAQ”. トロンフォーラム (2011年). 2019年8月30日閲覧。
  13. ^ 別にマイクロソフトと喧嘩していたわけではない──坂村健所長 (1/2)”. ASCII.jp. 2020年5月21日閲覧。
  14. ^ μT-Kernel 2.0がベースのIEEE 2050-2018がIEEE標準として正式に成立”. www.tron.org. トロンフォーラム (2018年9月11日). 2019年2月25日閲覧。
  15. ^ TRONプロジェクトがIEEEマイルストーンに認定”. MONOist. 2023年6月29日閲覧。
  16. ^ [1]
  17. ^ TRON PROJECT 30th Anniversary
  18. ^ ITRON(API)からT-Engine(インフラ)へ (2/4) - MONOist(モノイスト)
  19. ^ ITRON標準ハンドブック 1990, p. 18.
  20. ^ ITRON標準ハンドブック 1990, p. 36.
  21. ^ ITRON標準ハンドブック 1990, p. 37.
  22. ^ ITRON標準ハンドブック 1990, p. 38.
  23. ^ 『ITRON4.0仕様書』Ver. 4.03.03、p.i
  24. ^ 坂村健、「TRONプロジェクトの意義と現状」『精密工学会誌』 1987年 53巻 10号 p.1546-1549, doi:10.2493/jjspe.53.1546, 精密工学会
  25. ^ TRON PROJECT 30th Anniversary TRON Forum
  26. ^ TRONプロジェクト
  27. ^ 倉田啓一『TRONプロジェクトの標準化における成功・失敗要因』(知識科学研究科 修士論文)北陸先端科学技術大学院大学、2002年。hdl:10119/355https://hdl.handle.net/10119/355 
  28. ^ 革新的だった国産OS「TRON」の普及を妨げた通産省とマスメディアの横槍。健全な業界発展を阻害したのは誰か?【連載】サム古川のインターネットの歴史教科書(4) FINDERS
  29. ^ SEAMAIL Newsletter from Software Engineers Association Vol.8, No.4』、p.38、ソフトウェア技術者協会、1993年8月
  30. ^ 美崎薫『超漢字超解説』、工作舎、2000年
  31. ^ パーソナルメディア 「超漢字4」パソコン、2日間で完売 後継機も販売開始 - 週刊BCN+
  32. ^ 『マイクロスクリプト入門』、PMC研究所、1998年、p.7
  33. ^ TRON-GUI仕様の概要
  34. ^ TRON PROJECT 30th Anniversary
  35. ^ ケータイ用語 第100回:JBlend とは - ケータイWatch
  36. ^ 有価証券報告書 株式会社アプリックス
  37. ^ FOMA端末ソフトウェアプラットフォーム“MOAP”の開発 NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 13 No.1、2004年、NTT DoCoMo
  38. ^ アプリックス、携帯電話Linuxプラットフォーム「MOAP(L)」をライセンス、統合ソリューションを提供 OSDN Magazine
  39. ^ TRON Project/CHIPサブプロジェクト 東京大学デジタルミュージアム
  40. ^ TRONプロジェクト30周年特別対談
  41. ^ 『日立評論』1987年7月、p.614
  42. ^ 日立評論VOL.72No.12」p.38、1990年12月
  43. ^ 『日立評論』1988年12月号、p.102
  44. ^ 『日立評論』1990年1月号、p.96
  45. ^ 『日立評論』1992年1月号p.45
  46. ^ 『日立評論』1994年1月号、p.40
  47. ^ 坂村健「TRONプロジェクトの15年:TRON仕様チップ」『情報処理』第40巻第3号、1999年3月、NAID 170000056962 
  48. ^ 牧本資料室第2展示室「マイコン事業の回想(アーキテクチャ独立戦争の記録)」第9章マイコン独立戦争
  49. ^ SHマイコンの開発と事業化 (PDF) 半導体産業人協会会報、No.81(2013年10月)
  50. ^ SuperHTM 開発ストーリ - ルネサステクノロジ
  51. ^ 『新版トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック』、社団法人トロン協会トロン電子機器HMI研究会編、1996年、はじめに(p. XIV)
  52. ^ トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック - パーソナルメディア書籍サイト
  53. ^ 『新版トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック』、p.XV
  54. ^ TRON Project/ トロンプロジェクトとは 坂村健
  55. ^ 【電子産業史】1988年:TRON(2ページ目) 日経クロステック(xTECH)
  56. ^ a b c μT-Kernel 2.0がベースのIEEE 2050-2018がIEEE標準として正式に成立”. www.tron.org. トロンフォーラム (2018年9月11日). 2019年2月25日閲覧。
  57. ^ μT-Kernel 3.0の仕様書とソースコードを一般公開 - トロンフォーラム
  58. ^ 『TRON DESIGN』p. 4
  59. ^ 『TRONWARE』Vol. 36 p. 7
  60. ^ 坂村健 1987c, p. 171.
  61. ^ 坂村健 1987a, p. 290.





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「TRONプロジェクト」の関連用語

TRONプロジェクトのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



TRONプロジェクトのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのTRONプロジェクト (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS