白居易 日本への影響

白居易

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 03:57 UTC 版)

日本への影響

白居易の詩は中国国内のみならず、日本や朝鮮のような周辺諸国の人々にまで愛好され、日本には白居易存命中の承和5年(838年)に当時の大宰少弐であった藤原岳守が唐の商人の荷物から“元白詩集”(元稹と白居易の詩集)を見つけてこれを入手して仁明天皇に献上したところ、褒賞として従五位上に叙せられ[25]、同11年(844年)には留学僧恵萼により67巻本の『白氏文集』が伝来している。平安文学に多大な影響を与え、その中でも閑適・感傷の詩が受け入れられた。菅原道真の漢詩が白居易と比較されたことや、紫式部上東門院彰子に教授した(『紫式部日記』より)という事実のほか、当時の文学作品においても、清少納言は『枕草子』にて「文は文集[26]、文選、はかせの申文」と述べ、紫式部は『源氏物語』「桐壺の巻」のほとんど全般にわたり、白居易の「長恨歌」から材を仰いでいることなどからも、当時の貴族社会に広く浸透していたことがうかがえる[27]。白居易自身も日本での自作の評判を知っていたという[28]。また、彼の作品は彼の死後も日本で愛された。1013年頃に日本で成立した『和漢朗詠集』には、漢詩句588首のうち、彼の作品は136句あり、詩句では最多である。次の作品編では、『和漢朗詠集』にもある作品を取り上げている。彼の詩が解りやすい表現で書かれているということはそこで確認してみてほしい。

平安朝の日本でこれだけ白居易がもてはやされたのにはいくつかの原因が考えられるが、佐藤一郎は「やはり平易な作風を挙げないわけにはいかない[29]」と評している。原因の第二には平安朝の宮廷人たちの、ひとつの理想が白居易の生涯であること。天子にその能力を見出されて比較的低い階層から、しかるべき地位に昇進したことは、ごく少数の家格の貴族以外には、やはり希望を抱かせるに足る官僚としての生き方であった。第三には『白氏文集』が平安貴族たちにとって、一種の百科事典のような役割を果たしていたことが考えられる。この白居易の詩文集には、あまり極端な片寄りがなく、ほぼ詩文のあらゆるジャンルとあらゆる題材を、観念的にではなく取り上げているからである。第四には日本の詩歌と同じく『白氏文集』には雪月花が多く主題となっていること。第五には白居易は平安貴族と同じく仏教信者であるとともに風流人であり、もののあはれの精神の理解者であることが挙げられる[30]


  1. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、13頁。 
  2. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、18頁。 
  3. ^ 陳寅恪 『元白詩箋證稿』上海古籍出版社、1978年、307-308頁。 
  4. ^ 姚薇元 『北朝胡姓考』中華書局、1962年、374-376頁。 
  5. ^ 魏長洪 『白居易祖籍新疆庫車摭談』〈新疆大學學報〉1983年、107-113頁。 
  6. ^ 劉学銚 『中國文化史講稿』昭明出版社、2005年、342頁。ISBN 9867640659https://books.google.co.jp/books?id=FTe9rljMYtoC&pg=PA342&lpg=PA342#v=onepage&q&f=false 
  7. ^ 劉学銚 『胡馬渡陰山:活躍於漢人歷史的異族』知書房出版集團、2004年、12頁。ISBN 978-986-7640-40-6https://books.google.co.jp/books?id=fuwdXASoxSkC&pg=PP12&redir_esc=y&hl=ja 
  8. ^ 林恩顕 『突厥研究』臺灣商務印書館、1988年、153頁。ISBN 978-957-05-0597-9https://books.google.co.jp/books?id=pOVTKhmW4oQC&pg=PT153&redir_esc=y&hl=ja 
  9. ^ 顧学頡 『白居易世系、家族考』中國社會出版社〈文學評論叢刊 第13輯〉、1982年、131-168頁。 
  10. ^ 陳三平 『木蘭與麒麟』八旗文化、2019年5月15日、211頁。ISBN 9789578654372https://www.google.co.jp/books/edition/木蘭與麒麟/AnMWEAAAQBAJ?hl=ja&gbpv=1&pg=PT211&printsec=frontcover 
  11. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、24頁。 
  12. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、26-27頁。 
  13. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、39頁。 
  14. ^ a b 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、45頁。 
  15. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、18頁。 
  16. ^ 下定雅弘 『白居易と柳宗元~混迷の世に正の讃歌を~』岩波現代全書、2015年4月17日、116頁。 
  17. ^ 他の脚注が付いているところ以外は、川合康三 『白楽天 官と隠のはざまで』岩波新書、2010年。 を参考にしている。
  18. ^ a b 『孟子』(巻十三・尽心章句上)
  19. ^ 長瀬由美 『源氏物語と平安朝漢文学』勉誠出版、2019年、第一章 白居易の文学と平安中期漢詩文。 
  20. ^ 渡辺秀夫 『平安朝文学と漢文世界』勉誠出版、1991年、改訂版2014年、144頁。 
  21. ^ 西村冨美子 『白楽天』角川書店〈中国の古典〉、1988年11月1日、411-412頁。ISBN 4045909184 
  22. ^ 西村冨美子 『白楽天』角川書店〈中国の古典〉、1988年11月1日、414-415頁。ISBN 4045909184 
  23. ^ 西村冨美子 『白楽天』角川書店〈中国の古典〉、1988年11月1日、412頁。ISBN 4045909184 
  24. ^ 西村冨美子 『白楽天』角川書店〈中国の古典〉、1988年11月1日、424頁。ISBN 4045909184 
  25. ^ 日本文徳天皇実録仁寿元年9月乙未条(藤原岳守死去の記事)
  26. ^ 『白氏文集』は「文集」と略称され、「文選」とともに平安貴族にもてはやされた
  27. ^ 佐藤一郎 『中国文学史』(3版第4刷発行)慶応義塾大学出版会株式会社、H26.2.20、121頁。 
  28. ^ 白氏文集巻71末尾の「白氏集後記」に白居易自身が「其日本、新羅諸国、及両京人家伝写者、不在此記」(其の日本・新羅諸国、及び両京人家に伝写せる者は、此の記に在らず)と記し、その後、別集『白氏文集』とは別に編まれた民間流布本を列挙する。ここから、日本に自作が伝わっていたことを知っていたことが分かる。更に「其文尽在大集内、録出別行於時若集内無、而仮名流伝者皆謬為耳」(其の文は尽く大集の内に在り、録出・別行、時に若し集内に無く、而も仮名流伝せる者は皆謬りと為すのみ)と偽作への注意を喚起している。当時の本は写本で非常に高価であり、わざわざ偽作への注意を促すほど民間流布本が流通していたと言うことは、当時非常な評判を取っており、それを白居易自身が知っていたことを意味する。
  29. ^ 佐藤一郎 『中国文学史』(3版第4刷発行)慶応義塾大学出版会株式会社、H26.2.20。 
  30. ^ 佐藤一郎 『中国文学史』(3版第4刷発行)慶応義塾大学出版会株式会社、H26.2.20、123頁。 
  31. ^ 「晩秋の一日、庭も掃かず、梧桐(あおぎり)の黄葉が散り敷いた中を、藤枝を手にしながらのんびりと歩く」、白氏文集(0684)、和漢朗詠集収載。
  32. ^ 「遺愛寺の鐘の音は枕を斜めにして聴く。香炉峯の雪はすだれははね上げて看る」、白氏文集(0978)、和漢朗詠集収載。
  33. ^ 川合康三 『白楽天―官と隠のはざまで』岩波書店、2010年1月、149頁。ISBN 4004312280 
  34. ^ a b 川合康三 『白楽天―官と隠のはざまで』岩波書店、2010年1月、152頁。ISBN 4004312280 
  35. ^ 川合康三 『白楽天―官と隠のはざまで』岩波書店、2010年1月、153頁。ISBN 4004312280 
  36. ^ 平岡武夫 『白居易』筑摩書房〈中国詩文選〉、1977年12月、125-131頁。ISBN 4480250174 
  37. ^ 平岡武夫 『白居易』筑摩書房〈中国詩文選〉、1977年12月、132頁。ISBN 4480250174 
  38. ^ 平岡武夫 『白居易』筑摩書房〈中国詩文選〉、1977年12月、150頁。ISBN 4480250174 
  39. ^ 栄新江, 森部豊「新出石刻史料から見たソグド人研究の動向」『関西大学東西学術研究所紀要』第44号、関西大学東西学術研究所、2011年4月、 143頁、 ISSN 02878151NAID 120005686621
  40. ^ 陳寅恪 『金明館叢稿初編』三聯書店、2001年、365-366頁。 






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