カペロボ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/04 22:20 UTC 版)

カペロボ(Capelobo)またはクペロボ(cupélobo、地方名)は、ブラジルの俗信に語りつがれる、鼻づらの部分がオオアリクイ(あるいは犬や豚)に似るという、獣人あるいは幻獣。
獣人とされる場合は、野人マピングアリによく似るとされ、同じように寸胴型の丸い足形だが、腹部の口吻は無い。人食いで、鼻づらを伸ばして血を吸うか、脳を啜るといわれる。唯一の急所はそのへそあたりである。叫ぶように鳴く。パラー州・マラニャン州の地域に限定される伝承である[1][2]。
語源
カペロボ(Capelobo)の語は、グアラニー語 capê (「骨折した」、「曲った」、「足曲りな」、「びっこ」の意)とポルトガル語 lobo(「狼」)の複合語とされる[3][4]。
伝説
伝説はパラー州・マラニャン州ではよく知られるが、アマゾン方面では寡聞にして知られずという。また、いわゆる文明慣れ(非野生化)した先住民(インディオ)であれば、まだよく知っているが、混血児系だとさっぱり知らないという[1]。
描写
パラー州・アマゾン川支流シングー川流域の伝承によるカペロボは、獣型と亜人型として語られる。獣型の場合は、黒く長い毛でおおわれ、犬か豚のような鼻づらをしたアメリカバク[注 1]に似た動物で、丸い足をしているという[1][2]。亜人型の場合は、きわめて高齢に達したインディオはだれでもこの怪物に変身してしまうという俗信が底辺にあり[2]、語り部らはマピングアリ(老インディオが変態するという怪物[6][7])やキブンゴ (Quibungo、高齢の黒人が変じてしまうといわれる怪物[8])によく似ているが、顔面から腹部までがざくっり裂けた大口というのは持っていない、という譬えをもちいている[9][注 2]。
マラニャン州の伝承では[12][13]クペロボ(cupélobo[14])と表記されており、鼻づらがオオアリクイにそっくりだとされる[2][1]。このクペロボの胴体については両論あり、毛むくじゃらの野人だとする者と、(毛むくじゃらの)バクの体だとする者がいる[2]。アリクイ男は、「ガラス瓶の底」のような丸型の足をしており、丸い足跡をボコボコと残してゆく[16]。よってカペロボと混同されがちな怪物に、ペー・ジ・ガハッファ(「瓶の足」の意、一本足だとも[17])がいる[13][注 3]。マラニャン州でも目撃は稀になったろうが、ピンダレ川流域には生き残っているだろうという証言がある[注 4]。
カペロボは吸血動物だと形容され、南米の狼男ワーウルフ、ロビゾーメンに相似する[1](あるいはその亜種に分類できる[14])とされる。生まれたての仔犬や子猫をねらい、夜陰にまぎれてこれをさらっていくというが、森林の住民すなわち小屋に居を構えたり、キャンプを貼って暮らす家族が被害にあう[1][13]。
人間も狙い、「死の抱擁で(獲物を)圧死させる」とも[18][19][2]、あるいは頸動脈を破壊して血を飲むとも[1][13][19]、相手にしがみつきざま頭部から脳を吸いだすともいわれる[20][1][2]。
斃すにはへそのあたりを狙って撃たねばならないが[13]、長い毛で守られているので、インディオたちもなかなか矢を射込むふんぎりがつかないそうである[20][2][21][13]。
カペロボは叫び声のような咆哮をあげて、その所在を知らしめすが、こうした性質もマピングアリやペー・ジ・ガハッファと共通する、と指摘される[1]。
クペロボ(cupélobo)の伝承は、グアジャジャラ族の間にも知られる[20]。
注釈
- ^ カスクードはポルトガル語の anta に学名 Tapirus americanus を付記するが、これは北アメリカなどに化石が出土する絶滅種のことらしい。
- ^ バシリオ・デ・マガリャンイスの解説では、このキブンゴをアフリカ系ブラジル人]版のカペロボだとみている[10]。また、クマカンガという頭部が炎な怪物と、カペロボとを同一視できるのではないか、と意見している[11]。
- ^ アブレウの記述では、原住民はクペロボが一本足だと明言していない。しかし、カスクードは先著の『Geografica』(1983)[1952]で、クペロボは一本足("unípede")であると、アブレウを引いて述べた。しかし後著の『Dicionário』(1962) [1954] では、Pé de Garrafa と混同されがたいな比較対象としたのみである、ここではその解釈を採用する。アデミウソン・S・フランチーニもやはり、カペロボを一本足とみなし、サッシと比較している[2]。
- ^ これは現地調査する学者シルヴィオ・フロイス・アブレウが「カペロボなど見ることはできない」、と述べたとき、先住民が「ピンダレ川にいけば見れるさ」、と応酬したことに拠る。
脚注
- ^ a b c d e f g h i Cascudo (1983), p. 193.
- ^ a b c d e f g h i Franchini, A. S. (2011). “Capelobo”. As 100 melhores lendas do folclore brasileiro. Porto Alegre, RS, Brasil: L & PM Editores. ISBN 978-85-254-2087-9. OCLC 746712396
- ^ Cascudo (1983), p. 193: "capê, que tem osso quebrado, torto, pernas tortas"
- ^ Ramiz Galvão, Benjamim Franklin de [in 英語] (1879). "capelobo". Vocabulario das Palavras Guaranis usadas pelo traductor da «Conquista Espritual» do Padre A. Ruiz de Montoya. Anais da Biblioteca nacional do Rio de Janeiro 7 (ポルトガル語). Rio de Janeiro: Typographia Nacional. p. 67.
- ^ Cascudo, Luís da Câmara (1962). “Mapinguari” (ポルトガル語). Dicionário do folclore brasileiro. 2 (J–Z) (2 ed.). Brasília: Instituto Nacional do Livro. p. 456–457
- ^ Francisco Peres de Lima (1938) Folclore acreano, p. 103 に、アクレ州の Mapinguari を以下のように解説する " " ... êste animal deriva-se dos índios que alcançam uma idade avançada, transformando-se em um monstro..", etc.[5]。
- ^ Deleyto, José María (September 1966). “Mundo de la Amazonia”. Revista Española de Indigenismo (8): 17 . "Los Macuna también creen.. el Mapinguari,.. Se dice que gente demasiado vieja se transforma en Mapinguaris."
- ^ Cascudo (1983), p. 205: "Quibungo, Negro africano, quando fica muito velho, vira Quibungo. É um macacão todo peludo, que come crianças. (Recôncavo da Bahia)"所引 \Silva Campos (1928) “Contos e Fábulas populares da Bahia”, in O Folclore no Brasil, p. 219.
- ^ Cascudo (1983), p. 9: "Uma característica do Quibungo é sua bocarra aberta verticalmente da garganta ao estômago"; Cascudo (1983), p. 191: "Do africano Quibungo, o Mapinguari tem a posição anômala da boca"
- ^ Magalhães, :en:Basílio de; Silva Campos, João da (1928). “XXXIV A. Aranha Caranguejeira e o Quibungo”. Ditados Populares: a verdade que o povo consagrou. Editora Dialética. p. 219, note a
- ^ Magalhães & Silva Campos (1928), pp. 98–99, note (100).
- ^ Abreu (1931), p. 190.
- ^ a b c d e f Cascudo, Luís da Câmara (1962). “Capelobo” (ポルトガル語). Dicionário do folclore brasileiro. 1 (A–I) (2 ed.). Brasília: Instituto Nacional do Livro. p. 180: Vol. 2 (J–Z)
- ^ a b Abreu (1931), p. 188.
- ^ Abreu (1931), pp. 188–189.
- ^ 大元はティンビラ族の話だが、これをポント村(Ponto)のカネラ族の情報源を介してアブレウが得ている[15]。
- ^ Cascudo (1962) Dicionário vol. 2, s.v. "Pé-de-Garrafa", p. 583.
- ^ Cascudo (1983), p. 193: "Aperta a vítima num abraço mortal".
- ^ a b Fodor, Eugene, ed (1968). Fodor's Guide to South America. Barnett D. Laschever; Robert C. Fisher, associate editors. New York: David Mckay. pp. 460–461
- ^ a b c Abreu (1931), p. 189.
- ^ “Dia do Folclore: lendas que você não conhece”. Museu Regional de São João Del Rei (2018年8月22日). 2025年3月22日閲覧。
参考文献
- Abreu, Sylvio Fróes (1931). “Canellas (Ethnographia)” (ポルトガル語). Na terra das palmeiras: estudos brasileiros. Rio de Janeiro: Officina Industrial Graphica. pp. 165–191
- Cascudo, Luís da Câmara (1983). “capelobo” (ポルトガル語). Geografia dos mitos brasileiros. Livraria J. Olympio Editora. pp. 193–195
外部リンク
- スグホリコ: “第13話 【吸血アリクイ】カペロボ(O Capelobo)”. ブラジル怪異集 (2022年6月12日). 2025年3月25日閲覧。
- “Capelobo”. Folclore brasileiro. 2018年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年11月7日閲覧。
- “Capelobo” (ポルトガル語). Portal São Francisco (2016年8月11日). 2022年11月7日閲覧。
- “Capelobo - Lendas e Mitos” (ポルトガル語). Só História. 2022年11月7日閲覧。
関連項目
- キブンゴ (伝説の生物) - アフロ=ブラジル人系のカペロボという意見あり
- クマカンガ - 頭部が炎な怪物、カペロボと同一視する意見あり
- サッシ - カペロボが一本足ならば比較対象
- ペー・ジ・ガハッファ - 「瓶の足」
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