朝鮮語のローマ字表記法 各表記法の概要

朝鮮語のローマ字表記法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/20 17:09 UTC 版)

各表記法の概要

ここでは体系的に整備されたいくつかのラテン文字表記法を概観する。

イェール式

イェール式イェール大学サミュエル・マーティンが考案した朝鮮語の翻字法。言語学の学術論文などで主に用いられる。イェール式はハングルによる朝鮮語のつづりをラテン文字に移しかえることを目的としている。従って、発音は必ずしも反映されず、例えば「넓겠는데(広そうだが)」は「nelpkeyssnuntey」と表記される(実際の発音は [nɔlkʼennɯnde])。その他、中期朝鮮語のための表記法や、北朝鮮の言語にのみ現れる語頭の のための表記法などもある。

朝鮮語学会1940年式

朝鮮人による最初の体系的なラテン文字表記法は、朝鮮語学会(現・ハングル学会)が1940年(昭和15年)に作成した「朝鮮語音羅馬字表記法」である。これは同年制定の「外来語表記法統一案」の付録として定められたものであり、M-R式(マッキューン=ライシャワー式のこと。下記参照)と同じく母音において「ŏ」のような補助記号が用いられている。原則的に発音を写す転写法であるため、音韻変化を起こす場合は変化後の音を表記するのだが(例えば濃音化:신다 sindda [ɕina] 「履く」)、一部は変化前の音で表記する(例えば鼻音化:밭만 badman [panman] 「畑だけ」)。

大韓民国が制定した表記法

南北分断後は、大韓民国(以下「韓国」)と朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)においてそれぞれ別個にラテン文字表記法が制定された。

文教部1948年式
正式名称は「한글을 로오마 자로 적는 법(ハングルをラテン文字で綴る法)」。韓国の建国後、1948年に文教部が定めた「들온말 적는 법(外来語表記法)」の付録としてラテン文字表記法が定められた。
」を「kh」とつづるなど、激音の表記に「h」を用いている。音節末子音の表記について、あるものは発音に依拠してつづり(例:있다 itta [ittʼa] 「ある」)、あるものはハングルのつづりに依拠してつづる(例:앞만 aphman [amman] 「前だけ」)。
文教部1959年式
正式名称は「한글의 로마자 표기법(ハングルローマ字表記法)」。1959年に文教部が改訂したラテン文字表記法。
平音には「b, d, g」などの有声音字を、激音には「p, t, k」などの無声音字を用いており、補助記号を用いない。現行の韓国のラテン文字表記法に似ているが、「, , 」を「bb, dd, gg」と綴る点、「」を「weo」と綴る点などが現行と異なる。また、終声の表記でも「b, d, g」といった有声音字を用いるため、例として「」を「bag」と綴るなど、翻字に近い面もある。
文教部1984年式
正式名称は「국어의 로마자 표기법(国語のローマ字表記法)」。1984年1月13日文教部告示第84-1号。
表記法の内容はM-R式と大部分が同一である。M-R式と異なるのは、「」を母音「i」の前で「sh」とつづる点(M-R式では「s」)、「」を「wo」とつづる点(M-R式では「wŏ」)などである。また、1つの音素を2つ以上に書き分けることの多いM-R式は韓国人にとって分かりにくく不便であるとの指摘もあった。ハングル学会ではこの方式を批判して、文教部1959年式に基づく「우리말 로마자 적기(国語のローマ字表記)」を1984年2月21日に発表している。
文化観光部2000年式
正式名称は「국어의 로마자 표기법(国語のラテン文字表記法)」。2000年7月7日文化観光部告示第2000-8号。
韓国における現行のラテン文字表記法である。基本的には文教部1959年式の流れを継いでおり、補助符号を用いない。転写を目的としているが、翻字の方法についても言及がなされている。

朝鮮民主主義人民共和国が制定した表記法

1955年式
正式名称は「외국 자모에 의한 조선어 표기법(外国字母による朝鮮語表記法)」。1955年にキリル文字による表記法と併せて発表されたもので、その第3章にラテン文字による表記法が掲げられている。
母音において「ŏ」のような補助記号が用いられているのはM-R式と同じであるが、「」を「kh」とつづるなど激音の表記に「h」を用いたり、「」を「ai」とつづる点などはイェール式に近い。「, , 」を「ts, tsh, tss」とつづるのが特徴的であるが、これは平壌方言の音声的特徴を反映していると見ることができる。
その後、北朝鮮では1969年に「영어문자에 의한 조선어표기법(英字による朝鮮語表記法)」が、1985年にはラテン文字への転写法と翻字法が定められている(박재수1999参照)。
1992年式
正式名称は「조선어의 라틴문자표기법(朝鮮語のラテン文字表記法)」。1992年に定められた。北朝鮮における現行のラテン文字表記法である。
母音の表記についてはM-R式と同一である。その一方で子音の表記には、激音の表記に「h」を用いる(は「ch」)など、1955年式からの伝統を受け継いだ表記法も採られている。平音の表記は従来どおり有声音化の現象に合わせて有声音字と無声音字を使い分けているが(例えば「」は「t, d」)、は無声音で発音される場合でも常に有声音字「j」とつづるのが特異である。その他、の鼻音化を綴りに反映しない、が重なった場合に「lr」と綴る、を「jj」と綴るなどのM-R式との差異点がある。
なお、一部国際的に定着した名称ではM-R式など従来の表記も認められている(例:平壌→Pyongyang)他、補助記号の省略も許容としている。

福井玲式

東京大学福井玲が考案した朝鮮語の翻字法。中期朝鮮語をコンピュータでデータ処理するために1980年代に開発された。従って、現代朝鮮語で用いられない字母についてもラテン文字表記が可能である。また、他の表記法では子音がないことを表す初声の「」をラテン文字に一切反映させないのに対し、福井玲式では初声の「」を「’」に当てているのが特徴的である。

マッキューン=ライシャワー式

マッキューン=ライシャワー式は1939年(昭和14年)にアメリカ人のマッキューンライシャワーが開発した方式であり、現在も欧米を中心にして広く用いられている(以下「M-R式」)。朝鮮語の体系的なラテン文字表記法のさきがけといえる。

この方式は朝鮮語の転写を目的とした表記法である。従って朝鮮語の音をラテン文字に写すのであって、つづり字を写すのではない。M-R式は「ŏ」、「t’」のようにアルファベットに補助記号を附することがあるのが特徴である。また、例えば平音「」を「t」と「d」につづり分けたり(前者は有声音化しない場合、後者は有声音化する場合)、流音「」を「r」と「l」に書き分けたりと(前者は音節頭音のとき、後者は音節末音のとき)、朝鮮語の音素では弁別的でない異音を書き分ける場合がある。

その他の表記法

以上の体系によらない表記法として、「ㅓ, ㅕ, ㅐ, ㅚ」を「u, yu, ai, oi」とする例が広く見られる(en:Kim Il-sung(人物・金日成)、en:The Chosun Ilbo(新聞・朝鮮日報)、en:Choi (Korean surname)(名字の)、Hyundai(企業グループ・ヒュンダイ/現代/ヒョンデ)など)。







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