膜電位固定法とは? わかりやすく解説

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膜電位固定法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 03:50 UTC 版)

ネガティブフィードバックにより機能する膜電位固定法。増幅器は測定された膜電位に基づいてフィードバック的に出力する。目的とする保持電位から現在の膜電位を引いて差分を増幅させたものを出力としている。図ではイカの巨大軸索へ刺した電極を通し、軸索にもう一方の電極で電流を注入している。

膜電位固定法(まくでんいこていほう、英語: voltage clamp[1]、または電圧固定法(でんあつこていほう)[2]は、電気生理学において電位を設定した状態に保持しながら興奮性細胞の細胞膜を横切るイオン電流を測定する実験手法である[3]。通常の膜電位固定法では繰り返し膜電位を測定しながら必要量の電流を加えることで固定したい膜電位に変わるようにする。細胞へ注入される電流は細胞膜を横切る電流に等しく逆向きに流れ、記録される電流は設定した膜電位に応じた細胞の反応を示す[4]。興奮性細胞の細胞膜には多種多様なイオンチャネルが存在しており、その一部は膜電位に応じて性質を変える電位依存性イオンチャネルである。膜電位固定法ではイオン電流とは別で膜電位を人為的に操作できるため、イオンチャネルの電流-電位(I-V)関係を知ることができる[5]

歴史

Coleの肖像画。J. Walter Woodburyへ贈られたもの。

膜電位固定法の概念は1947年春[6]のKenneth Stewart Cole英語版[7]とGeorge Marmontの貢献によるところが大きい[8]。彼らはイカの巨大軸索に電極を挿入し、電流を流した。Coleらは微小電極英語版が使われるより前に膜電位固定法を発展させたため、彼が用いた電極はイカの巨大軸索に挿入しても膜電位が均一になるような長いものであった。これにより初めて膜電位固定が行われたが、Coleと同じ研究所のMarmontは電流固定を強く好んでいたこともあり、彼らはその後膜電位固定法にはあまり深くは貢献できなかった[6]

イカは捕食動物から逃げるときのように素早く動く必要がある場合、ジェット噴射を行う。より速く逃げるために軸索は直径約1mmとかなり太くなっている[注 1][9]。イカの巨大軸索は電極を刺すのに十分な大きさの材料であり、アラン・ロイド・ホジキンアンドリュー・フィールディング・ハクスリー活動電位を発見した先進的な実験においても基盤となる手法であった[6]

ホジキンは膜を通過するイオンの流れを理解するためには膜電位が変動することを解消する必要があると考えていた[10]。膜電位固定法の開発によりホジキンとハクスリーはイオン電流がどのように活動電位を発生しているのか調べることが可能となり、1952年の夏に活動電位について述べた5つの論文を公表した[11]。うち最後の論文は数学的に活動電位について解いたホジキン-ハクスリーモデル英語版について提唱したものである[11]。膜電位固定法を用いた彼らの研究は活動電位を詳細に述べることでその後の電気生理学の礎を築くものとなり、彼らは2人そろって1963年のノーベル生理学・医学賞を受賞した[10]

技術

膜電位固定法は電流を生み出すことで成り立っている。膜電位は電位測定用の電極を通してアースを基準として記録され、電流を流す用の電極により膜電位を制御するために細胞へ電流が流れる[1]。実験者が保持電位をセットすると細胞がこの電位にネガティブフィードバックされるように膜電位が維持される[2]。電極は増幅器へつながれるが、増幅器はオペアンプのような負帰還増幅回路英語版となっている。この増幅器は膜電位からの入力以外に保持電位を定めた電位発生装置からも入力を受け、保持電位から膜電位を引く。これにより、保持電位との電位差を増幅し、その分を電流を流す用の電極へ出力する。膜電位が保持電位から逸脱すればこのオペアンプ様の増幅器が保持電位と実際の電位の誤差を感知して電流を生み出す[1]。フィードバック回路は誤差をゼロに減らすために細胞へ電流を流す。このようにして膜電位固定の回路はイオン電流とは逆向きに等しい電流を流す[4]

膜電位固定法の種類

二本刺し膜電位固定法

二本刺し膜電位固定法。

二本刺し膜電位固定法(英語: two-electrode voltage clamp、略:TEVC)はイオンチャネルのような膜タンパク質の研究に用いられる[12]。特にアフリカツメガエル卵母細胞に発現させて用いることが多い。アフリカツメガエルの卵母細胞はサイズが大きいため、制御・操作が比較的容易であり、そのうえ外部から注入されたmRNAを翻訳させて異種発現させることも簡易であるからである[13]

TEVCでは電位感知用と電流注入用の2つの低抵抗のピペット[注 2]を用いる。ピペットには伝導性の溶液を満たし、膜電位を人為的に操作するために細胞に刺入する。細胞膜は抵抗器のように誘電体として働き、それゆえ膜表面側が荷電したコンデンサーとして機能する[14]。微小電極は保持電位に対して膜電位を比較し、正確に電流を再現する。読み取られた電流は細胞の電気的な応答の解析などに利用できる。

低い抵抗が好まれる理由として、誤差が少ないことが上げられる。膜電位を カテゴリ




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