フダイビーヤの和議
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/21 19:13 UTC 版)
結果、影響
ムハンマドがマディーナに帰還した後、マッカで拘禁されていた信徒アブー・バスィールがマディーナに逃亡する事件が起きる。ムハンマドは協定に従ってアブー・バスィールを送り返したが、アブー・バスィールは自分を引き取りに来た使者を殺害した。この時、ムハンマドはアブー・バスィールを責めて
こやつの母は呪われよ。ほかに何人か仲間がいれば、戦いに火をつけてしまう — (イブン・イスハーク『預言者ムハンマド伝』3(イブン・ヒシャーム編註, 後藤明、医王秀行、高田康一、高野太輔訳, イスラーム原典叢書, 岩波書店, 2011年7月)、143頁より)
と言った。マッカで束縛を受けていたムスリムは先のムハンマドの言葉を聞き、クライシュ族の隊商の通り道に住処を定めたアブー・バスィールの元に集まった[25]。アブー・バスィールたちは近辺を通りかかるクライシュ族を殺害し、隊商の積荷を略奪した[25]。アブー・バスィールたちを扱いかねたマッカは、ムハンマドに彼らの引き取りを要請し、彼らはマディーナに移住した[25]。
休戦協定締結直後、ムハンマドはハンダクの戦いで敵対したナディール族の拠点であるハイバルを攻撃した[2]。ハイバル征服の後、ハイバルを初めとするオアシスの多くのユダヤ教徒がムハンマドに降伏する。クライシュ族との同盟が不利だと考えた遊牧民はムハンマドを新たな同盟相手に選び、多くの遊牧民がイスラームに改宗した[26]。また、和議の期間中にはハーリド・イブン・アル=ワリード、アムル・イブン・アル=アースらマッカの有力者もイスラームに改宗した[26]。
翌629年、ムハンマドは長剣のみを携えた2,000人の男を率いてカアバ神殿を参拝し、町を出た市民は近郊の丘陵で巡礼の様子を見守っていた[4]。マッカの市民の中から、この光景に心を打たれてイスラームに改宗した者も少なからず現れたと言われる[15]。ムハンマドの教友(サハーバ)の中にはこの機会に乗じたマッカの占領を進言する者もいたが、ムハンマドは和約に従って行動するように説いた[27]。ムハンマドが示威行動、戦闘を行わずに巡礼を果たしたことは、イスラーム勢力の伸張を表していた[28]。巡礼後にムハンマドはハーシム家との和解を図って叔父のアッバースの妻の妹と結婚し、マッカの有力者であるアブー・スフヤーンの娘とも結婚して、婚姻関係を構築した[29]。
630年、ムハンマドと同盟する遊牧民のフザーア族がマッカと同盟する遊牧民バクル族から攻撃を受ける事件が起き、ムハンマドとマッカの関係は悪化する[4]。アブー・スフヤーンは和議の再締結に奔走したが、合意には至らなかった[30]。フダイビーヤで結ばれた休戦協定は破棄され、ムハンマドはマッカに進軍する。
- ^ a b c d 後藤「フダイビヤの和議」『新イスラム事典』、429頁
- ^ a b 佐藤『イスラームの歴史』1、72-73頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、121頁
- ^ a b c d e 前嶋『イスラムの時代』、80-81頁
- ^ a b 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、28頁
- ^ a b 小杉『イスラーム帝国のジハード』、136頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、129頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、28-29頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、130頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、30-31頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、31-32頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、130-131頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、32頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、32-33頁
- ^ a b 佐藤『イスラーム世界の興隆』、63頁
- ^ a b c d 高野「フダイビーヤ」『岩波イスラーム辞典』、848頁
- ^ a b c d イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、134頁
- ^ a b c 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、33頁
- ^ a b c 小杉『イスラーム帝国のジハード』、137頁
- ^ デルカンブル『ムハンマドの生涯』、92頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、135頁
- ^ イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、138頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、33-34頁
- ^ 小杉『イスラーム帝国のジハード』、138頁
- ^ a b c イスハーク『預言者ムハンマド伝』3、143頁
- ^ a b 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、34頁
- ^ 森、柏原『正統四カリフ伝』下巻、36-37頁
- ^ 小杉『イスラーム帝国のジハード』、139頁
- ^ デルカンブル『ムハンマドの生涯』、94頁
- ^ 小杉『イスラーム帝国のジハード』、139-140頁
固有名詞の分類
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