涼宮ハルヒの消失 (映画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/03 05:37 UTC 版)
沿革
2009年10月9日 - 新作アニメーション(2009年版『涼宮ハルヒの憂鬱』)最終回直後に『涼宮ハルヒの消失』の劇場版が2010年春に公開予定であることが発表される[52]。
2009年11月10日 - 『涼宮ハルヒの消失』が2010年2月6日に公開予定であることが発表される[53]。
2009年12月18日 - 公式HPにて『涼宮ハルヒの消失』のPVが公開される[54]。
2010年1月26日 - 『涼宮ハルヒの消失』の初号試写会が行われる[55]。
2010年2月6日 - 『涼宮ハルヒの消失』の劇場版公開が行われる[55]。また、新宿バルト9と池袋シネマサンシャインにてハルヒ役の平野綾、キョン役の杉田智和をはじめとするメインキャストら、監督の武本康弘、総監督の石原立也による初日舞台挨拶が行われる[8][7]。
2010年2月20日 - 京都シネマにて谷口役の白石稔、キャラクターデザイン兼超総作画監督の池田晶子、総作画監督の西屋太志、プロデューサーの伊藤敦による舞台挨拶が行われる[56]。
2010年3月6日 - 京成ローザ10にて長門役の茅原実里、みくる役の後藤邑子らメインキャスト4人による大ヒット御礼の舞台挨拶が行われる[56]。
スタッフ
- 原作・脚本協力 - 谷川流[57]
- 原作イラスト・キャラクター原案 - いとうのいぢ[57]
- 総監督 - 石原立也[57][注 2]
- 監督 - 武本康弘[57][注 2]
- 企画 - 安田猛[59]、嵐智史[59]、八田陽子[59]、酒匂暢彦[59]、井上俊次[59]
- 脚本 - 志茂文彦[57]
- 絵コンテ - 石原立也[60]、武本康弘[60]、高雄統子[60]
- 演出 - 北之原孝将[60]、米田光良[60]、坂本一也[60]、高雄統子[60]、山田尚子[60]、内海紘子[60]
- レイアウト監修 - 木上益治[60]
- キャラクターデザイン・超総作画監督 - 池田晶子[57]
- 総作画監督 - 西屋太志[36]
- 美術監督 - 田村せいき[59]
- 撮影監督 - 中上竜太[59]
- 設定 - 高橋博行[59]
- 色彩設計 - 石田奈央美[59]
- 編集 - 重村建吾[59]
- 音響監督 - 鶴岡陽太[59]
- 音響効果 - 森川永子[59]
- 録音 - 矢野さとし[59]
- 録音助手 - 砂庭舞[59]
- 音響制作担当 - 杉山好美[59]
- 録音スタジオ - Studio2010:[59]
- 音響制作 - 楽音舎[59]
- 音楽 - 神前暁[59]、高田龍一[61]、帆足圭吾[62]、石濱翔[62]、エリック・サティ[62]
- 音楽制作協力 - monaca[61]
- 音楽プロデューサー - 斎藤滋[59]
- 音楽制作 - ランティス[59]
- 制作プロデューサー - 大橋永晴[59]
- アシスタントプロデューサー - 山口真由美[59]
- プロデューサー - 伊藤敦[59]、八田英明[59]
- アニメーション制作 - 京都アニメーション[57]
- 配給・宣伝 - 角川書店[59]
- 製作 - SOS団[61](角川書店[62]、角川映画[62]、京都アニメーション[62]、クロックワークス[62]、ランティス[62])
制作
劇場版公開までの経緯
本作の制作会議はテレビアニメ第1期終了後の翌年である2007年6月から開始されており、元々はテレビシリーズでの放送が予定されていた[63]。2009年4月から放送された新作アニメーションの構成をする段階で本作を劇場版で公開するという話が出されており、2009年2月に配信された『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』の制作前には本作のシナリオが出来上がっている[64]。2009年8月にはキャラクターデザイン作業とロケハンが開始される[8]。同年10月に絵コンテが完成し、同年12月にアフレコと劇伴音楽の収録が行われる[8]。2010年1月に初号試写会が行われ、同年2月に公開されることとなる[8]。
総監督の石原立也は原作小説ではあちこちに「消失」を含むその後の展開への伏線があったため、テレビアニメシリーズ『涼宮ハルヒの憂鬱』の制作では原作にある伏線を必ず取り入れることを心がけた[65]。その中でも原作者の谷川流自身が脚本を担当した『サムデイ・イン・ザ・レイン』は本作を強く意識して作られたエピソードとなっている[65]。
コンセプト
監督の武本康弘は本作の制作前に主要スタッフを集めて作品の方向性を話し、そこで本作のコンセプトとして「キョンの決心と回帰の物語」を提案した[58]。コンセプトについて武本は以下のように語っている。
「決心」とは、物語の中でキョンが一人で放り出された時に、今まで見て見ぬふりをしてきた現実と向き合うということ。「回帰」とは、SOS団に帰るという望みや願い、その思いに到達するまでのキョンの心の動きですね。 — 武本康弘[58]
また、武本はコンセプト提案後に本作についてもっと簡単な言葉で言えることに気づいたといい、それは「キョンの再認識の物語」であるという[58]。
石原は本作のコンセプトは「ラブストーリー」[58]であるとした上で以下のように語っている。
TVシリーズの時から、キョンとハルヒの微妙なツンデレ関係はちらほら出ているんですが、今回は甘々の恋愛ものに徹してみようと思いました。 — 石原立也[65]
石原のコンセプトに対して武本は自身の考える『涼宮ハルヒの消失』にはラブストーリーの要素が薄いのかもしれないと振り返っている[58]。
脚本・構成
脚本は志茂文彦が担当する[66]。本作はテレビシリーズのシナリオを1話ずつ書くような形でパートごとに分けて脚本が書かれている[63]。そのため、全体の尺(上映時間)はその時点では決まっておらず、必要なシーンを十分な分量で書くという方向で進められた[63]。全体の尺についてはシナリオからコンテがあがったタイミングで把握することができており、制作過程で何度も短くしようという話が出たものの、最終的には162分(テレビシリーズ換算だと8回分)という長さになった[67]。これについて石原は原作をアニメ化する際は好きなエピソードを削るため辛い作業ではあるが、本作では多くのエピソードを盛り込むことができて良かったとする一方で、加えたいシーンがあったことからもう少し尺を伸ばしたかったことを明かしている[63]。志茂は原作が緻密に構成されており、シーンを組み替えるだけで全くの別物になってしまうことや、登場人物の魅力を最大限引き出すために彼らが活躍するシーンをピックアップしないといけないことからかなり気を遣って脚本に取り組んだ[68]。
本作のクライマックスは原作小説とは異なる[68]。まず、原作小説では長門がキョンのいる病院にやってくるが、本作ではキョンが病院の屋上で外を見ている際に長門が現れる[32]。これは志茂の提案によるものであり、提案した理由は雪が降る中に長門を立たせたかったからだとしている[69][注 3]。また、石原もクライマックスが病院というのは息苦しいと語っている[69]。次に、エピローグの長門の思い出の図書館のシーンが本作で新たに追加されたが、これは谷川のアイデアによるものである[69]。谷川は、改変世界の長門の「(架空の)図書館での思い出」をエピローグとするアイデアを出していたが、回想の多用を避ける意図から、現在の長門の後日談となった[69]。
演出
石原は本作の映像を作るうえでは、劇場で流れることは意識しつつもあくまで『涼宮ハルヒシリーズ』の一環として考えた[70]。
演出を担当する高雄統子は原作小説を読んだ際に、映像のイメージがはっきり感じられ、演出を具体的にイメージすることができたことから、自ら絵コンテに立候補した[70][注 4]。武本は他にも信頼できる演出家はいたものの、本作においては高雄向きであるとし、石原も本作では女性の意見がとても活かせるのではないかと判断した[70]。高雄は空気感で映像を見せるためにカメラをなるべく引き気味にし、空気感全体でキョンの心情に迫ることを意識している[70]。また、改変後の世界に取り残されたキョンや他のキャラクターは孤独であると考え、それぞれのスタンスで感じる「さみしさ」を描くためにカメラを引き気味にする作業は必要だったとしている[70]。
本作では大人バージョンの朝比奈みくるの描写が重要であり、彼女は全てを知った状態で物語を俯瞰している存在であることが念頭に置かれた[71]。涼宮ハルヒについては本作では出番が少ないことから彼女が登場した際のキラキラ感を印象づけるようにされている[71]。朝倉涼子については彼女が移るカットの絵コンテを描く際に石原が武本と高雄に相談を持ち掛けたところ、「朝倉涼子がどんな気持ちだったのか」について8時間以上にも及ぶ話し合いが行われている[72]。また、本作では学校内のシーンにおけるモブキャラクターたちに動きがつけられている[73]。本来であれば主要キャラクターを注目させるなどの理由でモブキャラクターの動きは止められるが、予算や制作時間に余裕があったことから「出来る範囲で動かしてみよう」といった試みがなされた[73]。
作画
キャラクターデザイン兼超総作画監督は池田晶子が、総作画監督は西屋太志がそれぞれ担当する[66]。作業の流れとしては、6つのパートそれぞれの作画監督と監督のチェックを経て、西屋の元に全カットが届き、それを最終的に池田がチェックするというものである[74]。武本から「テレビのままのハルヒを、劇場で」との要望を受けた池田は、テレビシリーズの設定を大切にしながら劇場用の新規設定画を作り上げていった[36]。
西屋はキャラクターのポージングや仕草、とりわけ表情について特に注意した一方で、池田は西屋の後の作業となることからキャラ表に合わせることに集中できたという[74]。池田は制作当初に作監を集め、キャラクターの説明を改めて行っており、そこで注意点や方向性が話し合われる[74]。具体的には心情芝居がメインとなることから表情や全身の表現を柔軟に取り入れるために、キャラクターがリアルになるのを避けることを注意した。また、方向性としては場面ごとのキャラクターの心情に、その時々に応じた良い表情を作っていくというものであった[74]。レイアウト段階で意識した点について池田は、劇場版ということもあり画面が広くなることから、アップにし過ぎないことを挙げている[75]。
作監作業で苦労したキャラクターとして、池田は改変後の長門を、西屋はキョンをそれぞれ挙げている[75]。キョンについて西屋は、物語のほぼ全てに登場することから単純な作業量が多く、劇中では様々な出来事を経験するために感情の振れ幅を余すことなく描かなければならなかったとしている[75]。改変後の長門について西屋は儚げな仕草を出すことを意識し、とりわけキョンを引き留める際に感情を出すシーンでは注意して取り組んだ[75]。
音楽
![](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2F5%2F58%2FEricsatie.jpg%2F186px-Ericsatie.jpg)
音楽は神前暁、高田龍一、帆足圭吾、石濱翔が担当しており、それに加えて19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したフランスの作曲家・エリック・サティの名前が担当者としてクレジットされている[60]。劇伴のコンセプトは「切なさを出すためと、画面で観客に見せていくため、音楽はあまり目立たないように」と武本は語っている[73]。
本作の劇伴はフルオーケストラによってレコードされている[76]。ポップスやソフトロック・テイストな曲が多かったテレビシリーズに対し、本作は劇場版ということもあり、制作サイドから「壮大なイメージで、弦の美しい響きが欲しい」との要望があり、角川書店がフルオーケストラを提案したことから採用に至った[77]。神前は、基本的に武本がイメージする音楽をいかにして忠実に再現するかについて注力した[78]。また、神前は本作は長門が鍵となる作品ではあるもののあくまで「ハルヒとSOS団にまつわる作品」だとし、物語全般に渡って「キョンの心はハルヒにある」ことを音楽で暗示させている[78]。
神前らによって作曲された楽曲はイマジンへと渡り編曲が行われる[79]。イマジンの松尾早人は作曲された段階でアレンジはかなり出来ていたことから、これを壊さないように注力し、同じくイマジンの多田彰文はスケッチやモチーフのみの状態の楽曲に関しては、疑問点について神前や高田と意思疎通を図りながら編曲に励んだ[80]。
本作ではサティが作曲した『ジムノペディ』『グノシエンヌ』『ジュ・トゥ・ヴー』が劇伴で使用されている[81]。プロデューサーの伊藤敦が「本作にはサティの楽曲が相応しいのではないか」と考えたことから起用に至った[73][注 5]。『ジムノペディ』は長門を、『グノシエンヌ』はキョンをそれぞれ描写している[80]。
演技・役作り
通常の劇場版作品では物語の展開とは異なる順序で収録を行うのが一般的かつ効率的だが、本作ではキョンの感情変化を大事にするために物語の展開に沿って順録りが行われた[83]。
涼宮ハルヒ役の平野綾は、本作ではSOS団の日常が殆ど描かれず、ハルヒの出番も少なかったことから、わずかな日常シーンでいつもよりさらに印象づけることを意識した[84]。改変後のハルヒを演じるうえでは、「テレビシリーズ第1話の中で起こったハルヒの感情の移り変わりのスピードが早くなり、人間関係の形成はまだされていない」という感じを出している[84]。
長門有希役の茅原実里は、改変後の長門を演じるうえでテレビシリーズでの抑揚がなく淡々と喋る長門の雰囲気は壊さず、感情を普通の度合いに持っていくことを意識した[85]。茅原は後のインタビューで「アフレコは過酷であった」と明かしている[86]。
朝比奈みくる役の後藤邑子は、改変前のみくると改変後のみくるが本質的には殆ど変化がないと解釈していることから、テレビシリーズと変わらずに演じることを心掛けた[87]。
朝倉涼子役の桑谷夏子は、みくるを演じた後藤と同様にテレビシリーズと変わらずに演じることを心掛けた[88]。その中で意識した点として「普通だけど何か怖い。裏がありそう」という感じを出すように演じたことを挙げている[88]。
エピソード
クライマックスにおける屋上のシーンの中に長門が雪を手ですくうシーンが存在するが、これは後の原作エピソードである「編集長★一直線!」(『涼宮ハルヒの憤慨』に収録)で使用された挿絵がモチーフとなっている[69]。また、屋上でのキョンと長門の対話におけるキョンの「ユキ…」という台詞は、シナリオにはカタカナで「ユキ」と表記されていただけであり、キョン役の杉田は「雪」とも「有希」とも聞こえるイントネーションでアフレコしたとのこと[32]。実際にキョンがどちらを指して言ったのかは不明であり、原作ではそもそも台詞自体がない。本作の英語版では、この台詞を「Yuki... means snow, doesn't it?」と訳している。
当初、監督としては『時をかける少女』や『サマーウォーズ』を手掛けた細田守がオファーされており、本人も乗り気であったものの、結果的に実現はしなかった[89]。
総監督と監督では役職名の違いはあるものの実際の立場は同じであった[65]。両者が行う作業も基本的には同じものであったが、全2000カットのレイアウトチェック(石原担当)とクライマックスの細かな演出(武本担当)については分担して行われた[65]。
本作は「スクリーンに映る作品」となるため、テレビシリーズよりも背景作画の精度を向上させる必要があった。そこで制作陣は多くの参考写真を撮影することを考え、京都アニメーション本社と舞台となるモデル地が近いことからロケハンを毎週行った。最初にテレビシリーズのロケハンを行ったのが2005年であり、そこからある程度の年数が経ってしまっていることから、以前の風景と今回ロケハンが行われた2009年時点の風景とが混在している場所もあったと石原は述べている[72]。
注釈
- ^ a b なお、上映時間は163分と記される場合もあるが[6][7]、公式ガイドブック (2010)には162分53秒と記されている[8]。
- ^ a b テレビシリーズでは石原の役職名が団長代理、武本の役職名が団長補佐となっていたが、本作では総監督と監督に変更されている[58]。本作ではハルヒが「消失」しており、団長と超監督がいないことが変更の理由となっている[58]。
- ^ なお、雪が降る展開も本作のオリジナル展開である[69]。
- ^ 高雄はテレビシリーズでも絵コンテと演出を担当しており、もっと自分なりにキャラクターを描いてみたいという心残りを抱いていた[70]。
- ^ 神前は、最初の打ち合わせの時点でサティの楽曲が使用される方針となっていたことから、サティの起用理由の詳細は分からないとしている[80]。また、本作のサウンドトラックのライナーノートには「制作サイドからサティの楽曲を提案された」ことは記されているものの、サティを選んだ意図については記されていない[82]。
- ^ それまでの最高位は「涼宮ハルヒの憂鬱ブルーレイコンプリートBOX【初回限定生産】」の2位[112]。
- ^ 脚本担当・志茂文彦による決定稿をハードカバー仕立ての本にしたものであり、公式は「映画本編では泣く泣くカットされたシーンも収録された、『消失』のすべてを読み解くファン必携のアイテム」であると説明している[139]。
- ^ 2012年にBD版の発売が予定されていたが、マンガ・エンタテイメント側の金銭的理由により発売は見送られた[144]。
- ^ 具体的には「このページは表示できません」と表示される[172]。
- ^ 県立北高校制服を着た店員が登場し、本作に登場した「入部届け」風アンケートが配布され、そのアンケートに答えると「長門有希のカード」が1枚プレゼントされる[175]。
出典
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