脱出術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 13:57 UTC 版)
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拘束具をつけられたり、閉鎖空間に閉じこめられた人間が脱出してみせるという演技は、長い時間をかけて演者たちによって培われてきた技術でもある。もともと脱出術単体で演じられていたわけではなく、消失や変身のような奇跡的な現象を実現するために、その背後でつかわれてきた技術である[1]。
1860年代には、体を縛っている縄をほどく技を持っていたダベンポート兄弟が、自分たちは拘束されているという印象を持たせながらその裏でこの脱出術を使っていたことで有名である。しかし当時の彼らは自分たちは奇術ではなく心霊現象を実現してみせるというスタイルであった[2]。ジョン・ネヴィル・マスケラインのような奇術師が、ダベンポート兄弟が脱出術を駆使していることを見抜いて現象を再現してみせ、兄弟が超自然的な力を持っているという主張を論破した。ただしこの「再現」は公開の場で実際に脱出術をみせたわけではなく、その現象を言葉で説明して「脱出」は心霊術ではなく奇術師の秘技によって達成されたと論じただけだった。
それからさらに30年経って、ようやく純粋に脱出術だけが人前で演じられるようになった。脱出術をエンターテイメントとして認知させた人物として真っ先に名が挙がるのが、ハリー・フーディニである。彼は大がかりな拘束具や脱出困難な状況をいくつも考案し、そこから脱出してみせることでその名を高めた[3]。
フーディニは、自分が拘束具の扱いに長けているということや脱出には必要な技術があるということを隠さなかったが、その詳細について詳しくは語らず、ミステリアスな雰囲気や観客の緊張感、不安感を大事にした。彼の脱出術は主に錠前破りや体の柔軟さで成り立っていたが、一方でそれを駆使して「メタモルフォシス」(人体交換)や「中国の水責め箱」のようなステージ・マジックも得意としていた(これらは本質的には巧妙にデザインされた小道具によって成り立つ、古典的な演目でもあった)。脱出術の基本的なレパートリーが整理されたのはフーディニの功績ともいえる。例えば、手錠、錠前、拘束衣、郵便かばん[4]、ビール樽、牢屋などである。
「脱出術」に当たる英語そのものは、フーディニと同時代に活躍した、オーストラリアのノーマン・マレー・ウォルタースの造語だとされている。
脱出術は時代を超えたマジックの演目となり、古典にさまざまな着想や変化形が生まれているが、当代において最もすぐれたパフォーマンスをみせたマジシャンでさえ、「現代のフーディニ」と呼ばれることが当たり前になっている。
16世紀のニコラス・オーウェンは幽閉されていたロンドン塔からの脱出に成功し、2人のイエズス会士の仲間を牢獄から脱出させる手はずをとったため、脱出術を得意とするカトリックのマジシャンからは守護聖人として大事にされている。オーウェンはドン・ボスコと並んで、カトリックのゴスペル・マジック(マジックを利用して神のメッセージを伝えるジャンル)のパフォーマーにとっても大事な守護聖人である。
日本では、正徳2年(1712年)成立の『和漢三才図会』に「籠脱(かごぬけ)』として記載されている他(同時代では「釜抜け術」などもある。詳細は「和妻」を参照)、軍学書『甲陽軍鑑』巻四品第七において、武田信玄の軍配者である小笠原源与斎が風呂の中に入り、人々に上から蓋を押さえさせ、知らぬ間に脱出していたという記述(これは消失マジックにも当たる)があり、認識は古くからみられる。
組織
2004年には、イギリスのエスケープ・アーティストの認知度向上と国内の脱出術の保存を行うイギリス脱出術師協会(The United Kingdom Escape Artists) が結成された。構成メンバーは、プロのマジシャン、拘束具の収集家、熟練の錠前師、歴史学者であり、年次で総会を開いている[5]。
国際脱出術師協会(The International Escapologists Society)は主にオンラインで活動する団体で、国際的な水準で脱出術を取り扱う会報を月刊で発行している[6]。
エスケープ・マスターズ(脱出術師国際連盟)は有名なマジシャンであるノーマン・ビゲロウによって1985年に設立された。この組織の最上位にはトーマス・ブラックが就任し、組織運営および2001年からは会誌の編集発行も行っている。
- ^ Dawes, Edwin A (1979), The Great Illusionists, Chartwell Books (New Jersey), p. 193, ISBN 0-89009-240-0
- ^ Dawes, 'The Great Illusionists', p. 157.
- ^ Dawes, 'The Great Illusionists', p. 193.
- ^ Cannell, J. C. (1973). The Secrets of Houdini. New York: Dover Publications. pp. 36–41. ISBN 0486229130 2012年8月17日閲覧。 ISBN 9780486229133
- ^ [1] Archived 2013-04-11 at the Wayback Machine.
- ^ “Home - T.I.E.S”. Tiesociety.webs.com. 2017年2月26日閲覧。
- ^ “Burning Rope Escapologist - British Pathé”. Britishpathe.com (2014年4月18日). 2017年2月26日閲覧。
- ^ Glenday, Craig (2013). Guinness Book of World Records 2014. p. 89. ISBN 9781908843159
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- 4 関連項目
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