第VIII因子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 06:14 UTC 版)
遺伝学
第VIII因子は、1984年にジェネンテックの科学者によって特徴が明らかにされた[12]。第VIII因子の遺伝子はX染色体 (Xq28) に位置している。第VIII因子の遺伝子は、イントロンの1つに別の遺伝子が埋め込まれているという、興味深い一次構造を持つ[13]。
構造
第VIII因子は、A1-A2-B-A3-C1-C2という6つのドメインから構成され、第V因子と相同である。
Aドメインは、銅結合タンパク質のセルロプラスミンのAドメインと相同である[14]。 Cドメインはリン脂質結合性のディスコイジンドメインファミリーに属し、C2ドメインは膜への結合を担う[15]。
第VIII因子からVIIIa因子への活性化は、Bドメインの切断と放出によって行われる。その結果、タンパク質はA1-A2ドメインからなる重鎖とA3-C1-C2ドメインからなる軽鎖に分割され、双方はカルシウム依存的に非共有結合性の複合体を形成する。この複合体が凝固促進因子VIIIaである[16]。
生理学
第VIII因子は糖タンパク質であり、補因子前駆体である。ヒトにおける血流への放出の主要部位は正確には判っていないものの、血管と糸球体と尿細管の内皮細胞、肝臓の類洞細胞で合成され血流へ放出される[17]。遺伝子異常によって第VIII因子が作れないために起こる血友病Aは、肝移植によって回復することが知られている[18]。肝細胞の移植は効果がないが、肝臓の内皮細胞の移植は効果がある[18]。このように肝臓が第VIII因子の産生に強く関与しているように見える。しかしながら、肝臓が機能低下すると、一般に肝臓で合成されるタンパク質も量が減ってくるのに対して、第VIII因子は肝臓病の影響を受けない。むしろ、肝臓が機能低下した状況下では、第VIII因子の血漿中の濃度は、多くの場合で上昇している[19][20]。
第VIII因子は、血中で主にvon Willebrand因子と安定な非共有結合性の複合体を形成して循環する[5]。トロンビン (第IIa因子) による活性化に伴い、第VIII因子は第VIIIa因子に変換されて、この複合体から解離し、第IXa因子と相互作用する。第VIIIa因子は第IXa因子の補因子として第X因子の活性化に関与する。第X因子が活性化された第Xa因子は、第Va因子の補因子としてより多くのトロンビンを活性化する。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンへ切断し、フィブリンは多量体化し第XIII因子によって架橋されて、これが血球を絡め捕ることで血栓が形成される。
活性化されたVIII因子はvon Willebrand因子によって保護されていないので、主に活性化されたプロテインCと第IXa因子によるタンパク質分解によって不活性化され、血流中から素早く除去される。これによって血液凝固反応が異常に亢進することを防いでいる。
第VIII因子は銅結合タンパク質である一方、銅の欠乏は第VIII因子の活性の増大をもたらすことが報告されており、これはプロテインCの活性が相対的に低下するためと推測されている[21]。
医療における利用
献血由来の血漿から濃縮することによって製造された第VIII因子製剤か、もしくは遺伝子組換え第VIII因子製剤が、血友病A患者の血液凝固能を保つため、対症療法として繰り返し静脈内投与される。つまり、第VIII因子が不足しているため、その補充療法を定期的に行っているのである。
しかしながら、献血由来の血漿から濃縮することによって製造された第VIII因子製剤の場合は、ヒト由来の血液製剤であるため、HIVウイルスなどが潜んでいる可能性があり、補充療法を受けた患者は、血液によって感染する様々な感染症にかかる危険性がある。例えば薬害エイズ事件がこれである。この点において、ヒトの血液に由来しない遺伝子組換え型第VII因子製剤は安全と言える。
ただし、いずれの第VIII因子製剤も血友病A患者にとっては異物であるため、投与された第VIII因子に対する抗体が形成されるという事態が起こり得る。この抗体形成が、第VIII因子補充療法を受けている患者にとって、主要な懸念事項となっている。抗体が形成されると、第VIII因子を補充しても次々と抗体によって不活化され、効かなくなってゆくからである。このような抗体の発生は、第VIII因子製剤自体を含むさまざまな因子が原因となって形成される[22]。
なお、このようなこともあり、特に低いながらも第VIII因子産生能力を持った血友病Aの軽症患者の場合は、第VIII因子の放出を促進する作用を持ったデスモプレシンを投与することもある。
注釈
出典
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