人形(ギニョル)とは? わかりやすく解説

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人形(ギニョル)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/25 06:10 UTC 版)

人形(ギニョル)』(にんぎょう ギニョル)は、佐藤ラギによる日本ホラー小説ゲイ文学

概要

第3回ホラーサスペンス大賞受賞作品である。 カバーに使用された人形写真は吉田良の作品である。2003年1月に新潮社から単行本が刊行。応募時は『ギニョル』というタイトルであり、作者名も応募時はネコ・ヤマモト名義だった。

サスペンス小説的な構成であるが、美少年に対するSM的な性加虐描写が描かれ、ゲイ文学、ボーイズラブ小説としての側面も持つ。ホラー小説というよりもノワール的な作風であり、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』のような少年愛文学としての傾向が強い。

タイトルのギニョルは作中に登場する男娼の名前である。名前の由来としてフランスに実在した恐怖劇場「グラン・ギニョール」が作中でも触れられており、ギニョルもフランス人の父を持っていると思われるキャラクターである。作中でギニョルが「ギー」という愛称で呼ばれている点からも、フランスの男性名ギーが本名であると推察される。ただし本作で描かれた内容はフランスのグラン・ギニョール劇場の演目よりも、『ライチ☆光クラブ』などで知られる日本の劇団「東京グランギニョル」の演目からの影響を強くうかがわせる。

日本で知られるSMをテーマに取り入れたスリラーの先行作品としては江戸川乱歩の小説『陰獣』(1928年発表)やマリオ・バーヴァ監督の映画『白い肌に狂う鞭』(1963年)が挙げられるが、本作はそれら先行作品のようなひねったどんでん返しは採用しておらず、ミステリーというよりノワールに近いタッチの作風である。また、本作の発表後に『ソウ』(2004年)や『ホステル』(2005年)といったいわゆる拷問ポルノ的な残酷映画が世界的に流行したが、本作はそれに先立つ2002年に執筆されており、それら後続の作品とは関係がない。本作では拷問されるギニョルという少年がマゾヒストという設定から、残虐な仕打ちを受けてもそれを歓んで受け入れる設定となっており、後続の拷問ポルノ・ホラーのような陰惨さは回避されている。

類似した傾向の作品として大石圭の第30回文芸賞佳作受賞『履き忘れたもう片方の靴』(1993年)や黒田晶の第37回文藝賞受賞作『メイドインジャパン』(2000年)などがある。ただし本作はそれらの純文学として書かれた作品と比べて、よりエンターテインメント的なストーリー展開を意識して書かれている。

2020年度の女による女のためのR-18文学賞で読者賞および友近賞を受賞した梅田寿美子は、受賞時のインタビューにおいて服部まゆみの『この闇と光』と共に本作『人形(ギニョル)』への偏愛を認めている[1]

作者の佐藤ラギについて

作者の佐藤ラギは1968年東京生まれ。その後マレーシアに移住[2]。ペンネームのラギはマレー語で「もう一杯」の意味。

2002年に『ギニョル』『蜥蜴』の長編小説2作を執筆する。ネコ・ヤマモト名義で前者を新潮社のホラーサスペンス大賞に、後者を角川書店日本ホラー小説大賞に応募。

『ギニョル』は第3回ホラーサスペンス大賞を受賞。2003年1月の単行本刊行に際してタイトルを『人形(ギニョル)』と改め、ペンネームも佐藤ラギに変更。

『蜥蜴』は第10回日本ホラー小説大賞最終候補に残るが、遠藤徹の『姉飼』に敗れて受賞を逃した。選考委員の高橋克彦は「惜しくも落選したが『蜥蜴』は面白かった。拷問される者の痛みが生々しく伝わってくる。設定があまりに都合がよすぎるという点で外されたものの、文章の切れ味といい、キャラクター作りのセンスの良さといい、書ける人であるのは間違いない」[3]と評価。また、林真理子は「拷問から受ける肉体的苦痛を、細部にいたるまで執拗に描写している。本を投げ出したくなるほど「嫌な感じ」だが、ここまで書けるのは並たいていの才能ではないだろう」[3]と評価した。選考委員の評価の高さにも関わらず、本作は現在にいたるまで未刊行である。

『ギニョル』の受賞後第一作として、短編小説『スワンの涙』を執筆。『小説すばる』2003年7月号(集英社)に掲載された[4]。その後の執筆活動は確認されていない。

書籍情報

単行本:新潮社刊 2003年1月20日発行 (ISBN-10:4104577014 ISBN-13:978-4104577019)

出典




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