おなり神 儀式

おなり神

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/09 08:12 UTC 版)

儀式

イザイホーの祭りの中にて、兄を持つ妹がおなり神となる儀式が執り行われる。兄はイザイホーの祭りの前になると、妹に祭りの時に身に付ける神衣や下着類を作る白生地を贈る。祭りの最終日に、トウツルモドキの葉の冠を被った妹は、座敷に上がってカヤの敷物の上に座り、兄と向き合って神酒の椀を飲み交わす。それが終わると、立ち会ったノロがトウツルモドキの葉の冠を妹の頭から取って兄に渡す。これによって妹は兄を守護するおなり神となる[9]

神女に兄がいない際は、弟か甥かいとこがえけりの役をする。

その他の伝承

八重山諸島小浜島の嘉保根御嶽(かふにわん)の伝承では、島からの献上物として麻を納めており、妹が麻を織り、兄が献上をしに航海をし、妹が兄の安全を祈願していた。麻を織っていた所に雨が降り米の籾が濡れてしまい駄目になった。怒った兄が妹を打ち据えたところ、妹は悲しみどこかへ消え去ったと言う。残された家族にはさまざまな不幸が起き、妹の御霊が東海岸(御嶽の元々の拝所があった)に現れたので、海の神として祭ったと言う。この祭所が御嶽となり集落の守り神となったと言う。この伝承は、おなりとえけりの間だけで完結する守護の関係が、御嶽と言う集落全体を守護する存在に転化する事例として重要である[8]

現在

太平洋戦争中、沖縄県では妹からもらったものをお守りとして戦地に行ったという逸話が多く聞かれた。現在も集落単位でのおなり神信仰は存続しており、根人・根神という存在は広く見られる他、王国以来の特別な聖地である久高島には、「男は海人(うみんちゅ:漁師)、女は神人(かみんちゅ:神職者)」というが残り、現在も成人既婚女性のほぼ全員がなんらかの神人(神職者)となっている。

琉球外の兄妹信仰

邪馬台国

日本本土においては、宗教的な権能を持つ卑弥呼と世俗政治面で支配していたその弟という組み合わせが姉妹の霊が兄弟を保護するという信仰に近いと指摘されることもある。

奄美

ウナリ神信仰を基盤とした祭政一致社会が古奄美に見られる。

インド

日本国外の兄妹信仰では、インドのアッサム地方アンガミ・ナガ族の例が挙げられる。アンガミ・ナガ族は、妹は戦士となった自分の兄に髪の毛を贈り、兄はそれを自分が持つ盾に飾る。そして、兄が帰ってくる度に妹はいくらかの髪を与えることになっている[10]

インドネシア

インドネシアライジュア島やサブ島でも姉妹がその兄弟を霊的に守護するという信仰があり、兄(弟)が危険な場所に旅立つ時にはその妹(姉)は自ら織ったイカットという布を兄弟に贈る[11]


  1. ^ 馬淵東一 (1955). “沖縄先島のオナリ神”. 日本民俗学 (日本民俗学会). 
  2. ^ a b c 横山邦治先生叙勲ならびに喜寿記念論文集編集委員会編 『日本のことばと文化 日本と中国の日本文化研究の接点 横山邦治先生叙勲ならびに喜寿記念論文集』渓水社、2009年10月、604-618頁。 
  3. ^ a b c d e f g 屋嘉宗克「民俗学的琉歌の研究(4)(上)「おなり神信仰」を中心として」『沖縄国際大学文学部紀要 国文学篇』第13巻第1号、沖縄国際大学文学部、1984年10月、 15-30頁。
  4. ^ 『神の文化史事典』白水社, 2013年, p.158
  5. ^ 谷川健一『日本の神々』岩波書店, 1999年, p.221
  6. ^ 大林太良『世界の女性史2 未開社会の女 母権制の謎』評論社, 1975年, p.133
  7. ^ 『沖縄民俗辞典』吉川弘文館, 2008年, p.107
  8. ^ a b 高野(1992)
  9. ^ 谷川 健一『日本の神々』岩波書店, 1999年, p.220
  10. ^ 大林太良『世界の女性史2 未開社会の女 母権制の謎』評論社, 1975年, pp.138-140
  11. ^ 鍵谷明子 『インドネシアの魔女』 學生社、1996年、p.88 ISBN 978-4-311-20203-2


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