SHORT PEACE 火要鎮

SHORT PEACE

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/22 02:43 UTC 版)

火要鎮

火要鎮』(ひのようじん)は、巨大都市江戸を舞台に、悲恋の情念が業火となって街をのみこむ大スペクタクル作品[3][9]。原作は大友の漫画『火之要鎮[注 1]』。12分43秒。

「ようじん」には、鎮魂や鎮守の"鎮"の字を使用している。江戸期の用字では他にも別な漢字で何種類かあったが、どことなく江戸情緒を感じる「要鎮」を使っている[1]

伝統的な日本画の画風を映像表現のモチーフとし、舞台である300年前の東京(江戸)の風俗や道具、生活を精緻な筆致で描写することにより江戸情緒を再現[3][10]。アヌシー国際アニメーション映画祭で多くの短編アニメーションを観た大友が「自分も作ってみたい」と思ったのが企画の始まりで、そのとき海外事情に詳しい人物から「フェスティバルに出すなら日本的なものがいい」と聞き、テーマは「江戸もの」に決まった[9]。また、作画のアニメーションの表現と3DCGによる表現を融合させ、斬新な映像表現を実現した[10]

江戸の振り袖火事と呼ばれた「明暦の大火」や落語の「火事息子」や「八百屋お七」の話を題材にしている[1][10]。大友は以前より日本の古典、芸能、文化に造詣が深く、江戸でのスペクタクルといえば火事であろうということで本作の骨子に繋がった[5]

大友はシナリオなしで絵コンテを描き始め、ほぼ全カットのレイアウトと背景原図を担当した[9]

大友は、以前描いた漫画は博打や刃傷沙汰などドロドロした長屋話で画になりにくいと感じたので、「江戸の火消しの話」をちゃんと描こうと考えた[9]。前半は江戸の日常を丹念に描いた絵巻物風の「静」の世界、後半はスペクタクルとなる派手な火事とアクションの「動」をピークにもってきて、静から動への二重構造で構成した[5][9]。絵巻物風にやりたい前半には普通の遠近法とは異なる平行パースを、アクションが主体になる後半は普通の遠近法を用いて、前半の「静」と後半の「動」を分けている[11]

日本画のテイストで表現していることから決してリアリティのある画ではないのだが、それを逆に利用して確固とした実在感を感じられる人物や背景の表現になることを追求した[5]。本物を作るというコンセプトで制作した作品なので、虚構の江戸ではなく、江戸は実際にはこのようであったであろうという空気感を可能な限り再現することに勤めているが、正確にしすぎると逆に不思議なものにも見えかねないので、リアリズムよりは昔の絵巻物の様式美のような感じを目標にした[5][9]

3DCGは火消しの群集シーンで主に使っているが、大部分は手描きの表現となっている[5]。メインの部分は作画で制作しているので、作画とCGの混在を違和感無く表現することを心がけたという[5]。着物の柄と刺青は実際に筆で描いたテクスチャを回転図に起こして手作業で1枚ずつ作画したキャラクターに貼り込んでいる[9][11]

あらすじ

18世紀の江戸の町。商家の娘お若と幼馴染の松吉は互いに惹かれ合っていたが、家を勘当された松吉は町火消しとして生きる。そんな時、お若に縁談が持ち上がる。松吉への思いを忘れられないお若の狂った情念からの行動は大火事を引き起こし、江戸の町を焼き尽くす。その大火の中で、二人は再び巡り合う[9]

キャスト

お若
声 - 早見沙織[12](子供時代の声 - 石井心愛[注 2]
松吉
声 - 森田成一[12](子供時代の声 - 佐藤瑠生亮
お梅
声 - 小林ゆう[注 2]
鶴之助
声 - 石田太郎[注 2]
仲人
声 - 江森正明[注 2]
仲人夫人
声 - 落合るみ[注 2]
お若の父
声 - 飯島肇[注 2]
お若の母
声 - 久保田民絵[注 2]
番頭
声 - 神奈延年[注 2]
定吉
声 - 相ヶ瀬龍史[注 2]
火消し頭
声 - 高瀬哲朗[注 2]
火消し
声 - 西前忠久川原慶久[注 2]

スタッフ

  • 脚本・監督:大友克洋
  • キャラクターデザイン・ビジュアルコンセプト:小原秀一
  • 音楽:久保田麻琴
  • 作画監督:外丸達也
  • エフェクト作画監督:橋本敬史
  • 演出:安藤裕章
  • 美術:谷口淳一、本間禎章
  • CGI監督:篠田周二
  • 画面設計:山浦晶代
  • 音響監督:鶴岡陽太

注釈

  1. ^ a b 1995年発表。全13ページでCOMIC CUE創刊号に掲載された[1]
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 公式ホームページには記載されていないが、エンディングスタッフロールに記載されている[要出典]声優。

出典

  1. ^ a b c 映画「SHORT PEACE」特集、大友克洋1万字インタビュー”. コミックナタリー. 株式会社ナターシャ (2013年12月18日). 2022年12月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 真狩祐志 (2013年3月2日). “「SHORT PEACE」7月20日公開決定 大友克洋、森田修平、安藤裕章、カトキハジメ、4監督が競演”. アニメ!アニメ!. イード. 2022年12月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i INTRODUCTION”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  4. ^ a b c 大友克洋最新アニメ「SHORT PEACE」劇中写真を一挙20点独占公開”. 映画.com. 株式会社エイガ・ドット・コム (2013年3月19日). 2022年12月1日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t PRODUCTION NOTE”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  6. ^ STAFF&CAST”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. オープニング. 2021年2月13日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 九十九”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  8. ^ a b c STAFF&CAST”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 九十九. 2021年2月13日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h 火要鎮”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  10. ^ a b c 第16回 (2012年) アニメーション部門受賞作品 大賞 - 火要鎮”. 文化庁メディア芸術祭 (2022年1月29日). 2022年12月1日閲覧。
  11. ^ a b 大友克洋監督に「SHORT PEACE 火要鎮」の映像表現の凄さを語ってもらった”. GIGAZINE. 株式会社OSA (2013年7月20日). 2022年12月1日閲覧。
  12. ^ a b STAFF&CAST”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 火要鎮. 2021年2月13日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g GAMBO”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  14. ^ a b STAFF&CAST”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. GAMBO. 2021年2月13日閲覧。
  15. ^ a b c d 武器よさらば”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 2022年12月1日閲覧。
  16. ^ a b c d e STAFF&CAST”. 映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト. 武器よさらば. 2021年2月13日閲覧。
  17. ^ 『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』映画とゲームがワンパッケージになって登場決定”. ファミ通. KADOKAWA (2013年9月19日). 2022年11月29日閲覧。
  18. ^ a b c 大友克洋監督らが「日本」をテーマに作ったオムニバス映画「SHORT PEACE」製作発表会見”. GIGAZINE. 株式会社OSA (2013年3月22日). 2022年12月1日閲覧。
  19. ^ 宮崎駿監督『風立ちぬ』が今年最高のオープニング! 順風満帆の1位スタート!”. シネマトゥデイ. 株式会社シネマトゥデイ (2013年7月23日). 2022年12月1日閲覧。
  20. ^ アニメーション部門|大賞”. 第16回文化庁メディア芸術祭. 2013年3月23日閲覧。[リンク切れ]
  21. ^ 毎日映画コンクール:大友克洋監督と「おおかみこども」の細田守監督ら受賞者が喜びの声”. MANTANWEB. 2021年7月17日閲覧。
  22. ^ アニメーション部門|審査委員会推薦作品”. 第16回文化庁メディア芸術祭. 2013年3月23日閲覧。[リンク切れ]
  23. ^ アカデミー賞短編アニメ賞に森田修平監督『九十九』がノミネート!【第86回アカデミー賞】”. シネマトゥデイ. 2015年5月6日閲覧。





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