筋病理学 筋線維の病理学的変化

筋病理学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/15 00:04 UTC 版)

筋線維の病理学的変化

筋線維の大小不同

小さい線維や大きい線維が多数存在する場合を筋線維の大小不同という。筋線維の大小不同に規則性がなく、広範であれば筋原性疾患であることが多い。

小角化線維

多角形を失い正常よりも小さく三角形になった筋線維を小角化線維という。これは通常では存在しない。線維があって、群委縮の所見があれば神経性疾患であることが多い。

濃染線維

小さな多角性の線維を背景にして、はっきりとした円形をし、クロマチンにとむ特徴をもつ。筋ジストロフィーで高頻度に認められる。

肥大

筋線維が大きくなりそれによりしばしば多角形を失う。肥大線維は代償性の変化であり、しばしば中心核やスプリッティングを伴う。

萎縮

萎縮線維は筋疾患では丸みを帯びて、神経原性変化では角ばっている。萎縮の最終段階では核袋となり筋原線維基質を大きく退けた筋細胞内の核凝集が認められる。この段階では神経原性、筋原性の区別はない。萎縮線維を確認する場合はその分布が重要である。不規則か、どのような集団をなしているかである。繊維束萎縮や群集萎縮は脱神経の特徴であり萎縮線維が筋束の一部をなして集簇する。筋束周辺萎縮は萎縮線維が筋束の端にならび、萎縮の程度は縁に近いほど強い。筋束周辺萎縮は皮膚筋炎で認められる。不規則に散在した萎縮線維は特異な疾患の特徴ではなく、両方の筋線維のタイプを含むときは脱神経の初期段階をしめす。筋線維のタイプごとの萎縮もある。タイプ1線維萎縮は通常は筋強直性ジストロフィー先天性ミオパチーで認められる。発育障害の結果と考えられる。タイプ2線維萎縮は高頻度に認められ廃用、慢性疾患、ステロイド治療など様々な状態と起こる。

筋線維タイプの優位性と欠損

筋線維の比率は筋毎に異なる。しかし三角筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、腓腹筋ではタイプ1線維、タイプ2線維どちらでも55%を超えたら優位性の異常である。タイプ1優位性は先天性ミオパチーで、タイプ2優位性は筋萎縮性側索硬化症で認められる。

間質の変化

サルコイドーシス、アミロイドーシス、血管炎などの診断につながることもある。筋内膜の線維化は筋ジストロフィーを示唆する。筋ジストロフィーや炎症性筋疾患では炎症細胞浸潤が認められる。どんな疾患でも最終段階は筋組織が線維結合組織や脂肪組織に置き換わる。

核の異常

中心核(内在核)が筋線維の5%以上に認められれば異常である。再生段階にある筋はしばしば中心核をもつ。核内封入体は封入体筋炎や眼咽頭筋型ジストロフィーといった疾患で認められる。

分割線維

肥大線維で認められる。筋腱移行部では病的意義はない。

壊死線維

壊死線維はHE染色で細胞質が均一化し、ガラス様になり淡くそまる。縦断像では横紋が消失する。筋線維に徐々に空砲ができ、炎症細胞が基底膜を超えて浸潤する。筋細管内にマクロファージやTリンパ球が浸潤し、筋線維の知覚から再生筋芽細胞が出現する。最終的には血管周囲の炎症細胞が移る。線維の変性は筋ジストロフィーや炎症性筋疾患、中毒性筋疾患が特徴である。壊死線維、変性線維は神経原性筋萎縮の最終段階としては認められることもあるが、原則は筋疾患を示唆する。

好塩基性線維

再生筋線維のことでRNAが豊富である。

ターゲット線維

ターゲット線維は正常標本でも、とくにNADH-TRではよく認められる。ターゲット線維はタイプ1線維であることがほとんどであり、中心に酵素活性を欠き、色がぬける。その外側は酸化酵素が豊富で環状にくらくなる。さらにその周囲は正常という構造であり、脱神経で認められる。外側が暗くならない場合は類ターゲット線維という。この場合は脱神経の特異度は低い。

空胞 vacuole
非ライソゾーム蓄積病

McArdle病の糖原やカルニチン欠損症の脂肪がこれにあたる。

ライソゾーム蓄積病の空砲

酸ホスファターゼ染色や蓄積物により見分ける。

ライソゾームが高活性化した自己貪食空砲

酸ホスファターゼ染色により明らかになる。

縁取り空胞 rimmed vacuole

封入体筋炎で認められる。周囲は顆粒状でHE染色では好塩基性、Gomoriトリクロームでは赤くなり、電子顕微鏡では、膜の残屑や中間フィラメントより構成されているのを認める。

周期性四肢麻痺において内膜組織の拡張により生じた空胞
筋原線維の欠損による空胞
赤色ぼろ線維 ragged red fiber

筋内膜下や筋原線維間に集塊で存在し、ミトコンドリア筋症に目立つ。Gomoriトリクロームでは赤く、HE染色では青い。主に異常なミトコンドリアからなり酸化酵素を多く含み、そのためNADH-TRやSDH染色で濃染する。超微構造では糖原や特に脂肪の蓄積を認める。60歳未満で認められればミトコンドリア筋症を強く示唆するが高齢者ではミトコンドリア以外の障害でも赤色ぼろ線維を散見する。また赤色ぼろ線維がなくともミトコンドリア病を否定出来ない。

管状物質集積

低カリウム性周期性四肢麻痺に認められる。

筋原性と神経原性の鑑別

筋病理における神経原性、筋原性の鑑別点をまとめる。神経原性変化で重要な所見はgroup atrophyとfiber type groupingの2つだけである。筋原性変化を示す所見は多数知られている。筋線維の壊死・再生、コアなど筋線維の変化、筋核の変化、ネマリン小体などの封入体、タイプ1線維萎縮、タイプ1線維優位、内鞘へのリンパ球浸潤などがあげられる。近年は神経原性変化と筋原性変化の区別を筋病理では行わなくなった。

筋原性 神経原性
相当な大小不同 巣状の萎縮線維
円形線維 角化線維
核の増加 筋細胞質の萎縮による核のみかけの増加
筋鞘内核 筋鞘内核を認めない
壊死再生筋線維あり 壊死再生筋線維なし
収縮蛋白の筋細胞質内における変化 ターゲット線維
間質の線維化が目立つ 間質の線維化が乏しい
炎症細胞浸潤あり 炎症細胞浸潤なし

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