エチゼンクラゲ 生態

エチゼンクラゲ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/20 17:34 UTC 版)

生態

人間とのサイズの比較
天敵のウマヅラハギ。エチゼンクラゲを集団で襲い、2メートルあるクラゲを1時間ほどで食べてしまう

これまであまり生態が知られておらず、人間にとって、水産業に被害を与えるだけと長らく考えられていたが、2000年代以降の研究で、エチゼンクラゲが地球で果たしている役割が明らかになっている。生活史は既に知られている他の根口クラゲ類と同様である。エサは主に小型の動物性プランクトンと考えられており、毒を持つ触手で捕まえて食べる。ただし毒が弱く、魚の皮膚で防御されてしまうため、魚は捕まえられない。人間が刺されると、皮膚がかゆくなったり腫れたりすることがある。

エチゼンクラゲは体がベタベタしており、弱って泳げなくなると体の表面に細かいごみがまとわりつき、重くなって沈んでしまう。このような形で、地球の生物地球化学的循環(生物循環)に寄与している。

エチゼンクラゲにはしばしば魚が寄りついているが、相利共生ではなく一方的な寄生だと考えられている。京大フィールド研の2007年の研究では、エチゼンクラゲの約95%に魚が寄りついており、大部分がマアジの稚魚である[6]。毒のある触手の間をアジが隠れ家として利用しており、同時にエチゼンクラゲが集めたプランクトンを横取りしている(アジはクラゲを食べないようだ)。このような形で、アジはエチゼンクラゲとともに成長しながら旅をしていると考えられている。

またイボダイは隠れ家として利用しながら同時にエチゼンクラゲを捕食している。傘が破られると海底に沈んでしまい、貝・ヒトデ・カニなど海底の動物たちの餌食となる。このような形で、エチゼンクラゲが海底の食物連鎖に寄与する点も大きく、例えば、福井県では高級食材の「越前がに」として知られるズワイガニもエチゼンクラゲを捕食している[7]

天敵としてカワハギ類があげられる。特にウマヅラハギは集団でエチゼンクラゲを襲うことが判明し、石川県のカワハギ漁の漁師がエチゼンクラゲをウマヅラハギ漁の餌として実験して効果が確認されている(当地ではカワハギというとウマヅラハギのことであり、ウマヅラというとウスバハギのことである)。フグ目の仲間では、カワハギ類やキタマクラなどフグ類の魚が、弱ったり死んだエチゼンクラゲの傘を食べている事例が目撃されているが、ウマヅラハギは元気なエチゼンクラゲを生きたまま毒のある触手ごと食べてしまう。

定期的に大発生したり、激減したりするが、理由がよく解っていない。2009年は大発生して日本各地で漁業に大きな被害を与えたが、2010年度はその千分の一に激減した[8]


  1. ^ "Nemopilema nomurai Kishinouye, 1922". World Register of Marine Species英語版. 2023年2月9日閲覧
  2. ^ 岸上鎌吉 「エチゼンクラゲ」『動物學雜誌』34巻、343-346頁、1922年。
  3. ^ 県民の声(産業・イメージアップ)【平成23年度以前のご意見】-大型クラゲについて”. 福井県. 2022年1月11日閲覧。
  4. ^ “「エチゼンクラゲと呼ばないで」…福井県が要望”. 読売新聞. (2005年10月21日). オリジナルの2005年10月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20051023044235/https://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051021i107.htm 2005年10月21日閲覧。 
  5. ^ 独立行政法人水産総合研究センター 日本海区水産研究所 「大型クラゲ関連情報
  6. ^ クラゲと魚のつながりをフィールドからさぐる – 京大フィールド研
  7. ^ エチゼンクラゲとズワイガニ 兵庫県立農林水産技術総合センター 但馬水産技術センター
  8. ^ エチゼンクラゲ激減、昨年の千分の一に 東シナ海で調査 朝日新聞
  9. ^ 食用クラゲは6種類/エチゼンクラゲ/くらげ普及協会 くらげ普及協会
  10. ^ 独立行政法人理化学研究所プレスリリース クラゲから採取したムチン、関節治療への応用で動物実験に成功
  11. ^ TBS夢の扉+“海の厄介者” 巨大クラゲで地球を救う! 〜クラゲの保水力で山林の荒地を緑化する『夢の肥料』開発
  12. ^ 江崎次夫、河野修一、村上尚哉、上野太祐、兵藤充祥、大野博、松本淳一、土居幹治 ほか「エチゼンクラゲ類(Nemopilema spp.)を活用する山腹工」(PDF)『日本緑化工学会誌』第37巻第1号、2011年、151-154頁、doi:10.7211/jjsrt.37.1512020年12月26日閲覧 
  13. ^ 河野修一、江崎次夫、原浩之、村上博光、木原辰之、中山累、寺本行芳、金錫宇 ほか「「くらげチップ」を活用した山腹崩壊地の森林再生」(PDF)『日本緑化工学会誌』第46巻第1号、2020年、119-122頁、doi:10.7211/jjsrt.46.1192020年12月26日閲覧 
  14. ^ 毎日新聞2010年1月4日 ウマヅラハギ:餌のエチゼンクラゲ追って?やってきた 大漁にホクホク--福井
  15. ^ 福井県沿岸に大型クラゲが相次ぎ漂流 2009年以来の大量出現、「漁できなくなる」関係者ら危惧 福井新聞ONLINE
  16. ^ 小川元「大型クラゲの来遊について (PDF) 」『岩手県水産技術センター平成15年度水産試験研究成果等報告会講要』、15-16頁、2004年。
  17. ^ 「プレスリリース」関西電力『火力発電所におけるクラゲ大量発生による出力抑制について
  18. ^ 「ニュースアンカー」関西テレビ報道 『発電所にクラゲ大発生のワケ』
  19. ^ 毎日新聞 2006年6月10日夕刊 エチゼンクラゲ:中国の三峡ダム開発→東シナ海環境変化→大発生 仮説検証へ
  20. ^ 『図解 最新・地球の真実』宝島社、124-127頁、2008年
  21. ^ 原発停止の意外な余波!? エチゼンクラゲが激減している 日刊SPA!
  22. ^ 大阪読売新聞2005年10月21日夕刊 18ページ「エチゼンクラゲやめて 福井県、大型クラゲに呼び換え訴え」
  23. ^ [1]
  24. ^ [2]
  25. ^ 大型クラゲ洋上駆除用水中ポンプ
  26. ^ クラゲ処理技術の開発により廃棄物が従来の1%以下に低減 関西電力
  27. ^ 「大発生したクラゲ」を一掃する自律型ロボ(動画) WIRED.jp
  28. ^ 厄介者のクラゲ、水中ロボットが吸い込み粉砕…広島工業大など実証実験へ 読売新聞オンライン
  29. ^ 2年ぶりにエチゼンクラゲ展示/新江ノ島水族館”. カナロコ. 神奈川新聞社 (2009年10月19日). 2021年6月7日閲覧。
  30. ^ エチゼンクラゲとは”. コトバンク. 2021年6月7日閲覧。
  31. ^ ふあふあクラゲ館に「エチゼンクラゲ」を展示!”. インターネットミュージアム. 2021年6月7日閲覧。
  32. ^ エチゼンクラゲ:ゆらゆら 越前松島水族館 /福井”. 毎日新聞 (2016年9月18日). 2021年6月7日閲覧。






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