ピューティア第四祝勝歌 ピンダロスの詩の構成

ピューティア第四祝勝歌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/27 05:40 UTC 版)

ピンダロスの詩の構成

ピンダロスの祝勝歌は、7行程度を一つのまとまりある節として、これを「ストロペー」「アンティストロペー」そして「エポドス」という様式の節として、この三つをまた一つの単位としている。この単位は「トリアース(三つ組)」と呼ばれる。『オリュンピア第一祝勝歌』では、四つのトリアースで詩が構成されている。また、この詩と同じ勝利をうたった『ピューティア第五勝利歌』も、同じく四つのトリアースから構成されている。

ストロペー(strophe)は「回転・転回」の意味で、ギリシア劇では、合唱舞踏隊の右から左への転回で歌われる歌章を云う。アンティストロペー(antistrophe)は、対ストロペーの意味で、左から右への転回での歌章に当たる。エポドス(epodos)は、停止の意味で、停止のときの歌章に当たる[11]

『ピンダロス 祝勝歌集/断片選』の訳者内田次信は、ストロペーを合唱隊の「右旋回中の歌唱」、アンティストロペーを「左旋回中の歌唱」、エポドスを「その後の停止しての歌唱」を意味すると、後代の学者による解釈を説明している[12]。この『ピューティア第四祝勝歌』の場合、13トリアースすべてについて、ストロペー8行、アンティストロペー8行、エポドス7行となっている。従って、全体として、299行ある。

アイゲイダイ人とミニュアース人

ピンダロス頭部

ピンダロスはアイゲイダイ人に属する古き貴族の家系にあり、アイゲイダイ人はアイゲウスを名祖とする一族である。このアイゲウスは、テーセウスの父で伝説のアテーナイアイゲウスとは異なり、テーラ島の名祖となったテーラースの孫であるとされる[13]

アイゲイダイ人はスパルタの有力な氏族であり、またテーバイにあっても有力な氏族であった。ピンダロスの『ピューティア第四祝勝歌』でうたわれている内容の背景には、二つの伝承が存在している。ピンダロスの祖先であるアイゲイダイ人テーラースが、スパルタよりミニュアース人を率いて、三隻の船でテーラ島に移住したという伝承が一つである。他方、アルゴナウタイの一人エウパーモスが、帰路レームノス島で子孫を残し、この子孫がラケダイモーンスパルタ)に移り、更にテーラ島に移住した(この移住に、テーラースが関係していることになる)。こうしてバットスの代になって、リビュアに移住し、キューレーネー市を創建したと云う神話伝承がある[14] [15] [16]

しかし、二つの伝承・神話がどこかで混同があったとしても、一方で、アイゲイダイ人の貴族の一員であるピンダロスの祖先は、テーバイ、ラケダイモーン(スパルタ)、そしてテーラ島に移住した(そして更に、アイゲイダイ人たちはキューレーネーにも移住した)。また他方で、キューレーネーの王アルケシラオスの祖先はミニュアース人で、レムノース島よりラケダイモーンを介在してテーラ島に移り、そこからキューレーネーを創建し移住したことになる[17]

ピンダロスの一族であるアイゲイダイ人と、アルケシラオスの一族のミニュアース人は、それぞれに、ラケダイモーンよりテーラ島へ、そしてリビュアのキューレーネーへと移住していることになる。ピンダロスが『ピューティア第四祝勝歌』でアルゴナウタイの神話をうたう背景に、祝勝歌の依頼者であるアルケシラオス王の祖先の偉業と、ピンダロス自身の祖先の伝承が存在しているという事実がある。


  1. ^ 『祝勝歌集/断片選』 p. 142
  2. ^ loc. cit.
  3. ^ Classical Dictionary, p. 1183 /Pindar/
  4. ^ 『祝勝歌集/断片選』 p. 430
  5. ^ Pindar, The Odes, p. xiv
  6. ^ 『祝勝歌集/断片選』 p. 445
  7. ^ アルケシラオスのドーリス方言形。ピンダロスの詩は、ドーリス方言に近い言葉で記されている。
  8. ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』 p. 189 /バットス/
  9. ^ メーデイアはコルキスの王女である。女王とするのは詩的強調。
  10. ^ 『イーリアス』 第15章207行。使者とはイーリスで、この言葉はポセイドーンのもの。
  11. ^ Pindar, The Odes, p. xiii, ベン・ジョンソンは、Turne, Counter-Turne, Stop と呼んでいる。
  12. ^ 『祝勝歌集/断片選』 前書き、凡例五
  13. ^ 『歴史』巻四・145-146
  14. ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』 p. 169 /テーラース/
  15. ^ ibid. p. 189 - 200 /バットス 2/
  16. ^ 『祝勝歌集/断片選』 p. 176-177 訳注(6)
  17. ^ 『祝勝歌集/断片選』 loc. cit.


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