イッカク 生息数と分布

イッカク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:40 UTC 版)

生息数と分布

イッカクが見られる海域は北極海の北緯70度以北、大西洋側とロシア側である。多くはハドソン湾北部、ハドソン海峡バフィン湾グリーンランド東沖、グリーンランド北端から東経170度あたりの東ロシアにかけての帯状の海域(スヴァールバル諸島ゼムリャフランツァヨシファセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島など)などで見られる。目撃例の最北端はゼムリャフランツァヨシファの北、北緯85度で、北緯70度以南で観察されることは稀である。

大多数の個体が棲息している海域は、カナダの北やグリーンランドの西のフィヨルドや入り江であると推測されている。航空機を用いた上空からの調査により、生息数は約4万頭程度であるという結果が報告されている。上空からは視認できない深度の海中にいたであろう個体数を加算すると、全生息数は5万頭を超えると推測される。特にランカスター海峡は、世界のイッカクの4分の3が集中しているとの推定がある[9]

回遊する性質を持ち、夏の間は海岸近くの海域に移動する。冬が近づき海の凍結が始まると、海岸から離れて浮氷に覆われた海域に移動する。春になり浮氷の裂け目が広がる季節になると、再び海岸の近くに戻ってくる。

イッカクの主な捕食者はホッキョクグマシャチである。

人間との関わり

1975年のワシントン条約発効時にはカナダの個体群がワシントン条約附属書IIIに、1979年に鯨単位でワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

捕鯨と保護

イヌイットによるイッカクの捕獲は法律で認められている。グリーンランドではなどを用いた伝統的な捕鯨が行われているが、カナダ北部では高速船と捕鯨用ライフルを用いた捕鯨も良く行われている。PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)などの動物保護団体はイッカクの捕鯨に対し長い間反対し続けている。

イッカク神話

イッカクの棲む海域はヨーロッパの人々にとってはあまりにも北であったため、19世紀までは伝説の動物だった。イヌイットとの交易を通してのみ、イッカクの存在が伝わっていた。イヌイットの間ではある女性が銛にしがみついたまま海に引きずり込まれ、その後、女性はシロイルカにくるまれ、銛は牙となって、それがイッカクとなったという伝説が伝わっている。

角について

中近世ヨーロッパでは、ユニコーンの角には解毒作用があるという伝承があったため、ユニコーンの角と偽ってイッカクの角が売買された。

江戸時代の日本でも、オランダ商人を通じてイッカクの角がユニコーンの角として輸入されており、「烏泥哥兒」(うにかうる、うにこーる)などと呼ばれていた[11]。ユニコーンの角は今村源右衛門(今村英生)や青木昆陽によって紹介されており[11]、当時の百科事典『和漢三才図会』にも掲載されていた[12][13]。そのようななかで、木村兼葭堂(木村孔恭)は『一角纂考』を著した[11]。同書では、オランダ人による北極捕鯨誌などをもとに[14]、西洋のユニコーンの伝説だけでなく、その正体であるイッカクの生態や詳細な骨格、さらには珍しい二本角のイッカクのことも紹介している[15]

注釈


  1. ^ 鯨目単位で掲載
  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> (downroad 01/06/2020)
  2. ^ a b UNEP (2020). Monodon monoceros. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 01/06/2020)
  3. ^ a b c d e f Lowry, L., Laidre, K. & Reeves, R. 2017. Monodon monoceros. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T13704A50367651. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T13704A50367651.en. Downloaded on 01 June 2020.
  4. ^ a b c James G. Mead & Robert L. Brownell Jr., "Order Cetacea,". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 723-743
  5. ^ 『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。 
  6. ^ 『鯨類学』 図鑑/世界の鯨類51
  7. ^ a b 日本ヴォーグ社 1996, p. 96.
  8. ^ 新樹社 2005, p. 197.
  9. ^ a b c Sarah Gibbens (2017年5月17日). “【動画】イッカクは牙で叩いて魚を捕る、初確認”. ナショナルジオグラフィック. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/051600084/ 2020年5月11日閲覧。 
  10. ^ 日本ヴォーグ社 1996, p. 99.
  11. ^ a b c 岸田知子 『漢学と洋学 伝統と新知識のはざまで』 大阪大学出版会、2010年。ISBN 978-4872592450。p.33-36
  12. ^ 和泉雅人 (1992). “一角獣研究-2-江戸期の一角獣表象”. 芸文研究 (慶応義塾大学芸文学会) 60: 136. NAID 40000969082. 
  13. ^ 和漢三才図会. 中之巻』 - 国立国会図書館デジタルコレクション
  14. ^ 『一角纂考』”. 甲南女子大学. 2020年5月15日閲覧。
  15. ^ 一角纂考』 - 国立国会図書館デジタルコレクション


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