指標生物 指標生物の概要

指標生物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/17 20:05 UTC 版)

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概説

一般に自然環境の状態やあるいは環境汚染の程度などを調べる際には、その場における様々な条件を取り上げて個々に測定する。たとえば温度湿度、化学成分やその組成、特定成分の濃度、酸素濃度、あるいは明るさなど様々な条件があるから、その中から必要と思われるものを取り上げ、数値として記録するのが普通である。しかし、そのようなことを行う代わりに、ある決まった生物や生物群を選び、それらの状況を見ることで環境条件を判断する場合がある。これが生物指標である。それに用いられる生物のことを指標生物という。

これに用いられる生物は、あらかじめその生態的な性質がある程度以上知られていなければならない。動物なら指標動物という場合もある。植物を利用した指標生物を指標植物というが、固着生物である植物は動物よりも環境条件に左右されやすいため指標として用いられやすい面もある。ただし、移動できないだけに環境の変化に耐性を持つ種も多く、種の選択には注意が必要である。

その意味

指標生物は、ある決まった環境条件に敏感に反応し、その差によって異なった状況を見せるものである。そこで、その状況を見ることで、そこからその環境条件を推察することができる。しかし、そうであればむしろ直接に環境条件を測定すればいいのではないかとの考えもある。実際に、数字としてそれを得るのが目的であればその方が正しい。にもかかわらず、生物指標が有効であるのは以下のような理由による。

  • 数値測定より簡単である。厳密な測定にはそれぞれに特殊な機器が必要であり、それなりに金と技術と時間がかかるが、生物指標にはそれがあまりかからない。後に述べる水生動物の例では、小学生でも測定可能である。その点でいえば、微生物などを指標とするのは有効ではないことになる。
  • 時間的空間的変動を越えた結果が出せる。個々の環境条件を数値として取り出す場合、それらが時間的に変動する可能性、調査点の違いによる差を考慮に入れなければならない。生物であれば、その地域のある程度の範囲と、一定期間がその生存に必要なので、そのような変動がその生存に直接影響する。例えば工場が有害な廃液を川に流しているとする。それをいつでも排出しているならば排水の水質調査で判断できるが、一時的に濃度の濃いものがまとめて放出されると測定値からそれを知るのは難しくなる。しかし、生物はその一度の放出で大きな影響を受けるから、その結果は川の生物相の変化として記録されるだろう。
  • 未知の条件も視野に含めることができる。物理化学的な計測は、その対象が明確でなければ測定できない。未知の条件が環境悪化を引き起こしている場合、それが何かを特定するのはなかなか難しい。しかし、生物を見れば、それが何かはわからなくても環境悪化の事実を知ることができる。
  • 複数の条件の総合的影響を見られる。生物に影響を与える原因はひとつではないし、それらが相乗効果を示す場合もあるから、測定値だけで生物への影響を判断できない場合がある。

結局のところ環境を調べる場合、多くは生物や人間への影響を考えるためであるから、直接に生物にどんな影響が出たのかを見ることが早道だということである。

問題点

もちろん問題点もある。

  • 厳密さを欠くこと。
  • 期待する条件以外の条件が影響を与える場合もあること。
  • 特に普遍的でない条件による影響がある場合、誤った判断が出易いこと。
  • 季節などに影響を受けること。

実際には測定機器による数値的な調査を併用するのが望ましいし、普通はそのように行われる。

使われ方

厳密なものでは、それなりに数値化する方法を持ち、その数値によって様々な判断を行う場合がある。「○○係数」等という名を持つ例もある。

対象とする生物の変化にも様々なものがある。単一種の場合ならその数や各個体の成長速度の違い、あるいはそれが存在するかどうかが問題になる場合もある。複数生物の場合、たとえばその地点のある生物群の種組成や数などを見る例もある。

より大まかなものでは、何となく目安に使える、と言う程度のものもある。普通は指標生物と言えば上の例であるが、下の使われ方にも適用される場合もある。


  1. ^ 青木淳一, 「土壌動物を用いた環境診断」, 沼田眞編「開発地域等における環境予測と評価に係る基礎調査」, 千葉県環境部環境調整課, 1995


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