ハンガー反射とは? わかりやすく解説

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ハンガー反射

(Hanger Reflex から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/28 04:44 UTC 版)

ハンガー反射(ハンガーはんしゃ、英: Hanger Reflex)とは、頭部ワイヤーハンガーなどで挟み軽く圧迫すると、無意識に頭部が回転するような動きを誘発する現象である。日本の研究者によって報告され、医療、工学分野への応用も研究されている。

概要

ハンガー反射:装着の様子

ハンガー反射は、針金のハンガーを頭にかぶると頭部が回転するような感覚が生じる現象である。この反応は意図的な運動ではなく、反射的または錯覚的運動とされている。テレビ番組やインターネット上で「ハンガーで頭が勝手に回る現象」として紹介され、一般にも知られている。

発見と研究の歴史

この現象は、1995年1月20日に『探偵ナイトスクープ』において「金属製ハンガーを頭にはめると自然に首が回る」現象として紹介され、その後もたびたびバラエティ番組でとり上げられてきた。本現象に関する体系的な報告は日本の研究者である梶本裕之電気通信大学)らによって2000年代後半に報告され、その際にハンガー反射と命名された。これらの一連の報告においては、「側頭部前方と、反対側の後頭部側方への圧迫により頭部回旋が誘発される」とされている[1][2]

ハンガー反射の医学分野への応用に関しては日本の研究者である旭雄士(金沢脳神経外科病院)らによって2000年代後半に開始された[3][4]。その主たるアイデアは、頭部回旋を伴う疾患である痙性斜頸に対して、ハンガー反射による回旋での症状改善を目指すものであった。

並行して、ハンガー反射をヒューマンインタフェース分野における頭部運動提示に応用する研究がすすめられた。2000年代終盤には、頭部回転感覚を触覚刺激で提示する装置が提案されている[5]。さらに、身体の他部位(など)にも同様の現象が生じることが報告され、ハンガー反射を利用したデバイスの開発が継続的に進められている[6]

なおハンガー反射と非常によく似た現象がJ. E. Christensenによって1991年に報告されている[7]。この報告では痙性斜頸の新しい治療法に関連して、段ボール箱を頭からかぶることによって頭部回旋を生じさせ得ることを示している。これは現在ハンガー反射として知られている現象そのものであると考えられる。

原理と仮説

ハンガー反射の神経生理学的な機構は完全には解明されていないが、いくつかの仮説が提示されている。

  • 皮膚せん断刺激仮説:ハンガーによる皮膚の横方向変位(せん断)が、回転方向への錯覚的力覚を引き起こす。
  • 固有感覚刺激仮説筋紡錘器官が刺激されることで、頭部の姿勢制御系にバイアスが生じる。

これらの仮説は、皮膚刺激と運動の相互作用を説明する上で重要な手がかりを与えるとされている。特に皮膚せん断刺激仮説に関しては、顔面部の皮膚を軽く牽引するだけでハンガー反射を生じさることが確認されており[8]、ハンガー反射において皮膚の圧迫そのものは必須要件でないことを示唆している。

なお皮膚の横方向変位が主要因とするなら、一般的なテーピングによってもハンガー反射を生じるのではないかと想像される。しかし一般的なテーピングの場合、テーピング開始位置で一方向の皮膚変位を生じさせると、テーピング終了位置で逆方向の皮膚変位を生じる場合が多く、これらの効果が相殺してしまう。これが単純なテーピングではハンガー反射がほとんど見られない要因と考えられる。これに対してハンガー等を用いた圧迫では、複数の皮膚接触部位において同一の頭部回旋方向の皮膚変位が生じるため、こうした相殺が生じない。これがハンガー反射において皮膚を軽く圧迫する装置が必要に見える理由の一つと考えられる。

ハンガー反射は振動の付与によって増強することも知られている[9]。この増強が皮膚感覚の強調によるものか、固有感覚との協調によるものかは明確にはなっていない。

ハンガー反射の原理検証に向けた神経生理学的な研究はいくつか行われている。例えばハンガー反射誘発中に前庭反応が非対称に低下することが発見されている[10]。またハンガー反射を生じている際の頸部の表面筋電図の計測が行われている[11]

装着方法

ハンガー反射の原理

前述のようにハンガー反射を生じるためには皮膚の「横ずれ」が必要となる。このため装着の際にはこの横ずれを生じやすい装着方法を意識する必要がある。金属ワイヤ製のハンガーを用いる場合、三角形の長辺が前側頭部に当たるようにすると誘発されやすい(引用文献[12] Movie1を参照)。この時、頭部の形状が真円でないことから、ハンガーは頭部の長軸方向に沿うように回旋しようとし、接触部に皮膚の横ずれを生じる。この横ずれに従うように頭部回旋を生じる。例えば右側頭部前方を圧迫すると右回旋を生じ、左側頭部前方を圧迫すると左回旋を生じる。

この観察から、頭部断面が真円に近いとハンガー反射は生じにくいことがわかる。これがハンガー反射の個人差の原因の一つとなる。またハンガー反射に対する説明として時折みられる「知覚される外力に対する「反発」」は考えにくいことが分かる。

ハンガー反射は応用においては金属ワイヤ製ハンガーを用いることは稀であり、金属または樹脂製の楕円形リングを用いたり、その内側に空気圧などによるアクチュエーション機構を内蔵する場合がある[13]。いずれの場合も皮膚の横ずれの効率的な発生を促している。

応用分野

ハンガー反射の応用研究は、主に医療・工学分野で行われている。

ジストニアへの適用
ハンガー反射デバイスの例

前述のようにハンガー反射のジストニアへの適用は、1991年のChristensenの報告に源流を見ることができる。現在に至るまで複数の適用例が報告されている[12][14][15]。その多くは頚部を対象としたものであるが、ランナーのジストニアに対して足首にハンガー誘発装置を適用したものや[16]、上肢のジストニアに対して前腕に同装置を適用したものも報告されている[12]

これらの応用では、金属製ないし樹脂製の輪を用いたものが多く用いられ、製品化も行われている[17][18][19]。楕円形の輪を頭部に装着し、回しずらすことによって、輪の弾性力が側頭部前方に加わる。これによって前述のハンガー反射を生起させる部位に適切な圧力が加わり、皮膚変形が引き起こされる。

リハビリテーションへの適用 

遠隔リハビリテーションのために全身のハンガー反射を利用したものが報告されている[20]。また、脳卒中後のlateropulsionに対するリハビリテーションにハンガー反射を応用した報告がされている[21]

ヒューマンインタフェースとしての応用

ハンガー反射は皮膚の横ずれによって生じるため、頭部のみならず身体全体で生じさせることができる。このことを利用して多くのヒューマンインタフェース分野への応用が進められている。

頭部のハンガー反射に関しては、ヘッドマウントディスプレイと組み合わせることで、頭部回転感覚を触覚的に提示する研究が行われている[22]。またハンガー反射を利用し遠隔地の人の頭部を回転させることで相手の頭部回転感覚を直感的に共有できる装置も提案されている[23]

腰部ハンガー反射を用いた応用では、歩行制御が可能となることが知られている[24][25]。腰部へのハンガー反射は身体の重心移動を伴うことから、いわゆるパーソナルモビリティへの応用も可能となることが報告されている[26]

肩を持ち上げるタイプのハンガー反射装置が開発されている[27]。また肘の回旋を促すハンガー反射装置が開発されており、手首のハンガー反射と併用されている[28]

ハンガー反射と他の運動生起手段を組み合わせることでより効率的あるいは相補的な運動教示に用いる試みが行われている。例えば筋電気刺激との組み合わせが提案されている[29]

社会的反響

ハンガー反射はテレビ番組やSNSでも話題となり、「ハンガーで頭が回る不思議な現象」として一般に紹介されている。一方で、科学的な理解が十分でないまま模倣されることも多く、装着方法の明らかな間違いも見られる。研究者らは誤解や誇張を避けるため、学術的根拠に基づく正確な情報発信を推奨している。

関連項目

出典

  1. ^ Matsue R, Sato M, Hashimoto Y, Kajimoto H (2008). “"Hanger reflex": A reflex motion of a head by temporal pressure for wearable interface”. SICE Annual Conference: 1463-1467. doi:10.1109/SICE.2008.4654889. 
  2. ^ 佐藤 未知, 松江 里佳, 橋本 悠希, 梶本 裕之 (2014). “ハンガー反射 : 頭部圧迫による頭部回旋反応の条件特定と再現”. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 19(2), 295–301. doi:10.18974/tvrsj.19.2_295
  3. ^ 旭雄士, 林央周, 浜田秀雄, 佐藤未知, 梶本裕之, 高嶋修太郎, 遠藤俊郎(2010)ハンガー反射を用いた頸部ジストニア治療の試み. 機能的脳神経外科 49, 173-176.
  4. ^ 旭雄士 (2017). 【ジストニアとジスキネジア】「ハンガー反射」の不思議. Modern Physician, 37(6), 554-556
  5. ^ Sato, M., Matsue, R., Hashimoto, Y., Kajimoto, H. (2009) Development of a head rotation interface by using Hanger Reflex. RO-MAN 2009 - The 18th IEEE International Symposium on Robot and Human Interactive Communication, pp. 534-538, doi:10.1109/ROMAN.2009.5326327.
  6. ^ Nakamura, T., & Kuzuoka, H. (2023). HangerBody: A haptic device using haptic illusion for multiple parts of body. SIGGRAPH Asia 2023 Emerging Technologies. doi:10.1145/3610541.3614586
  7. ^ Christensen, J. E. (1991) New treatment of spasmodic torticollis? Lancet 338(8766):573. doi:10.1016/0140-6736(91)91138-k
  8. ^ Miyakami, M., Takahashi, A., & Kajimoto, H. (2022). Head rotation and illusory force sensation by lateral skin stretch on the face. Frontiers in Virtual Reality, 3. doi:10.3389/frvir.2022.930848
  9. ^ 中村 拓人, 梶本 裕之 (2018). ハンガー反射下の手首への振動重畳による力知覚増強現象. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 23(1), 35–43. doi:10.18974/tvrsj.23.1_35
  10. ^ Takahashi, K., Johkura, K. (2022) Vestibulo-ocular reflex gain changes in the hanger reflex, Journal of the Neurological Sciences, Volume 438, 120277, doi:10.1016/j.jns.2022.120277
  11. ^ Wang, D., Liu, B. (2022). Effects of hanger reflex on the cervical muscular activation and function: A surface electromyography assessment. Frontiers in Physiology, vol.13. doi:10.3389/fphys.2022.1006179
  12. ^ a b c Asahi T, Nakamura T, Sato M, Kon Y, Kajimoto H, Sato S (2020). “The Hanger Reflex: An Inexpensive and Non-invasive Therapeutic Modality for Dystonia and Neurological Disorders”. Neurologia medico-chirurgica 60 (11): 525-530. doi:10.2176/nmc.ra.2020-0156. 
  13. ^ JP 6969769, "動き誘発装置および動き誘発プログラム", published 2021-11-01 
  14. ^ Asahi T, Sato M, Nakamura T, Kon Y, Kajimoto H, Oyama G, Hayashi A, Tanaka K, Nakane S, Takeshima T, Fujii M, Kuroda S (2018). Pilot study of a device to induce the hanger reflex in patients with cervical dystonia. Neurologia Medico-Chirurgica, 58(5), 206–211. doi:10.2176/nmc.oa.2017-0111
  15. ^ Kohara K, Horisawa S, Kawamata T. (2024). Sustainable Improvement of Anterocollis-type Cervical Dystonia with a Hanger Reflex Device: A Case Report. NMC Case Rep J., 21(11), 263-266.doi:10.2176/jns-nmc.2024-0146
  16. ^ Asahi T, Horisawa S, Nakamura T, Kajimoto H, Ichiro T (2025). The treatment of runner’s dystonia with zolpidem and a device inducing hanger reflex. Cureus, 17(8), e89749. doi:10.7759/cureus.89749
  17. ^ HangerCare”. HangerCare. 2026年1月1日閲覧。
  18. ^ JP 5552844, "装具", published 2014-06-06 
  19. ^ JP 6593605, "装具", published 2019-10-04 
  20. ^ Ogata, K., Nakamura, T., Kanazawa, S., Nobeshima, T., Kuzuoka, H., & Kurata, T. (2024). Remote rehabilitation system capable of sharing somatosensory sensations. Proceedings of the 46th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC). doi:10.1109/EMBC53108.2024.10781561
  21. ^ Matsumura, Mayumi; Matsuo, Hideaki; Sasaki, Hirohito; Kubota, Masafumi (2025-08). “Immediate changes in standing and walking when placing a hanger around the head of a patient with body lateropulsion: a case report”. Physiotherapy Theory and Practice 41 (8): 1754–1760. doi:10.1080/09593985.2025.2452902. ISSN 1532-5040. PMID 39819233. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39819233. 
  22. ^ Kon, Y., Nakamura, T., Yem, V., Kajimoto, H., "HangerOVER: Mechanism of Controlling the Hanger Reflex Using Air Balloon for HMD Embedded Haptic Display," 2018 IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (VR), 2018, pp. 609-610, doi:10.1109/VR.2018.8446582
  23. ^ Li, W., Nakamura, T., Rekimoto, J. (2022) RemoconHanger: Making Head Rotation in Remote Person using the Hanger Reflex. In Adjunct Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST '22 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 14, 1–3. doi:10.1145/3526114.3558700
  24. ^ 今 悠気, 中村 拓人, 梶本 裕之 (2017). ハンガー反射の歩行への影響. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 21(4), 565–573. doi:10.18974/tvrsj.21.4_565
  25. ^ 今 悠気, 中村 拓人, 梶本 裕之 (2017). 腰ハンガー反射を用いた歩行ナビゲーションにおける教示の影響. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 22(3), 335–344. doi:10.18974/tvrsj.22.3_335
  26. ^ Kobayashi, M., Kon, Y., Zhang, J., & Kajimoto, H. (2019). Hanger Drive: Driver manipulation system for self-balancing transporter using the hanger reflex haptic illusion. SIGGRAPH Asia 2019 Emerging Technologies (SA ’19). doi:10.1145/3355049.3360521
  27. ^ Okuda, K., Nakamura, T., Kuzuoka, H., Yamakoshi, K., & Suzuki, Y. (2025). A method for upper body posture modification using skin deformation presentation on the shoulders. IEEE World Haptics Conference 2025. doi:10.1109/WHC64065.2025.11123192
  28. ^ Nakamura, T., Kuzuoka, H., (2024) Rotational Motion Due to Skin Shear Deformation at Wrist and Elbow. IEEE Transactions on Haptics, vol. 17, no. 1, pp. 108-115, doi: 10.1109/TOH.2024.3362407
  29. ^ Sakashita, M., Hashizume, S., Ochiai, Y. (2019). Wrist-Mounted Haptic Feedback for Support of Virtual Reality in Combination with Electrical Muscle Stimulation and Hanger Reflex. In Human-Computer Interaction. Recognition and Interaction Technologies: Thematic Area, HCI 2019, Proceedings, Part II. Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg, 544–553. doi:10.1007/978-3-030-22643-5_43



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