バリュー・ネットワーク
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/16 14:02 UTC 版)
バリュー・ネットワーク(英: Value Network)とは、経営学および組織論における概念であり、企業が顧客のニーズを特定し、それに対応し、問題を解決し、競合他社に反応し、利益を追求するための文脈や相互依存的なエコシステムを指す。
ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンが著書『イノベーションのジレンマ』において、既存の優良企業がなぜ破壊的イノベーションを見逃し、市場での優位性を失うのかを説明するために提唱したことが知られている[1]。
概要
クリステンセンの理論におけるバリューネットワークは、破壊的イノベーション論の中核をなす概念である。
伝統的なマイケル・ポーターのバリュー・チェーン(価値連鎖)が、原材料から最終製品に至るまでの線形的な価値付加プロセスに着目するのに対し、バリューネットワークは、企業を取り巻くサプライヤー、パートナー、流通業者、顧客、そして補完的なサービス提供者までを含んだ「網の目状(ネットワーク状)」の相互関係に着目する。
企業がどのバリューネットワークに属しているかによって、その企業にとっての価値の定義が決定され、資源配分の優先順位が規定される。
価値の定義とコスト構造
各バリューネットワークには、独自の価値の順位付けが存在する。
- 性能指標の相違: 例えば、メインフレーム・コンピュータのネットワークでは処理能力と信頼性が重視されるが、ポータブル・コンピュータのネットワークでは小型化と低消費電力が重視される。
- コスト構造の呪縛: 企業は特定のネットワーク内で利益を最大化するようにコスト構造を最適化する。高マージンを必要とするネットワークに適合した企業は、初期段階で低マージンしか生まない新しいネットワーク(破壊的技術)に参入することを、合理的な判断として却下してしまう。
クリステンセンは、企業の失敗は経営能力の欠如ではなく、「優れた経営判断」そのものが、特定のバリューネットワーク内での最適化を促し、結果として新たなネットワーク(破壊的技術)への適応を阻害すると論じた。
製品アーキテクチャとの入れ子構造
バリューネットワークは、製品の物理的なアーキテクチャと鏡像関係にある「入れ子構造」を持つ。
- 製品が「部品→サブシステム→システム」という階層構造を持つように、ネットワークも「部品メーカー→サブシステムメーカー→システムインテグレーター」という階層を持つ。
- ある階層でのイノベーションは、その上位または下位の階層におけるネットワークの制約を受ける。
資源配分のメカニズム
企業のリソース(ヒト・モノ・カネ)は、経営者の恣意的な意思決定だけでなく、バリューネットワークからの圧力(顧客や投資家の要求)によって配分される。
「顧客が望まない技術には投資できない」
このメカニズムにより、既存企業は現在のネットワーク内で顧客が求める持続的イノベーションには強力に投資するが、現在の顧客がまだ評価しない(別のバリューネットワークに属する)破壊的技術への投資は後回しにされる。
関連項目
参考文献
- ^ クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社、2000年2月1日。
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