マクベス (シェイクスピア) マクベス (シェイクスピア)の概要

マクベス (シェイクスピア)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/27 05:06 UTC 版)

3人の魔女と出会ったマクベスとバンクォー(1855年テオドール・シャセリオー画)

ハムレット』、『オセロー』、『リア王』と並ぶシェイクスピアの四大悲劇の1つで、その中では最も短い作品であり、最後に書かれたものと考えられる。

原典

史劇作品と同じく、出典は主にラファエル・ホリンシェッドの『年代記』(Chronicles of England, Scotland, and Ireland)第2版(1587年出版)である。ダンカン殺害の場面は「野心家の妻にそそのかされてダフ王を弑逆したドンワルド」のエピソードにもとづく[1]など、史劇に比べて自由な改変を加えているらしい。

戯曲でのマクベスは、主君を殺して王位を奪い、暴政を行って短期間でその報いを受けて滅ぼされる悪人として描かれているが、実際のマクベスは17年間の長期にわたって王位にあり、また当時は下剋上がしばしば見られる時代であって、マクベスの行為も悪行とは言えず、統治の実績もあり、戯曲に見るような暴君ではなかった。

創作年代と書誌

四折判での刊行はなく、1623年ファースト・フォリオが最古のテキストであり、現存するテキストは全てこの版による。

全2,477行、その98%が韻文である。シェイクスピア劇としては『あらし(テンペスト)』・『間違い続き』に次いで3番目に短く、成立年代も接近しているとされる『ハムレット』の4024行(これはシェイクスピア作品中最長)、『オセロー』の3560行、『リア王』の3499行と比較すると短さが著しい。[2]

また、上演の記録も後述のように1611年より遡れない。従って創作年代はテキストの内証によるしかないが、何度も書き直されたうえ、初期のテキストは残っていないため、その確定は困難である。

現在知られる内容の『マクベス』(ファースト・フォリオに収録されたもの)の推定執筆年代は1606年頃である。これについては、バンクォーを祖と考えるステュアート家スコットランドジェームズ6世1603年イングランドの王位を継承(ジェームズ1世)したことが大きく影響している。さらに、第2幕第3場の門番のセリフが、1605年に発覚した火薬陰謀事件に関与して裁判にかけられたイエズス会士ヘンリー・ガーネット (Henry Garnet) を念頭に書かれているとの推定から、本作の成立を裁判のはじまった1606年の中頃以降と考える説が有力となっている。

更に、この作品はシェイクスピアの悲劇としてはあまりに短いこと、また内容的に幾つかの点で飛躍や省略と思われる箇所が存在することから、初めに長い版の『マクベス』があって、これをシェイクスピア自身が短縮したと考える者もいる。この短縮改訂説はデンマーククリスチャン4世が1606年にロンドンを訪問した際に宮中で本作が上演された可能性を考えることから生じる(次節参照)。宮中での上演には通常の上演は長すぎるので、そのために大幅にカットされたとするのであり、これも1606年に現在の『マクベス』が成立したとする根拠とされる。

その場合には現在のものより長い『マクベス』が先行して成立していた可能性を考えねばならないが、スコットランド王であったジェームズを賛美する劇の基本骨格は動かないことから、ドーヴァー・ウィルソンなどは1601年頃にシェイクスピアの劇団「宮内大臣一座」がスコットランドのエディンバラに赴いた際の成立を主張している。

また、この作品にトーマス・ミドルトン、またはミドルトン作品を知る無名の作家による加筆があることは定説化している。その加筆部分は、ヘカテが登場する場面、すなわち第3幕第5場の全部と、第4幕第1場のヘカテのセリフ(6行)と付随するト書きを含む10行程度だけだとされる。いずれも、ミドルトンの戯曲『魔女』(1615年)に出てくる歌の抜粋が挿入されていることからの推定である。なおこの変更は加筆だけでなく、いくらかの削除をした可能性があるが、シェイクスピア自身の手によって大幅な短縮化がなされた可能性もある以上、この際の削除部分を具体的に推察することは不可能である。


  1. ^ 高橋康也他編『研究社シェイクスピア辞典』p. 732
  2. ^ 校訂本により行数はやや異なる。ここでは L.Dunton-Dower, A.Riding "Essential Shakespeare Handbook" 2004, DK Publishing, London ISBN 0789493330 に依った。
  3. ^ 劇の最後を締めくくるマルカムのせりふの中に、夫人が自ら命を絶ったとの一節がある。
  4. ^ 瀬戸賢一・投野由紀夫 (2012年). “プログレッシブ英和中辞典”. goo辞書. 小学館. 2023年8月14日閲覧。
  5. ^ 山本史郎(『名作英文学を読み直す』講談社選書メチエ 2011年p.243f)。
  6. ^ 『週刊少年サンデー』連載時および初期の単行本のもの。後に刊行された版では「人間にも動物にもやられない」と改められている。
  7. ^ http://www.wpi.edu/Academics/Depts/HUA/TT/vr/Quakebeth/curse.html


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