蒸気タービン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 01:21 UTC 版)
発電所での利用内容
日本の発電所での回転速度
回転速度を上げるとタービンや発電機が小型になり設備費を抑制できる。日本の火力発電用タービンの回転速度は、50Hzでは3000rpm、60Hzでは3600rpmである。原子力発電用タービンは蒸気が低温・低圧・大流量であるため動翼が長く、遠心力緩和のため50Hzでは1500rpm、60Hz機では1800rpmが採用されている。
タンデム・コンパウンドとクロス・コンパウンド
高・中・低圧タービンを1つの軸に配置するものをタンデム・コンパウンドと呼ぶ。一方、高・中・低圧タービンをプライマリとセカンダリの2軸に振り分けて配置するものをクロス・コンパウンドと呼ぶ。タンデム・コンパウンドに比べクロス・コンパウンドは、大出力化が容易であり熱効率も高くできるが、設備コストが高い、建屋の占有面積が大きい、各軸の単独運転が不可能、運用・点検・保守が複雑などの欠点がある。
クロス・コンパウンドでは、高圧と低圧の半分をプライマリ軸とし、中圧と低圧の残り半分をセカンダリ軸とする方式と、高圧と中圧をプライマリ軸とし、低圧をセカンダリ軸とする方式がある。前者は低圧タービン及び発電機を2つの軸で同一設計にできる利点があるが、最近の大型火力ユニットのクロス・コンパウンド機では、後者が採用されることが多い。これは、セカンダリ軸の回転速度をプライマリ軸の半分とすることで低圧最終段動翼の遠心力を緩和し、40インチ以上の長い動翼を採用して低圧タービンの最終段の排気損失を低減することが可能なためである。また、この構成であれば復水器もセカンダリ側のみで良く、前者の構成に比べ設備コストの面でも有利となる。
従来、大型火力ユニットはベースロード運用が多く熱効率が重視されていたことや、高速回転に伴う低圧タービン最終段動翼の遠心力の制約などにより、500MW - 700MW以下はタンデム・コンパウンド機、それより大型のユニットはクロス・コンパウンド機とされていた。しかし、近年では原子力比率の拡大やピーク負荷の尖鋭化に伴い大型火力ユニットでも建設コストの低減や運用性向上が重視されるようになったため、軽量のチタン動翼による遠心力の緩和や材料強度の改善などにより中部電力碧南火力4号機(2001年)において国内の1000MW級火力ユニットでは初めてタンデム・コンパウンド機が採用された[7]。
発電用蒸気タービンの部分負荷運転方式
- 定圧運転
- 部分負荷でもボイラーの圧力を全負荷時と同じにして、加減弁を絞って蒸気の流量を変化させるものである。
- 変圧運転
- 部分負荷時に給水圧力を下げてボイラーの圧力を低下させ、加減弁は全開としたままで蒸気の流量を変化させるものである。
変圧運転の効率は、定圧運転と比較して向上する。
- 加減弁の絞り損失がなく、部分負荷時の蒸気温度の低下がない。
- 高圧タービンの調速機が不要となり、内部効率が向上する。
- 部分負荷時に給水ポンプの必要動力が少なくなる。
- 圧力低下によるサイクル効率の低下がある。(但し、他の効率向上により発電所全体としての効率は向上することが多い)
また、次の特徴もある。
- 高圧タービンの部分負荷時の温度低下がないため、負荷変動への追随に対する制約が少ない。
- 低負荷時の蒸気温度低下が無いため、停止時のケーシング温度を高くでき、再起動の時間を短くできる。また、温度変化に伴う熱応力による寿命消費も軽減できる。
- 部分負荷時に圧力を下げるため、機器の寿命を長くできる。
- 低圧タービンに供給される蒸気の湿り度が低下するため、低圧タービン翼のエロージョンが緩和される。
発電用蒸気タービンの付帯設備
- 保安装置
- 火力発電用などのように高速で回転する蒸気タービンは、定格回転速度より低い回転速度に共振点があるので、起動停止時に共振点付近の通過時間を短くしなければならない。また、許容最高回転速度以上で回転させると破損し、甚大な被害をもたらす。そのため、蒸気タービンには過大な振動や回転速度の異常などが発生した場合、自動的に蒸気の供給を停止させる保安装置が備えられている。
注釈
- ^ 船舶用のエンジンとしてディーゼルエンジンと蒸気タービン+ボイラーを比べると、燃費と占有空間、重量、運用の簡便さの点でディーゼルが優れていた。
- ^ 再生サイクルでは抽気をボイラー給水の加熱に用いる。抽気によってタービン出力が落ちるが、抽気で給水をあらかじめ加熱することで総合的な熱効率の向上を図る。
- ^ 今日生産されている、液酸液水ガス発生器サイクルロケットエンジンや、エキスパンダーサイクルロケットエンジン用推進剤ターボポンプ駆動用蒸気タービンは、軸流タービンとは限らない。
- ^ 初段の翼の面積に対して終段の翼の面積は100倍にもなる。
- ^ 遠心力は、例えば100グラムの動翼が半径20cmの位置で8,000回転/分で回されると、1.4トン以上の荷重が掛かる。
出典
- ^ a b 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、1頁。
- ^ a b c d e f 山岡勝巳 『蒸気タービン』 鳥影社、2001年12月5日初版第1刷発行、ISBN 488629619X
- ^ 池田良穂著 「船の科学」 BLUE BACKS 講談社 ISBN 978-4-06-257579-9
- ^ a b c “ガスタービンの歴史”. 日刊工業新聞社. 2019年2月17日閲覧。
- ^ a b 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、1-2頁。
- ^ a b c 角田哲也、斉藤朗『蒸気タービン要論』成山堂書店、2005年、2頁。
- ^ a b c d e f g 刑部真弘著 『ターボ動力工学』 海文堂 2001年3月30日初版発行 ISBN 4303329118
- 1 蒸気タービンとは
- 2 蒸気タービンの概要
- 3 分類
- 4 理論サイクル
- 5 発電所での利用内容
- 6 脚注
蒸気タービンと同じ種類の言葉
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