立川反戦ビラ配布事件
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背景
この事件では、表現の自由と、住居の平穏(住居内の安息と平和)又は居住権(他人の立入りを認めるか否かの自由)とが対立する。つまり、ビラを投函することによって政治的意見を表明する行為が表現の自由により保障されている一方、官舎の入居者が被告人らの立入りを拒んでいることから、どちらを優先させるべきか、という観点が有罪無罪の結論に影響している(後者については、住居侵入罪の保護法益を参照)。伊藤塾塾長の伊藤真は、刑法よりも憲法の方が上位にあることから、「住居侵入を犯罪として処罰することで住居権者の利益を守りかつ社会の秩序を維持しようとする刑法でも、憲法で保障された表現の自由とぶつかるときには、一定限度で犯罪にすることを差し控えなければならない」と主張する[5]。
なお、最高裁は憲法21条1項との関係の中で「表現の自由は、民主主義社会の中で特に重要な権利として尊重されなければならず」「政治的意見を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる」と認めたうえで、憲法21条1項も絶対無制限に保障される権利ではなくたとえ表現の自由を行使するためでも「このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。」としており、表現の自由より住居の平穏や居住権を優先させたものの、両方の立場に配慮したような判断を示している。
また、伊藤は、防衛庁官舎へのビラ配布が本件のように問題とされたことは一度もないことを根拠に、本件についての逮捕、起訴は、配布した人物とビラの内容を理由に行われたものだと主張している[5]。
- ^ a b c “立川ビラまき、逆転有罪 3被告に東京高裁「被害、軽くない」”. 朝日新聞 夕刊 (朝日新聞社): p. 1. (2005年12月9日)
- ^ 勾留中の被疑者・被告人につき、弁護人以外との面会を禁止するもの。刑事訴訟法81条、207条1項参照。
- ^ 吉武祐 (2004年12月17日). “逮捕・勾留の3人無罪 自衛隊イラク派遣反対、官舎にビラ”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): p. 1
- ^ 最高裁判所第二小法廷判決 2008年4月11日 、平成17(あ)2652、『住居侵入被告事件』。
- ^ a b マガジン9条『伊藤真のけんぽう手習い塾』第4回2013年6月10日閲覧。
- ^ 「被告人らは、何らかの過激な手段に及んでもテント村の見解を自衛官らに伝える等の不当な意図は有していなかったと推認され、この点についてはテント村の性格等からも裏付けることができる」
「すなわち、テント村の沿革や活動内容のほか、同団体には横成員に対する入会の強要や脱会の阻止、会費の強制徴収、私刑による制裁等の強権を背景とした上命下達関係などといったいわゆる組織統制の存在はうかがわれないことによれば、テント村は、『自衛隊反対』を主眼とする政治的見解を同じくする人々から構成される一市民団体にすぎないというべきである。なお、過去、テント村の構成員によるやや不穏当な行動もみられるが、その行動が、直ちに暴行、脅迫、破壊活動その他周辺に危害をもたらす言動につながるとはいえず、また、テント村が実際にそのような言動におよんだことがあるとも認められない」(第一審判決認定の要旨より抜粋)[1] - ^ 「文書投函行動に対しては、『STOP海外派兵』につき当該ビラに連絡先として記載された立川市議会議員宛に自衛隊員から個人的に抗議の連絡があったのを除いては、自衛隊ないし防衛庁関係者からも警察からも全く連絡がなかった」(第一審判決認定の要旨より抜粋)[2]
- ^ a b “こちら特報部 なぜビラ配布で拘置75日 立川・市民団体の3人(上)早朝、突然警官が…検事『活動増えたか調べてみろ』”. 東京新聞 朝刊 (中日新聞社): p. 24. (2004年5月14日)
- ^ a b “異例捜査、やっと笑顔 3人「控訴断念を」 官舎ビラ配布無罪”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): p. 39. (2004年12月17日)
- ^ 弁護団第一審『最終弁論』>「第7 違法性の意識の不存在」>「3 自衛隊もポスティングをしている」より抜粋: 「しかし、自衛隊も、以下に述べるように自衛隊員募集などのビラのポスティングを行っている」と述べて三つの例を挙げ、「上記3例は氷山の一角であり、自衛隊もさかんにポスティングを行っていることは明らかである。このことは、ポスティングが社会的に広く行われ、容認されていることを物語っている」[3](立川・反戦ビラ弾圧救援会)
- ^ 26. 委員会は、戸別訪問の禁止など表現の自由と広報活動に参加する権利に対する不当な制限について、さらに公職選挙法に基づく選挙の事前運動期間中に配布されるべき文書の数と種類に対する制限について、懸念する。また、政府を批判する内容のちらしを私用の郵便受けに配布したという理由で、政治活動家と公務員が、侵入に関する法あるいは国家公務員法により逮捕され起訴されているという報告について懸念する。
- ^ 半田泰 (2008年4月12日). “【視点】ビラ配りに求める節度”. 産経新聞. オリジナルの2008年11月2日時点におけるアーカイブ。
- ^ 『ビラ配布の男性を不当逮捕 「官舎無罪判決」直後に 東京・葛飾 立ち会い認めず家宅捜索』
- ^ 例えば「立川反戦ビラ事件最高裁判決を批判する法学者声明」、「異論にさらされることによる感受性あるいは気分の侵害が甘受されなければ、民主主義社会は成り立たない」(市川正人「表現の自由と2つのポスティング摘発事件」、『法学セミナー』2004年8月号・所収)など。
- ^ 東京新聞朝刊(2005年1月4日)
- ^ 魚住・斎藤・大谷・三井(2005)
- ^ 大沢豊・立川市議と救援連絡センターによる。
- ^ “防衛省宿舎でビラ配り逮捕 邸宅侵入容疑の男”. 産経新聞. (2008年7月1日). オリジナルの2008年7月6日時点におけるアーカイブ。
- ^ 『毎日新聞』2008年7月21日、東京朝刊。
- ^ 2008年7月5日立川反戦ビラ弾圧事件の元被告のブログ
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