Last Labyrinth (ゲーム)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/25 16:19 UTC 版)
登場人物
- 主人公
- 車椅子に拘束された状態のプレイヤー。手元のスイッチを押すことで頭部のレーザーポインターが照射される[17]。
- カティア
- 声 - ステファニー・ヨーステン
- プレイヤーと共に館からの脱出を試みる少女。作中で名前が登場することはない[12]。
- ファントム
- 館に現れる、正体不明の仮面をつけた人物[12]。
音楽
『Last Labyrinth -Original Soundtrack-』 | |
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菊田裕樹、花岡拓也、半井香織 の サウンドトラック | |
リリース | |
ジャンル | ゲームサウンドトラック |
時間 |
本作の主題歌「Last Labyrinth」は菊田裕樹が作曲し、ヨーステンが歌唱している[30]。この主題歌は架空の言語で歌われており、発音にはヨーステンの母国語であるオランダ語の音の雰囲気を加えられた[27]。人選は架空の言語に日本語にない音が入っているようにするため日本人以外を選ぶこととなり、過去に髙橋と面識のあったヨーステンが選ばれた[28]。言語のイントネーションはヨーステンの裁量で決められた[31]。ヨーステンは創作言語ゆえに歌詞の暗記が課題だったと述べ[32]、髙橋は歌詞についてゲームに関連したものではあると述べたものの、内容に関しては非公開としている[33]。菊田は架空の言語で制作することについて驚いたと振り返っている[27]。このメインテーマは2019年11月29日に配信限定でリリースされた[34]。
菊田への依頼は髙橋が『双界儀』など菊田の作品のファンだったことによる[33]。2018年9月4日にダイレクトメールで菊田にオファーを出したところ、菊田が関心を持ったため一週間後に打ち合わせすることが決まった[35]。髙橋の菊田への依頼は、テーマ曲の制作とボーカルの入るものにすることだけだった[33]。またこの時コンセプトを、“どこかでみたことがあるが、どこでもない世界”と説明された[35]。最初の打ち合わせの際に菊田の中で楽曲のイメージが作られ、その翌週には楽曲のラフのサウンドファイルが送付されたと髙橋は振り返っている[33]。このデモンストレーション版はデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)にてデータ入力されており、サウンドトラックに収録されている[35]。元々はテーマ曲マキシシングルCDとして限定版に収録される予定だったが、2020年11月19日にオリジナルサウンドトラックに変更された[36]。
# | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 時間 |
---|---|---|---|---|---|
1. | 「Last Labyrinth-Main Theme」 | Hiromichi Takahashi | Hiroki Kikuta | ||
2. | 「Jingle 1(First Encounter)」 | Takuya Hanaoka | |||
3. | 「Last Labyrinth(Bossa Lounge Floating Petals Mix)」 | Kaori Nakabai from Berens | |||
4. | 「Jingle 2(Solution)」 | Hiroki Kikuta | Takuya Hanaoka | ||
5. | 「Last Labyrinth(Tetsuju-kaika Arrangement)」 | Takuya Hanaoka from Berens | |||
6. | 「Jingle 3(Toy Piano)」 | Hiroki Kikuta | Takuya Hanaoka | ||
7. | 「Last Labyrinth(Demo Version)」 | Hiroki Kikuta | Hiroki Kikuta | ||
8. | 「Last Labyrinth(Katia's Humming)」 | Hiromichi Takahashi | Hiroki Kikuta |
開発
本作は2008年の起業からモバイルゲームでの開発ノウハウを蓄積してきたあまたが、ハイエンド商品の制作に取り組む一環で開発された[37]。最初の企画は2015年の秋に立てられ[37]、2016年の東京ゲームショウにて初公開された[23]。
ハイエンドの制作で髙橋が関心を持っていた技術であるVRで本作の制作が始まった[37]。髙橋は経営面においてデベロッパーとして技術面をアピールする機会を作りたいという考えと、クリエイターとして新しいデバイスを用いた表現の制作に挑戦したいという考えを述べている[23]。またVRの制作では2画面分のレンダリングのためにフレームレートを維持できるよう、高度なチューニングが必要なことから、技術力の証明になると髙橋は考えた[37]。Facebook Reality Labsコンテンツエコシステムディレクターのクリス・プルエットは、髙橋をVRに適正を持つ開発者として声を掛けたと、2021年のファミ通のインタビューで述べている[38]。参加スタッフは、かつてソニー・インタラクティブエンタテインメントに所属していた人物が多い[39]。
本作はVR初心者や謎解きを好むプレイヤーに向けて作られた[40]。髙橋はハイエンドな商品を作るだけでなく、独自の体験をユーザーに提供したいと考えていた[37]。髙橋は自身の好みにプレイヤーがプレイヤーのまま体感し、それにパートナーとなるキャラクターが付随するゲームがあると述べ、その中で仮想のキャラクターとのコミュニケーションをVRモジュールを用いて描くことが最初のコンセプトとして存在した[23]。そのため開発初期では主人公は電動車椅子で自由に動けることが想定されたが、その分カティアとのコミュニケーションという要素が弱くなることや、自分が動けないことのもどかしさによってカティアとの関係性を強めることができるという観点から、移動さえカティアに依存する形になった[25]。また、アニメーションを活用する観点から人型のキャラクターと協力して謎解きを行う形となった[20]。当初はカティアが7つ道具を用いてプレイヤーと脱出するゲームだった[33]。ただ死の要素が加わったことにより、現在の形に落ち着いたとされる[33]。元々は髙橋とキャラクターアーティストの田中達麻の2名で制作が進められた[33]。東京ゲームショウで初公開された2016年は、VR元年と呼ばれる、VRゲームが盛り上がりを見せた年でもあった[23]。当時はどういった形でアウトプットするかは決まっておらず、またプレイにはフットペダルを用いるものだった[23]。また2016年当時は、VRゲームの市場が立ち上がるところだったため、操作を単純化して没入へのハードルを下げる意図があった[25]。本作は髙橋によると、できることを減らして作られたゲームの中でも顕著だった[25]。
アニメーション
日本の小規模なゲームスタジオで現実に存在するようなモデルを制作するには、予算や期間が不足していた[41]。そこで本作は、アニメーションを担当した福山敦子の手法を活かしたものにすることとなった[42]。その際最初にアニメーションを手で制作してから、足りない部分をモーションキャプチャーで補う方法が用いられた[42]。これとカティアとのコミュニケーションによってカティアを生き生きと表現でき、またカティアが死亡した際の表現がプレイヤーにとってショッキングなものになったと髙橋は述べている[43]。カティアの動作について、言葉を用いずにヒトとコミュニケーションを取るネコをイメージしたと福山は語っている[28]。また、福山自身が『ICO』や『ワンダと巨像』に影響を受けたとも述べている[28]。
制作は福山がエンジニアとブレインストーミングで出したアイデアを仕様書に落とし込み、エンジニアチームの実装を受けてアニメーションで最終調整をするという流れを繰り返して進められていた[42]。Mayaのブレンドツリーでアニメーションの素材を制作し、キャラクターの移動はUnityのナビメッシュを利用した[42]。最終的にはshort Locomotionを利用したものとなったが、キャラクター動きはそのままで回転と移動をプログラムで制御する形で進められた[42]。モーションキャプチャーではIKINEMA Orionを利用した[42]。これは元々HTC Viveを所持していたことと手軽なキャプチャーが取れることに加え、キャラクターの移動距離が記録されることが理由に挙げられている[42]。
コンピュータグラフィックスでアニメーターがキャラクターを動作させる仕組みとしては、テクニカルアーティストのアレクシス・ブロードヘッドによるとリギングとなっている[44]。その際に各クリエイターが自身が使いやすいカスタマイズができるようにスイッチング機能と、シームレスな制作を可能にするためマッチングツールを制作した[44]。
キャラクターデザイン
カティアについてはプレイヤーより非力で守るべき存在として描かれており、家庭用VR機器の推奨年齢が12歳程度であることを意識して考案された[20]。カティアがプレイヤーの指示によって死の危機に瀕することで、プレイヤーの罪悪感や喪失感といった感情を喚起することや、もどかしさを感じさせることを目的としている[20]。東京ゲームショウでのプロトタイプを提示するためにキャラクターデザインを社内で決めた際、存在感を出すために田中が3Dからキャラクターを作っていた[33]。元々のモデルは緑色の髪に白い服だった[33]。これは日本のゲームタイトルだと一目で判別がつくように、日本のアニメで見られるような風貌にしたと説明されている[41]。髙橋がピンクのブーツを履かせようとしたところ、チーム内で髪とブーツの色の組み合わせが不評だったため、バランスを取るためにリボンを付けるなどの変更を行った[33]。これらの色の組み合わせによって、カティアをアイコンで認識できるようにデザインされた[41]。プロポーションはVR独自の課題として、モニターとVRで見え方が異なる課題があった[23]。そのためある程度アニメ的なキャラクターデザインを意識したものの、細すぎることによる違和感をなくすためにモニターとヘッドセットの見え方を確認し、調整を重ねた[23]。またプレイヤーとのアイコンタクトのタイミングや表情を伺うところ、微笑みなどによって、カティアがプレイヤーに愛着を持ってもらえるように努めたと髙橋は述べている[23]。
ファントムについては、館に似合う謎の人物をイメージして作られた[33]。また、どうぶつしょうぎでファントムが苛立つ動作などに力が入れられている[33]。ファントムは負傷したような動作をするが、これは自身の身体を使いこなせていないためだと説明されている[33]。一方で、怖さに力を入れたキャラクターのつもりはなかったと、キャラクターアーティストのキミア・タバリは説明している[27]。
演出
VRの性質上、プレイヤーの主観という制約がある[20]。そのため、カメラワークとカット割りが使えず、逆に効果音とライティングは有効だった[20]。またBGMとジャンプスケアは使いどころを考える必要はあるものの、タイミングや誘導によって使えることが分かったと述べている[20]。そこで本作での恐怖演出は、ゲームデザインでの下準備と既知の恐怖演出と逆の演出を利用する2つのアプローチを行った[20]。前者は没入感の獲得のためのシンプルな操作性と、視点誘導を目的として身体を動かせる範囲の制限を付与し、これによって3D酔いも発生しづらくなったとしている[20]。1500人にVR機器を被せてもプレイ後の不快感を訴える人が居なかったことを髙橋は述べている[25]。また部屋のレイアウトの中で重要なものは正面140度、中でも重要なものや演出は正面100度の中に収めることによって、プレイヤーの視点誘導を行った[20]。後者はプレイヤーの感情移入を意識したものとなっている[20]。前述の制限からジャンプスケアとBGMも利用しない方向となり、死ぬまでのギミックを見せることによってプレイヤーに緊張感を失わなせず、想像力を刺激するものを意識して制作した[20]。そのためカティアが本当に死亡したか分からない表現となっており、プレイヤーの死も直前でブラックアウトする形を取っている[20]。同じ理由で、キャラクターが死亡するギミックのうち、頭部に鋭利なものが刺さるなどの人体損壊があるものは候補から外された[45]。一方で、錯覚を理由に元々Oculusのレーティングが16歳以上推奨の“16+”だったものが、途中から18歳以上推奨の“18+”に変更された[23]。
体格の大きいファントムが小さなカティアに対して行う仕打ちは、制作したブロードヘッドが複雑な思いではあったものの、プレイヤーが恐怖するように尽力したと述べている[27]。福山はカティアを役者として捉えていたため、カティアが悲惨な目に遭うことについて、プレイヤーが悲惨さを感じるように制作したと述べている[28]。
ギミック
謎解きは全員で考えるとしつつもレベルデザイナーが中心となり、最後は髙橋の判断によって使用するか否かが決められた[33]。企画段階では良さそうな罠が実際に作ってみると思っていたものと違ったり、レベルデザイナーが罠やパズルを中心に考えてしまったため、部屋のレイアウトを考えていないことが多かった[33]。またプレイヤーやカティアの死に方については全員でアイデアを出したが、自分が体験してみたい死に方という観点でアイデアが出された[33]。罠と謎解きは必ずどちらかから先に作られるわけではなかった[33]。髙橋はアイデアのために個人でリアル脱出ゲームに参加したが、リアル脱出ゲームでは謎の中に記号を用いることが多いため、チームでは参加しなかったと述べている[28]。アイデアの抽出の中では、最初に処理が重くなる透明な水を用いるものが没になり、生物を用いたものでも同じ理由で除外されたものがあった[45]。レベルデザイナーである2人から出た案が堅実で採用率が高かったと、リードエンバイロメントアーティストの草場美智子は後に振り返っている[45]。
効果音
効果音を制作した花岡拓也によると、環境音は仕掛けの材質や機構などを理解したうえで制作された[27]。罠の音の中にはジュースミキサーや[46]、掃除機などの電化製品の音を加工したもの、歯科医の使用するドリルもあった[27]。またゲームとして人の嫌がる音を作る必要があるため花岡は音楽家としてせめぎあいがあったと述べ、また不協和音を作るよう髙橋から要望が上がった[27]。基本的には素材集から効果音を使用したが、木馬は花岡の自宅で録音された[45]。
キャラクターAI
本作でプレイヤーをサポートするカティアの動作は、あくまでプレイヤーの操作の邪魔にならない程度のものにする必要があった[44]。そのためカティアの自発的な行動は隠しパラメータとして、3Dのオブジェクトに対する興味度合いを各オブジェクトに設定し、それが規定値を上回るとカティアが行動するようにするものに留めた[44]。
注釈
出典
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