国民主権 イギリスの議会主権

国民主権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/27 15:14 UTC 版)

イギリスの議会主権

イギリスは立憲君主国であり、主権は「議会における国王または女王」(King/Queen in Parlament)にあるとされ「議会主権ないし国会主権」(Parliamentary Sovereignty)と呼ばれている。これは法学者アルバート・ヴェン・ダイシーの著作(『憲法序説』1885年)にちなみダイシー伝統と呼ばれる。ダイシーはイギリスの政治体系は「議会における国王主権」「法の支配」「憲法習律」にあるとし、国王は尊厳を代表し、実際の作用は貴族院・庶民院両院が行う。行政権は下院に融合されているが、最高裁は上院に属している[注 6]君主は法の擁護者であるが、[要出典]それゆえ「法の支配」に従う。ただし、欧州人権裁判所による強制力を有する欧州人権条約に加盟しているため、EUを脱退しない限りにおいては、この条約に定められている人権は、議会主権に優越している。つまり、この条約を国内法に組み込むために制定されたHuman Rights Act 1998英語版との不適合性Declaration of incompatibility英語版の判定を連合王国最高裁判所を含む司法機関の判定によって判断できることにより、アメリカでいう付随審査的な違憲審査権を実装している。

このように、イギリスは、「人民主権ないし国民主権」をとるものではないが、「憲法習律」を介して「政治的主権」は市民にあるとされることがある。「憲法習律」は、裁判規範ではないが、単なる政治慣例や慣行とは異なり、政治家にゆだねられた行動規範であり、君主と政治家を拘束する。憲法習律違反があったときは、市民は下院議員の選挙を通じて政治的な実権を行使するのである。[8]


注釈

  1. ^ ただしアメリカ合衆国憲法には「国民主権」と明記した条文は存在しない
  2. ^ アメリカ合衆国では、奴隷制の採否という特殊な文脈で人民主権論が議論されたことがある。そこでは、その領土またはその州の主権を有する人民が奴隷制の採否を自由に決めることができ、連邦政府や他州の政府の干渉を受けないとスティーブン・ダグラスによって主張され、1850年協定カンザス・ネブラスカ法で採用されることになった。
  3. ^ 半代表制とは、フランスの公法学者アデマール・エスマンがイギリスの代表制を参考に現在はフランスに存在しない制度としてアイデアを提示した概念で、「議会の意思が実在する民意をできる限り忠実に反映するため、(1)代表者たる議員が普通選挙・比例代表制によって選ばれ、(2)命令的委任を認め、(3)人民投票によって補完される」、直接民主制と半分ミックスされた代表制である。
  4. ^ 欧州の現行憲法では、命令的委任と解することを明示的に禁止するものがある。第五共和制フランス憲法27条1項は、「命令的委任はすべて無効である」と規定し、ドイツ連邦共和国基本法38条「・・・議員は、国民全体の代表者であって、委任及び指示に拘束されず、かつ自己の良心にのみ従う」と規定している[1]
  5. ^ 「(両議院は、)全国民を代表する(選挙された議員でこれを組織する)」
  6. ^ 2009年10月1日をもって連合王国最高裁判所に改組された。裁判官となる法官貴族は引き続き上院の構成である。

出典

  1. ^ 高野敏樹『社会契約と主権(1)-憲法制定権力論の視点からみたシェイエス理論とルソー理論の位相-』(Sophia Junior College Faculty Journal Vol.28, 2008, 27-39)
  2. ^ http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-ejournals-usgovernment1.html
  3. ^ http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=2&invol=419
  4. ^ http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=118&invol=356
  5. ^ 小委員会 昭和21年7月25日(第1回)”. 2024年3月27日閲覧。
  6. ^ 『全訂日本国憲法』
  7. ^ 辻村みよ子「レフェレンダムと議会の役割」ジュリスト1022号126頁
  8. ^ この項は『象徴天皇制への誤解と立憲君主制の本質』倉山満(国士舘大学非常勤講師2006.05.08)[2]から起筆






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