The Over-Soul
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/10/08 15:45 UTC 版)
| ラルフ・ワルド・エマーソンのエッセイ | |
| 基本情報 | |
|---|---|
| 著者 | ラルフ・ワルド・エマーソン |
| 初出 | 1841年(『エッセイ集 第一集』第9編) |
| 原題 | The Over-Soul |
| 収録 | Essays: First Series |
| 主題 | 人間の魂、自我と魂の関係、魂どうしの関係、魂と神の関係 |
| 関連する思想 | 超越主義、プラトン主義、新プラトン主義 |
『The Over-Soul』(オーバーソウル)は、アメリカの思想家ラルフ・ワルド・エマーソンのエッセイ、およびそこで論じられる概念である。1841年刊行の『エッセイ集 第一集』(Essays: First Series)に、 9番目の論考として収められた[1]。
エマーソンは「個々の事物や個々の人間は全体の部分として現れるにすぎず、その全体を成しているのは「Soul」である」と説いた[2]。
この考えにはプラトン主義と新プラトン主義、とりわけプロティノスの思想との関連が指摘されている[3]。またエマヌエル・スヴェーデンボリの「照応」の思想との関係も論じられている[4]。
後世には、アメリカのネイチャーライティングや環境思想の背景となった自然観の一部として読まれてきた[5]。
概要
『エッセイ集 第一集』は12編からなり、『Self-Reliance』を含む超越主義の代表的な論考集である[1]。同集の諸編は、超越主義の理論の土台となる「一なるもの・すべてなるもの」という考えを表現しており、『The Over-Soul』という題名自体がこの統一原理を示す[2]。
『The Over-Soul』でエマーソンが用いる「ソウル」(soul)(大霊、世界霊 とも)は、キリスト教神学でいう不死の魂というよりも、神あるいは人間のうちに宿る神的な側面を指す語として使われている[3]。
主な内容
- 全体としての魂
- 人は世界を太陽、月、動物、木といったばらばらの部分として見るが、「それらを輝く部分として含む全体こそがSoulである」と述べる(原文:"We see the world piece by piece, as the sun, the moon, the animal, the tree; but the whole, of which these are the shining parts, is the soul.")[2]。
- 内なる全体
- 人は時間的な継起や分割のなかで生きているが、「人のうちには、全てのSoul・賢明なる沈黙・普遍の美がある」という趣旨の一節がある(原文:"within man is the soul of the whole; The wise silence; The universal beauty")[6]。
影響を受けたもの
エマーソンの超越主義は複数の源泉をもつ。ドイツ・ロマン主義の思想家やカーライルの影響、仏教やヒンドゥー教などインド亜大陸の宗教体系の研究に加え、その中心にはプラトンと新プラトン主義、とりわけプロティノスが見いだせる[3]。
プラトン主義と新プラトン主義
エマーソンのプラトン主義への関心は、トマス・テイラーによる英訳プラトンの読書から始まった。研究者リチャード・ゲルダードは、1826年に始まったこの読書が、エマーソンにとって「知的な足場」になったと述べる[7]。
また、初期の著作『Nature』(1836年)は、ラルフ・カドワースらケンブリッジ・プラトン学派に代表される新プラトン主義に根ざしているとも解説される[4]。
プロティノスとの関係
プロティノス(205年頃 - 270年)は『エネアデス』において、あらゆる存在が「一者」から流出し、最終的にそこへ還ろうとすると説いた。プロティノスの神的原理は「一者」「ヌース(知性)」「プシュケー(全霊、世界霊魂)」の三つの位階からなる[8]。
ハーパーズ誌の論考は、「エマーソンの超越主義の核心にプラトンと新プラトン主義者、とりわけプロティノスがある」とし、「Soul」「The Over-Soul」「世界霊」という語を、キリスト教的な不死の魂ではなく神的なものを指す、プラトン的かつ新プラトン的な用法だと位置づける[3]。
両者の接点は、「部分の背後にある単一の魂」という全体観にある。一方で、プロティノスが一者から流出する(段階的に下降する)位階構造を詳述するのに対し、エマソンの『The Over-Soul』では「個々人が直観を通じて直接 The Over-Soul に参与しうると説く」違いがある。
ロマン主義・ドイツ観念論
エマーソンは、カーライルを介してドイツの思想に触れた[7]。「The Over-Soul」「自然の神性」「生きた有機体としての自然」について、シェリングの影響を指摘する研究もある[9]。
東洋思想
スヴェーデンボリ
エマーソンは、サンプソン・リードの『精神の成長についての観察』を通じてスヴェーデンボリを知った[4]。のちに自著『代表的人間』(1850年)で「スヴェーデンボリ、あるいは神秘家」と題する一章を書いた[10]。
スヴェーデンボリの影響の大きさには評価が分かれる。クラレンス・ホットソンは1929年に「スヴェーデンボリが直接・間接にエマーソンへ与えた影響は他のどの著者よりも大きい」と述べる[11]。一方で、自然における照応という発想は、すでにニューイングランドの知的伝統のなかに別の形で存在していたため、系譜の特定は容易でないという指摘もある[11]。
自著『代表的人間』の中でエマーソンは、スヴェーデンボリを称賛すると同時に厳しい批判もしている。彼は、スヴェーデンボリの照応の思想を「自然における普遍的法則・プラトン的な段階(位階)の教説・あらゆる部分の照応・人間の中心性」として評価する[10]。しかし「スヴェーデンボリの神学的な偏りがその自然解釈を狭めた」という趣旨の批判も述べる[12]。
影響を与えたもの
超越主義とアメリカ文学
超越主義運動はアメリカ文学の方向を大きく形づくった。エマーソンとソローの教えを受けて新たな道に進んだ作家は多く、またポー、ホーソーン、メルヴィルのように、その反動として独自の創作に向かった作家もいる[5]。
ネイチャーライティングと環境思想
超越主義の思想と形式が今日もっとも目に見える形で現れているのは、ネイチャーライティングのジャンルである。そのルーツには、エマーソンの『Nature』に由来する世界観と、ソローの『ウォールデン 森の生活』の文学的着想があるという。
ジョン・ミューアやジョン・バロウズから、アルド・レオポルド、レイチェル・カーソン、エドワード・アビー、ゲーリー・スナイダーらまで、この系譜に連なる書き手として挙げられている[5]。
また、『The Over-Soul』を含む自然観に見られるシェリング的要素(自然の神性、生きた有機体としての自然)が、後のアメリカの環境思想に及ぼした帰結を論じる研究もある[9]。
関連項目
脚注
- 1 2 “Essays — First Series by Ralph Waldo Emerson” (英語). Project Gutenberg. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 “Essays: First Series (1841)” (英語). Vegan Literary Studies: An American Textual History, 1776-1900. ジュネーヴ大学. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 “Emerson's World-Soul” (英語). Harper's Magazine (2009年6月). 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 “American Transcendentalism Web: Roots of Transcendentalism” (英語). ヴァージニア・コモンウェルス大学. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 “American Transcendentalism Web: Transcendental Legacy (Literature)” (英語). ヴァージニア・コモンウェルス大学. 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “Essays (Ralph Waldo Emerson)” (スウェーデン語). Adlibris. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 “Antecedents of New Thought: Ralph Waldo Emerson” (英語). TruthUnity. 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “Plotinus” (英語). Borges Center, University of Pittsburgh. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 “Possibilities for American Environmental Thought” (英語). Cognitio-Estudos 2026年10月6日閲覧。.
- 1 2 “Representative Men by Ralph Waldo Emerson” (英語). EBSCO Research Starters. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 “The Sage and His Mystic: Ralph Waldo Emerson and Emanuel Swedenborg” (英語). New Church History. 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “Ralph Waldo Emerson” (英語). Bayside Church. 2026年10月6日閲覧。
外部リンク
- Essays — First Series(プロジェクト・グーテンベルク、英語)
- The Over-Soulのページへのリンク