真昼の暗黒 (映画) 製作

真昼の暗黒 (映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 04:05 UTC 版)

製作

本作を企画したのはプロデューサーの山田典吾である[2]。当時八海事件の刑事裁判は、一審・二審ともに全員有罪の判決が下り、植村のモデルとなった阿藤周平が最高裁判所への上告に際して正木ひろしに弁護を依頼、正木は調書を読んで阿藤が無罪であると判断した上で、弁護の傍ら本作の原作となった『裁判官』を上梓していた[3]。山田は監督に起用した今井と相談して、橋本忍に脚本を依頼する[2]。これは橋本が、芥川龍之介の『藪の中』を原作とした『羅生門』の脚本を執筆しており、本作もこれらの作品同様「(見方によって意見が食い違うため)真相が不明」なので疑わしきは罰せずの原則に従い主人公は無罪、という結末にする目算を立てていたためだった[2]。橋本を加えた3名は、八海事件の現地に赴いて事件現場までの所要時間を計測するなどの「実地検証」をおこなった[2]。橋本は鹿沢温泉の旅館に籠もり、裁判調書をもとに40日でシナリオを書き上げる[2][4]。脱稿後に橋本は山田と今井に向かって「はっきりと、『絶対に無罪』という線で行きたい」と述べ、最終的に二人は「もし有罪だったら二度と映画は作らない」という覚悟を決めてそれを受け入れた[2]。橋本の当初のタイトルは『白と黒』だったが、ケストラーの小説にある「虚偽の自白で死刑になる」という要素の一致により借用が決まった[5]

作中ではシナリオハンティングでの調査結果も活用する形で、検察側の主張する「犯行の所要時間は50分」が現実離れしていることを、再現する俳優たちの動きを早回しでコミカルに描写する演出(これは弁護側の反対尋問の一環として出てくる)もなされている[5]

最高裁判所は山田と今井に直接製作の中止を求め、完成すると配給予定の東映にも圧力をかけた[5]。この結果東映以外の大手映画会社も配給を見送る事態となり、自主上映を余儀なくされたが、いずれの会場も大入りとなった[5]

最高裁の「圧力」

1955年1月18日に、最高裁判所事務総長五鬼上堅磐事務総局情報課(現・広報課)長・矢崎憲正を通じてプロデューサーの山田に、「最高裁判所としては、現に最高裁判所に係属しておる事件の映画化は賛成できない旨」を告げる。山田はこれに対し、「映画化をやめるわけにはいかないので、映画化は進める」と答えた[6]

同年11月22日映画倫理委員会(映倫)の荒田正男に対して、矢崎が「係属中の事件を一方のみの立場に立って映画化し、裁判所の事実認定を非難するようなやり方は、いまだかつて聞いたこともないし、また法律文化の点からいっても映画倫理規定の面から言っても十分に考慮していただきたい」旨伝えた。同日午後5時ごろ、山田と今井は、最高裁に矢崎をたずね、「脚本の不都合と思われる点を指摘してほしい」と申し出るが、矢崎は、「係属中の事件を映画化しているという点に賛成していない」ため、「脚本の内容いかんを問わない」と応じた[6]


  1. ^ 発電、送電、配電関係労組で作る産別労組の一つで、日本電気(NEC)は無関係
  2. ^ a b c d e f 村井、2005年、pp.73 - 75
  3. ^ 村井、2005年、p.72
  4. ^ 橋本は正木の著書については「あれ自体は映画にならないね」と述べている。
  5. ^ a b c d 村井、2005年、pp.79 - 81
  6. ^ a b 第24回国会参議院法務委員会 第10号会議録
  7. ^ 前坂俊之『冤罪と誤判』 田畑書店、1982年 [要ページ番号]
  8. ^ 出頭した日付は、前坂(1982年)では「3月25日」、1956年の参議院法務委員会における政府委員等の説明(4月10日および4月24日)では「3月20日」とある。
  9. ^ 第24回国会参議院法務委員会 第13号会議録
  10. ^ 第24回国会参議院本会議 第36号会議録
  11. ^ 第26回国会衆議院法務委員会公聴会 第1号会議録
  12. ^ 村井、2005年、p.66
  13. ^ 村井、2005年、p.82
  14. ^ 民事裁判は上告してもほとんどが三行決定で棄却され、控訴審判決が事実上の終審となっている





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