ブレンドモード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/21 00:50 UTC 版)
ブレンドモード(またはレイヤーの合成モード、描写モード)とは、デジタル画像編集およびコンピュータグラフィックス(CG)の分野において、2つのレイヤーが互いにどのように合成されるかを決定するための設定である。
解説
ほとんどのアプリケーションのデフォルトのブレンドモードは、単に上のレイヤーで下のレイヤーを覆い隠すというものである。一方で、2つのレイヤーをブレンドするブレンドモードがたくさん用意されている。それぞれの「レイヤー」の画像を構成するピクセルの一つ一つが、RGB値(カラーチャンネル)やアルファ値(アルファチャンネル)などを表す数値を持っており、それに応じて適切なブレンド方式を使い分ける必要がある。
Adobe PhotoshopやGIMPなど多くのCGソフトでは、「基本的」なブレンドモードだけでも結構あり、ユーザーはレイヤーの不透明度を変更するなどして、レイヤーの合成方式をいい感じに調整できる。CGソフトでブレンドする「レイヤー」は、必ずしもそのCGソフトで制作する必要はなく、外部のペイントソフトや画像編集ソフトを使って様々な効果をかけることもできる。下のレイヤーにブレンドさせる上のレイヤーは、「ブレンドレイヤー」または「アクティブレイヤー」などと呼ばれることもある。
以下、本ページに示されている数式においては、ピクセルの持つ値は0.0(黒)から1.0(白)の範囲に正規化されているものとして話を進める。
通常(Normal)
「通常」(Normal)のブレンドモードは、下のレイヤーと上のレイヤーを重ね合わせた際、上のレイヤーだけを表示する。現在CGを扱う際に「標準」とされているブレンドモードであり[1]、下のレイヤーのピクセルとの混色は行われない。
オーバーレイ(Overlay)
オーバーレイ(Overlay)は、乗算とスクリーンを組み合わせたものである[2]。下のレイヤーのカラーチャンネルの値「a」が高かった場合(a>0.5だった場合)はスクリーンと同様の効果を得られ、低かった場合(a<0.5だった場合)は乗算と同様の効果が得られる。ただし、「a=0.5」を境に乗算とスクリーンを単に切り替えるだけだとカラーチャネルの変化が不連続になるため、下のレイヤーが「a>0.5」の場合の時と「a<0.5」の場合の時のカラーチャンネルの変化が連続性を保つように、下の数式の通り、乗算とスクリーンの数式にそれぞれに2をかけたものとなっている。もし上のレイヤーのカラーチャンネルの値「b」がちょうど真ん中(b=0.5)であった場合、単に下のピクセルのカラーチャンネルに「1」を掛けるだけのことになるので、下のレイヤーに何の影響も及ぼさない。
基本的には、下のレイヤーが明るかった場合はさらに明るくなり、下のレイヤーが暗かった場合はさらに暗くなるように働く。つまり、コントラストが強くなる。同一の画像をオーバーレイした場合、「トーンカーブ」ダイアログで「Sカーブ」状に編集した時のようなコントラスト効果が得られる。
ソフトライト(Soft light)は、上のレイヤーのカラーチャンネルの値「b」の大きさを基準にしているという点はハードライトと共通しているが、実際はオーバーレイによく似た効果が得られる。ただし、オーバーレイと比べて効果が弱くなる傾向があり、例えば黒1色または白1色の画像をかぶせても、オーバーレイと違って黒1色または白1色にはならない。
ソフトライトの実装方式は、いろいろある[3]。有名画像編集ソフトであるPhotoshopの実装を他のソフトもそのまま使えば面倒が無いようにも思えるが、2012年の時点でのPhotoshopで採用されているソフトライトの数式には、ローカルコントラストの不連続性が指摘されており、それを修正した数式がいくつか存在する。ちなみに2012年時点でのGIMPで採用されているソフトライトの実装は、オーバーレイと全く同じ効果が得られるが、これは単なるバグである。
いずれの実装方式を用いても、上のレイヤーが純粋な黒(a=0)だった場合は同じ結果となる。上のレイヤーが純粋なニュートラルグレー(a=0.5)だった場合も同じ結果となる。Photoshopとillusions.huの実装方式では、上のレイヤーが純粋な白(a=1.0)だった場合にも同じ結果となる。要するに、ソフトライトの実装方式ごとの違いは、これら3つの結果の間の補間方法にある。
これらの3つの結果は、下のレイヤーをガンマ補正したものと一致する。詳しく言うと、上のレイヤーが黒だった場合は、下のレイヤーをγ=2でガンマ補正した時と一致する。上のレイヤーがニュートラルグレーだった場合は、下のレイヤーをγ=1でガンマ補正した時と一致する(この場合、画像に変更は加えられず、元の画像と全く同じものになる)。上のレイヤーが白だった場合は、下のレイヤーをγ=0.5でガンマ補正した時と一致する。
Photoshopで採用されている数式は次のとおりである[4]。
焼き込み(Burn)
「焼き込み(Burn)」は、画像を暗くする効果を及ぼす。
- 乗算(Multiply) : このブレンドモードは、2つのレイヤーを単純に乗算する(前記の「乗算とスクリーン」の項目で詳しく解説しているが、有名フォトレタッチソフトにおいては「乗算」は「焼き込み」の仲間とされている)。
- 焼き込みカラー(Color Burn) : このブレンドモードは、下のレイヤーを反転させた物を、上のレイヤーで除算し、その結果を反転させる。その結果、「覆い焼きカラー」の反対の効果を及ぼし、上のレイヤーの明度が下がり、コントラストが高くなり、上のレイヤーに下のレイヤーの色が反映される。下のレイヤーのカラーチャンネルの値が低いほど、上のレイヤーにその色が多く反映されることになる。白1色(RGBが全て「1」)のレイヤーを「焼き込みカラー」しても、画像には何も起きない。均一な1色のレイヤーをブレンドレイヤーに使って「焼き込みリニア」をかけた場合、下のレイヤーの黒点(RGBが全て「0」の点)を、ブレンドレイヤーの反転色に変更することと同じ処理になる。焼き込みカラーを使うとシャドウの部分がクリッピング(「黒飛び」)する恐れがあるため、下手に使わない方が良い(クリッピングは「焼き込みリニア」の時と同じ場所に発生する)。
- 焼き込みリニア(Linear Burn) : このブレンドモードは、各レイヤーを加算し、そこから1を減算する(数式にすると「a+b-1」)。この処理は、各レイヤーを反転した物を(「覆い焼きリニア」と同様に)加算し、その結果を反転させたのと同じことを行っている(数式にすると「1-((1-a)+(1-b))」)。 白1色(RGBが全て「1」)のレイヤーで「除算」をかけても、画像には何も起きない。
その他
- ビビッドライト(Vivid Light) : このブレンドモードは、覆い焼きカラーと焼き込みカラーを組み合わせたものである。ただし、「a=0.5」を境に「覆い焼きカラー」と「焼き込みカラー」を単に切り替えるだけだとカラーチャネルの変化が不連続になるため、カラーチャンネルの変化が連続性を保つように、ミドルグレー(RGBが全て0.5の色)がニュートラルカラー(下のレイヤーにちょうど何の影響も及ぼさない色)になるように再スケーリングされている。上のレイヤーがミドルグレーよりも明るい場合は「覆い焼きカラー」が適用され、暗い場合は「焼き込みカラー」が適用される。上のレイヤーの色がミドルグレーより明るい所では、下のレイヤーの白点(RGBが全て「1」の点)が通常の覆い焼きの2倍の大きさで明るくなり、ミドルグレーより暗い所では、下のレイヤーの黒点(RGBが全て「0」の点)が通常の焼き込みの2倍の大きさで暗くなる。これにより、知覚されるコントラストが向上する。
- リニアライト(Linear Light) : このブレンドモードは、覆い焼きリニアと焼き込みリニアを組み合わせたものである。ただし、「a=0.5」を境に「覆い焼きリニア」と「焼き込みリニア」を単に切り替えるだけだとカラーチャネルの変化が不連続になるため、カラーチャンネルの変化が連続性を保つように、ミドルグレー(RGBが全て0.5の色)がニュートラルカラー(下のレイヤーにちょうど何の影響も及ぼさない色)になるように再スケーリングされている。上のレイヤーがミドルグレーよりも明るい場合は「覆い焼きリニア」が適用され、暗い場合は「焼き込みリニア」が適用される。計算式は単純で、下のレイヤーに、上のレイヤーを2倍したものを加算し、そこから1を引く(「a+2b-1」)。このブレンドモードでは、コントラストが低下する。
- 減算(Subtract) : このブレンドモードは、単に下のレイヤーの値から、上のレイヤーの値を引く(数式にすると「a-b」)。白1色レイヤー(b=1)とブレンドすると画像が真っ黒になる。
単純算術演算
除算(Divide)
このブレンドモードは、下のレイヤーのピクセルのカラーチャネルの値を、上のレイヤーのカラーチャネルの値で除算する。画像の色がくすんでいる場合、あるいは明度が低い場合、写真を明るくする効果がある。
写真から特定の色味を取り除くのにも役立つ。例えば、画像の色温度が低すぎると感じた際に、薄い青色の除算ブレンドレイヤーをかぶせる状況などを想定してほしいが、画像の中かから削除したいと思った特定の色を用いて除算ブレンドレイヤーを作成し、かぶせた場合、その色が消える。数字で言うと、その特定の色の要素が除算されて「1.0(白)」相当に変化した、ということになる。
加算(Addition)
このブレンドモードは、下のレイヤーのピクセルのカラーチャネルの値に、上のレイヤーのカラーチャネルの値を加算する。RGBの値がいずれも1を上回った場合、白が表示される。Photoshopには「覆い焼きリニア」の名称で実装されている。Bohemian社のSketchでは「Plus Lighter」の名称で実装されている。
「加算」の派生形として、2つのレイヤーを加算した所から1を減算し、0未満の値は黒になるという、Photoshopで言うところの「焼き込みリニア」ブレンドモードがある。このブレンドモードは、Sketchでは「Plus Darker」の名称で実装されている。
減算(Subtract)
このブレンドモードは、下のレイヤーのピクセルのカラーチャネルの値から、上のレイヤーのカラーチャネルの値を減算する。RGBの値が0を下回った場合、黒が表示される。
差の絶対値(Difference)
このブレンドモードは、下のレイヤーのピクセルのカラーチャネルの値から、上のレイヤーのカラーチャネルの値を減算する。ただし、RGBの値が0を下回った場合は、絶対値を取って正の値になる。
単に「差」または「Difference(英語そのまま)」の名称で実装されている有名ソフトもあるが、Photoshop日本語版は「差の絶対値」の名称で実装されているので解りやすい。絶対値を取っているため、下のレイヤーと上のレイヤーを入れ替えても同じ結果となる。黒1色(RGB(0,0,0))のレイヤーをブレンドしても何も起こらない。白1色(RGB(1,1,1))レイヤーをブレンドすると、画像が反転する。
このブレンドモードは「差分アリ」の画像を扱う際に便利である。ほとんど同じだが微妙に違う、と言う2枚のコンテンツを「差の絶対値」でブレンドすることで、どこがどう違うのか確認できる。
「除外(Exclusion)」ブレンドモードは、「差の絶対値」よりもコントラストが低い以外はほとんど同じである。
比較(暗)(Darken Only)
このブレンドモードは、上のレイヤーと下のレイヤーのピクセルを比較して、値が小さいほうだけを表示する。数式にすると、上のレイヤーのピクセルのRGB値を
参照
- ^ a b c d “W3C: Compositing and Blending 1.0”. 2012年11月9日閲覧。
- ^ “Pegtop: overlay blend mode”. 2012年11月3日閲覧。
- ^ http://gimp.1065349.n5.nabble.com/Image-processing-algorithms-resources-td34204.html
- ^ a b “Pegtop blend modes: soft light”. 2012年11月3日閲覧。
- ^ “Illusions.hu: soft light blending”. 2013年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月14日閲覧。
- ^ “cairographics.org: Cairo's compositing operators”. 2012年11月9日閲覧。
- ^ “Adobe.com: PDF Blend Modes: Addendum (to the PDF Reference, fifth edition, version 1.6”. 2009年11月9日閲覧。
- ^ a b “Gimp Advanced Guide - 5.6.4 The Darken Only and Lighten Only Blending Modes”. Linuxtopia. 2013年3月28日閲覧。
- Paul R. Dunn, “Insight into Photoshop 7.0 Blending Modes”
- “Photoshop math with GLSL shaders”
- “Photoshop Blend Mode Math”, includes C code.
- Ron Bigelow, “Using Blend Modes in Photoshop – Part I”, a tutorial
- The gimp manual
- Blend modes in Flash
- Adobe Master transparency and blends pdf file
- Gimp and Photoshop Blending Modes visually explained and compared, parts one, two, three, and four
- JAVA demo on the image blending operator, an interactive JAVA-based image blending demo
- All the math behind photoshop compositing (including math for using alpha in complex compositions like softlight)
- Image Blending Algorithm
Books
- Photoshop Blending Modes Cookbook for Digital Photographers (John Beardsworth, O'Reilly 2005) - External
- The Hidden Power of Blend Modes in Adobe Photoshop (Scott Valentine, Adobe Press 20132) - External
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