エチゼンクラゲ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/20 17:34 UTC 版)
漁業
渤海・黄海では漁獲され、食用に加工されている。ビゼンクラゲに比べて歯ごたえ等が悪く、価格が安い。主に食用とする傘の部分は表面がざらざらしている上に肉が薄い。口腕の部分はほとんど利用されることはない。品質が低いため、多くは中華料理店などの業務用ではなく加工用に回され、日本のスーパーで「塩くらげ」や「中華くらげ」などの商品名で販売されている惣菜用クラゲの多くはエチゼンクラゲである。
以前は低級なエチゼンクラゲを中国国内用に、高級なビゼンクラゲを日本への輸出用にしていたが、近年は中国国内の活況でビゼンクラゲの需要が伸びているのと、日本の景気悪化もあって、中国から日本に輸入されるクラゲのかなりの部分をエチゼンクラゲが占めるようになった[9]。
日本では京都府や福井県などにいくつかの加工業者があるが、ほとんど漁獲されていない。エチゼンクラゲは大きくて重くて労力がかかる割に価格が安く、人件費を考えると海外産と比べて割に合わないためである。日本は主に東南アジア産の「塩くらげ」を年7000トンから10000トン規模で輸入しており、国内でのクラゲの需要は十分満たされている。日本でもクラゲが漁獲されてベトナムや中国向けに輸出されているが(実はクラゲを最も多用するのは中華料理よりもベトナム料理である)、エチゼンクラゲではなく高級な有明クラゲ(有明海で採れるビゼンクラゲのブランド。ビゼンクラゲとは別の種と言う説もある)が主である。そのため、魚と一緒に漁獲されたエチゼンクラゲは野積みして放置されるか(エチゼンクラゲは97%が水なので、時間経過と共に腐って液化して無くなる。これは最も安価な処分方法だが、長期間使える広い場所が必要になることと、悪臭に悩まされる問題がある)、産業廃棄物として処理される(破砕するとそのまま下水に流せる)。
加工の仕方によっては刺身のような食感が得られるため、日本国内でもその特性に合った利用法を追求しようという動きが広がっている。鶴岡市立加茂水族館では常時エチゼンクラゲ料理を提供している。福井県等特に多く見られる地域では細かくしてアイスクリームに入れ、エチゼンクラゲアイスとして販売されることもある。
エチゼンクラゲの体内には豊富なムチンが含まれており、これを化粧品や再生医療に利用しようという研究もなされている[10]。
愛媛大学農学部にて保水性の高いエチゼンクラゲを土壌改良材として研究開発、山林などの緑化で実証実験をしている[11][12][13]。
鳥取県にはエチゼンクラゲを利用してウマヅラハギを専用に捕獲する「カワハギ網」というものがある。網の中央の餌袋にエチゼンクラゲを括り付けて海底に設置すると、ウマヅラハギが集団で網の中にやってくるので、これを捕獲する。一般的なオキアミよりも食いつきが良い上に、エサ代がただである。
なお、エチゼンクラゲが大発生すると、エチゼンクラゲを餌として好む魚介類も繁殖し、豊漁となる。2009年から2010年にかけてのウマヅラハギの豊漁はエチゼンクラゲの大発生によるものと見られている[14]。
- ^ "Nemopilema nomurai Kishinouye, 1922". World Register of Marine Species. 2023年2月9日閲覧。
- ^ 岸上鎌吉 「エチゼンクラゲ」『動物學雜誌』34巻、343-346頁、1922年。
- ^ “県民の声(産業・イメージアップ)【平成23年度以前のご意見】-大型クラゲについて”. 福井県. 2022年1月11日閲覧。
- ^ “「エチゼンクラゲと呼ばないで」…福井県が要望”. 読売新聞. (2005年10月21日). オリジナルの2005年10月23日時点におけるアーカイブ。 2005年10月21日閲覧。
- ^ 独立行政法人水産総合研究センター 日本海区水産研究所 「大型クラゲ関連情報」
- ^ クラゲと魚のつながりをフィールドからさぐる – 京大フィールド研
- ^ エチゼンクラゲとズワイガニ 兵庫県立農林水産技術総合センター 但馬水産技術センター
- ^ エチゼンクラゲ激減、昨年の千分の一に 東シナ海で調査 朝日新聞
- ^ 食用クラゲは6種類/エチゼンクラゲ/くらげ普及協会 くらげ普及協会
- ^ 独立行政法人理化学研究所プレスリリース クラゲから採取したムチン、関節治療への応用で動物実験に成功
- ^ TBS夢の扉+“海の厄介者” 巨大クラゲで地球を救う! 〜クラゲの保水力で山林の荒地を緑化する『夢の肥料』開発
- ^ 江崎次夫、河野修一、村上尚哉、上野太祐、兵藤充祥、大野博、松本淳一、土居幹治 ほか「エチゼンクラゲ類(Nemopilema spp.)を活用する山腹工」(PDF)『日本緑化工学会誌』第37巻第1号、2011年、151-154頁、doi:10.7211/jjsrt.37.151、2020年12月26日閲覧。
- ^ 河野修一、江崎次夫、原浩之、村上博光、木原辰之、中山累、寺本行芳、金錫宇 ほか「「くらげチップ」を活用した山腹崩壊地の森林再生」(PDF)『日本緑化工学会誌』第46巻第1号、2020年、119-122頁、doi:10.7211/jjsrt.46.119、2020年12月26日閲覧。
- ^ 毎日新聞2010年1月4日 ウマヅラハギ:餌のエチゼンクラゲ追って?やってきた 大漁にホクホク--福井
- ^ 福井県沿岸に大型クラゲが相次ぎ漂流 2009年以来の大量出現、「漁できなくなる」関係者ら危惧 福井新聞ONLINE
- ^ 小川元「大型クラゲの来遊について (PDF) 」『岩手県水産技術センター平成15年度水産試験研究成果等報告会講要』、15-16頁、2004年。
- ^ 「プレスリリース」関西電力『火力発電所におけるクラゲ大量発生による出力抑制について』
- ^ 「ニュースアンカー」関西テレビ報道 『発電所にクラゲ大発生のワケ』
- ^ 毎日新聞 2006年6月10日夕刊 エチゼンクラゲ:中国の三峡ダム開発→東シナ海環境変化→大発生 仮説検証へ
- ^ 『図解 最新・地球の真実』宝島社、124-127頁、2008年
- ^ 原発停止の意外な余波!? エチゼンクラゲが激減している 日刊SPA!
- ^ 大阪読売新聞2005年10月21日夕刊 18ページ「エチゼンクラゲやめて 福井県、大型クラゲに呼び換え訴え」
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ 大型クラゲ洋上駆除用水中ポンプ
- ^ クラゲ処理技術の開発により廃棄物が従来の1%以下に低減 関西電力
- ^ 「大発生したクラゲ」を一掃する自律型ロボ(動画) WIRED.jp
- ^ 厄介者のクラゲ、水中ロボットが吸い込み粉砕…広島工業大など実証実験へ 読売新聞オンライン
- ^ “2年ぶりにエチゼンクラゲ展示/新江ノ島水族館”. カナロコ. 神奈川新聞社 (2009年10月19日). 2021年6月7日閲覧。
- ^ “エチゼンクラゲとは”. コトバンク. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “ふあふあクラゲ館に「エチゼンクラゲ」を展示!”. インターネットミュージアム. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “エチゼンクラゲ:ゆらゆら 越前松島水族館 /福井”. 毎日新聞 (2016年9月18日). 2021年6月7日閲覧。
エチゼンクラゲと同じ種類の言葉
クラゲに関連する言葉 | オビクラゲ ギンカクラゲ エチゼンクラゲ オキクラゲ ハコクラゲ |
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