中期マーストリヒチアン事変
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中期マーストリヒチアン事変(ちゅうきマーストリヒチアンじへん、Middle Maastrichtian Event)は、後期白亜紀マーストリヒチアン期中期に発生した、炭素同位体比曲線の正ピークで定義される古環境イベント[1]。約50 - 100メートル程度の海水準の上昇や、69.5 Maから67.5 Maまで続いた200万年間の温暖化時期に相当し、イノセラムス科の大半の種や厚歯二枚貝の絶滅に繋がった[2]。英語表記の頭文字を取ってMMEと略される[1]。正ピークはMME1とMME3の2つに分けることができ、その間に小さな負ピークであるMME2が存在する[1]。
影響
中期マーストリヒチアン事変において、イノセラムス属をタイプ属に持つ二枚貝類であるイノセラムス科の大半の種が絶滅し[1]、また白亜紀の主要な造礁生物であった厚歯二枚貝が全球的に壊滅した[2]。これらの絶滅イベントは斉一的に発生したわけでなく、地域によって時間のズレが存在した[1]。イノセラムス属の絶滅は大西洋北部で68.5 - 68.7 Ma、テチス海で69 Maとされ、北太平洋西部ではより早い70.1 Maとされる[1]。
なお全てのイノセラムス科二枚貝が絶滅したわけでなく、Tenuipteria属はその数百万年後であるマーストリヒチアン期の末(K-Pg境界)まで生き延びている[2]。本属が当該の絶滅事変を生き延びた理由は不明である[2]。また厚歯二枚貝も一般的にはこの時期に絶滅したとされるが、Gyropleura属もK-Pg境界まで生き延びた可能性が示唆されている[2]。
原因
中期マーストリヒチアン事変の原因は完全には解明されていないものの、巨大火成岩岩石区であるケルゲレン海台の形成や、インド洋ないしタスマン海北部の海洋底拡大の活発化が、温暖化や海水準上昇に寄与したことが提唱されている[1]。火成活動は水銀などの有毒金属や二酸化炭素を放出し、海洋の酸性化や金属汚染を引き起こし、これにより生物相に打撃を与えた可能性がある[1]。水銀の濃集はデンマークやポーランドに分布するMME1層準で確認されている[2]。
出典
- ^ a b c d e f g h 髙嶋礼詩・安藤寿男 編『シリーズ地球生命史 4 恐竜の時代』共立出版、2025年8月31日、152-153頁。ISBN 978-4-320-04693-1。
- ^ a b c d e f Dubicka, Zofia; Wierny, Weronika; Bojanowski, Maciej J.; Rakociński, Michał; Walaszczyk, Ireneusz; Thibault, Nicolas (2024). “Multi-proxy record of the mid-Maastrichtian event in the European Chalk Sea: Paleoceanographic implications” (英語). Gondwana Research 129: 1–22. Bibcode: 2024GondR.129....1D. doi:10.1016/j.gr.2023.11.010.
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