国鉄400形蒸気機関車 870形

国鉄400形蒸気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 06:21 UTC 版)

870形

関西鉄道 21(後の鉄道院870)
形式図

870形は、1897年から1902年にかけて、関西鉄道によりナスミス・ウィルソン社から輸入されたA8系の準同形車である。各部の寸法はA8系に準じるものの、動輪径はやや大きい1,372mm (4ft6in) とされ、全長も150mm長かった。最大の特徴は、ベルペヤ火室の採用で、弁装置は最初の2両はA8系基本のジョイ式であったが、その後の12両はスチーブンソン式基本形であった。

関西鉄道へは、1897年に2両(製造番号505, 506)、1898年に6両(製造番号542 - 547)、1901年に2両(製造番号619, 620)、1902年に4両(製造番号635 - 638)の計14両が導入され、治承・寿永の乱(源平合戦)の時代の名馬の名にちなんだ磨墨(するすみ)21, 22, 46 - 51, 74 - 77)と名付けられた。関西鉄道国有化後の改番では、870形870 - 883)とされ、大阪鉄道局管内の奈良や五條に配置されて、管内での入換や小運転に使用された。その後は、参宮線や山陰線に転用され、仙台に移るものもあったが、1937年までは全車が健在で、1945年時点でも2両(879, 881)が郡山、土崎の両工機部で入換え用に使用されていた。全廃となったのは1949年である。

民間に払下げられたものは7両で、内訳は次のとおりである。

  • 870(1942年) : 樺太人造石油→帝国燃料興業 内淵鉄道
  • 871(1941年) : 筑前参宮鉄道(西日本鉄道宇美線。後の勝田線7 → 鉄道省(1944年買収、1947年廃車)
  • 872(1943年) : 相模鉄道(現在の相鉄本線12(1951年廃車)
  • 874(1941年) : 相模鉄道(現在の相模線11 → 再買収(1944年。仮番号138) → 常総鉄道(1946年4月入線)138(1952年廃車)
  • 877(1943年) : 鹿島参宮鉄道(→常総筑波鉄道鉾田線。現在の鹿島鉄道。1941年から借入れ)6
  • 878 : 日本軽金属(清水)
  • 881(1950年) : 東北パルプ秋田工場
主要諸元
  • 全長:9900mm
  • 全高:3658mm
  • 軌間 : 1067mm
  • 車軸配置 : 2-4-2 (1B1)
  • 動輪直径 : 1372mm (4ft6in)
  • 弁装置 : ジョイ式基本型(870, 871)、スチーブンソン式基本型(872 - 883)
  • シリンダー(直径×行程) : 356mm×508mm
  • ボイラー圧力 : 10.6kg/cm2
  • 火格子面積 : 1.21m2
  • 全伝熱面積 : 71.7m2
    • 煙管蒸発伝熱面積 : 68.0m2
    • 火室蒸発伝熱面積 : 3.7m2
  • ボイラー水容量 : 2.6m3
  • 小煙管(直径×長サ×数) : 45mm×3050mm×166本
  • 機関車運転整備重量 : 35.76t
  • 機関車空車重量 : 27.59t
  • 機関車動輪上重量(運転整備時) : 21.56t
  • 機関車動輪軸重(第1動輪上) : 10.88t
  • 水タンク容量 : 4.5m3
  • 燃料積載量 : 0.85t
  • 機関車性能
    • シリンダ引張力(0.85P): 4,230kg
  • ブレーキ装置 : 手ブレーキ真空ブレーキ

400形系蒸気機関車一覧
鉄道省
形式
鉄道作業局
形式
製造初年 両数 製造所 車軸配置 全軸距
(mm)
シリンダ径(mm) 動輪径
(mm)
全伝熱面積
(m2
火格子面積
(m2
備考
400 - 1886年 4 ナスミス・ウィルソン 1B1 5944 343 1321 60.0 0.98
500 A8 1888年 61 ダブス 1B1 5944 356 1321 67.1 1.08
600 A8 1887年 78 ナスミス・ウィルソン 1B1 5944 356 1321[表注 1] 67.3 1.11
700 A8 1888年 18 バルカン・ファウンドリー 1B1 5944 356 1321 67.3 1.07[表注 2]
280 - 1923年 2 日本車輌製造 1B1 5944 343 1321 67.3 1.11 ワルシャート式弁装置
450 - 1897年 4 ブルックス・ロコモティブ・ワークス 1B1 5944 356 1321 67.3 1.11 スチーブンソン式弁装置
480 - 1904年 2 クラウス 1B1 5944 356 1321 71.0 1.11
490 - 1898年[表注 3] 1 ナスミス・ウィルソン 1B1 5944 343 1321 60.0 0.98[表注 4]
800 - 1903年 2 汽車製造 1B1 5944 356 1321 67.1 1.11
810 - 1904年 1 汽車製造 1B1 5944 356 1245 67.2 1.12
850 - 1896年 1 山陽鉄道兵庫工場 1B1 5944 356 1321 58.8 1.06
870 - 1897年 4 ナスミス・ウィルソン 1B1 5944 368 1372 74.3 1.21 ベルペイヤ式火室
100 - 1896年 1 ナスミス・ウィルソン 1B 3810 305 1219 60.0[表注 5] 0.93
220 - 1891年 2 ダブス 1B1 4827 330 1219 46.5 0.77 ワルシャート式弁装置
860 A9 1893年 1 逓信省鉄道庁神戸工場 1B1 5944 381/572[表注 6] 1346 71.5 1.15 複式機関車
230 A10 1902年 41 汽車製造 1B1 5944 356 1245 67.2 1.11
  1. ^ 600 − 639, 643 - 677号機の値、640 − 642号機は1346 mm
  2. ^ 700 − 704, 715 - 717号機の値、705 − 714号機は1.11m2
  3. ^ 製造銘板は1897年のものが設置されている。
  4. ^ 中国鉄道の形式図では1.23 m2
  5. ^ ナスミス・ウィルソンの記録では51.1 m2
  6. ^ 高圧/低圧

注釈

  1. ^ Nasmyth, Wilson & Co. Ltd., Bridgewater Foundry
  2. ^ 車軸配置C1のタンク式機関車であるB6系(鉄道省2120形など)も前向運転すると第1動輪のタイヤとレールの摩耗が多く、逆向運転を定位として使用された[3]
  3. ^ この分類は機関車研究家の金田茂裕が1953年に日本で最初に公表したものであるが、一方で鉄道史研究家の鶴岡秀基が1984年にこれを正式なものでないとする説を発表し、金田茂裕も「たとえトレビシックの個人的な分類であっても、それが実在したことは間違いないと思う」としてこの分類が公式のものかについて明言はしていない[6]
  4. ^ 日本鉄道は開業後、保線や運行は官設鉄道が行なっており、1885年に運行や車両の修繕、保線を日本鉄道で行うこととなったが、その後運行と車両の修繕が再度鉄道作業局に委託され、保線と運輸も鉄道作業局の監督の下に行われていた[8]
  5. ^ 1891年の日本鉄道の上野駅 - 青森駅間全通を機に、全事業を日本鉄道で実施するよう指導がなされた[8]
  6. ^ Dübs & Co., Glasgow Locomotive Works
  7. ^ Vulcan Foundry Co., Ltd.
  8. ^ 原因は業績不良のためと推定されている。
  9. ^ 528, 530号機のうち1両とする文献[18]もある。
  10. ^ 528, 530号機のうち1両とする文献[18]もある。
  11. ^ クラウスの記録では1.12m2
  12. ^ クラウスの記録では71.13m2
  13. ^ クラウスの記録では64.4m2
  14. ^ クラウスの記録では6.53m2
  15. ^ クラウスの記録では37.2t
  16. ^ クラウスの記録では27.8t
  17. ^ クラウスの記録では20.8t
  18. ^ クラウスの記録では10.4t(第1・第2動輪上)
  19. ^ クラウスの記録では5.50m3
  20. ^ クラウスの記録では1.00t

出典

  1. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』pp.11-56
  2. ^ a b 『鉄道技術発達史 第1篇』p.30
  3. ^ 『鉄道技術発達史 第4篇』p.172
  4. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.33
  5. ^ 『機関車の系譜図 1』p.50
  6. ^ a b 「”形式別・国鉄の機関車”補遺」『形式別 国鉄の蒸気機関車別冊 国鉄軽便線の機関車』p.ii
  7. ^ a b 『機関車の系譜図 3』p.302
  8. ^ a b 『鉄道技術発達史 第1篇』p.2
  9. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.38
  10. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車 正誤表』p.3
  11. ^ 『機関車表』 p.23
  12. ^ 芝浦工業大学附属中学高等学校へ403号機関車の寄贈が決定』(プレスリリース)芝浦工業大学、2022年4月11日https://www.shibaura-it.ac.jp/news/nid00002277.html 
  13. ^ “403号機関車、ついにお披露目!明治期の姿に復元し豊洲で一般公開”. 鉄道チャンネル. (2022年11月12日). p. 2. https://tetsudo-ch.com/12831240.html/2 
  14. ^ 403号蒸気機関車が芝浦工業大学附属中学高等学校にて一般公開を開始』(プレスリリース)芝浦工業大学、2022年11月14日https://www.shibaura-it.ac.jp/news/nid00002773.html 
  15. ^ 豊洲にSLがやってきた』(プレスリリース)芝浦工業大学附属中学高等学校、2022年11月14日https://www.ijh.shibaura-it.ac.jp/100thproject/ 
  16. ^ a b c 『機関車表』p.22
  17. ^ 『機関車表』p.537, 551
  18. ^ a b 『機関車表』p.551
  19. ^ 『機関車表』p.552
  20. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.51
  21. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.11
  22. ^ 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.46
  23. ^ 『機関車表』pp.550-551
  24. ^ a b 『機関車表』p.20375
  25. ^ a b c d e 「私鉄車両めぐり(83) 近江鉄道 上」p.90
  26. ^ 中川浩一「セミナー車両調査」『私鉄車両めぐり特輯』1(鉄道図書刊行会、1977年)
  27. ^ a b 『形式別 国鉄の蒸気機関車I』p.43
  28. ^ 『地方鉄道及軌道一覧 : 昭和18年4月1日現在』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  29. ^ 川崎車両(和田岬駅)『地方鉄道及軌道一覧. 昭和18年4月1日現在』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  30. ^ 芳村伸夫「僕の勿来物語」『とれいん』No.178
  31. ^ 日立製作所『地方鉄道及軌道一覧 : 昭和18年4月1日現在』(国立国会図書館デジタルコレクション)






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