持ち時間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/29 07:12 UTC 版)
チェス
チェスでは19世紀中ごろから持ち時間の制限が始まり、時間を公平に測るため砂時計が使用された。自分の手番が終わると時計を逆さまにして、砂が落ちきったら負けとされていた。
1866年、アドルフ・アンデルセンとヴィルヘルム・シュタイニッツの試合で、2つのストップウォッチが使用された。立会人がそれぞれの一手ずつの消費時間を記録し、それを合計するというものだった。砂時計よりも細かく測れるため競技会で広まったが、人間が操作することから選手との関係などで手加減が入り揉めごとも多かった。
1890年代ごろからは時計を改造した対局時計が考案され、対局者がボタンを押すことで外部の干渉を無くすことができた。しかし時計を机のどちら(の利き手側)に置くかで揉めたことから、後手の右側に配置することでハンデの解消とした(チェスでは後手が明確に不利)。
1970年代にはデジタル時計の普及したことで、デジタル時計の機能を利用したチェスクロックが登場した。これにより持ち時間の加算や細かな時間設定も可能となった。
主要国際大会の持ち時間は第二次世界大戦ごろまでは「30手2時間、そこで指しかけの後15手につき1時間ずつ延長」が多かった。第二次世界大戦後は「40手2時間半、16手につき1時間ずつ延長」となり、さらに「40手2時間、20手につき1時間ずつ延長」と短縮された。
1990年代にはボビー・フィッシャーが1手ずつ持ち時間を追加する「フィッシャーモード」を提唱、1992年の対ボリス・スパスキー戦で初めて使用し、この方式は急速に普及した。このため現代のチェスクロックの上位機種は必ずデジタル式で、フィッシャーモードでの追加時間を1秒単位で設定できることが必須となる。FIDEでは公式の競技会で使用できる対局時計に認定を行っている。
1990年代後半になるとコンピュータ解析の発達によって指しかけも廃止され、「40手2時間、41手目に1時間追加、61手目に30分追加(計3時間半)」を一気に行なう「7時間セッション」と呼ばれる方式が定着した。またこれにフィッシャーモードを加える場合も多い。
世界選手権などFIDEの主要大会でも同じであったが、FIDEは2000年から「90分、初手から1手につき30秒追加」、つまり一人あたり平均2時間弱という短い持ち時間(「FIDE持ち時間」などと呼ばれる)を主要な公式大会で適用した。しかし伝統的なやり方に拘る地域では不評で、2008年からは41手目に30分を加えることにしたが、まだ一人あたり2時間半弱である。この間もずっとクラシカルの世界選手権マッチ、主要招待大会、伝統的なクラブ対抗戦などは7時間セッションで行われていた。
2016年現在、世界チェス選手権大会などでは「40手120分、41手目に60分追加、61手目に15分追加、さらに61手目以降は1手につき30秒追加」の方式となっており7時間セッションに近い持ち時間に戻った[16]。
非公式の競技会などでは、事情に合わせて持ち時間を短縮したり、指導対局では生徒側の持ち時間を習熟度や練習メニューに合わせ変更することもある。
注釈
- ^ 逆に、不均衡な持ち時間をハンデキャップとして使うことも可能である。例えば、女流王位戦の記念対局(非公式戦)では、女流王位が1時間、王位は10分という時間差で対局を行う。
- ^ 大平のケース(2005年3月18日・竜王戦昇級者決定戦1回戦・対児玉孝一戦)は、埼玉で行われたZONEのコンサートに、対局場の大阪から駆けつけるためであり、「トリビアの泉」(2006年6月7日放送)でも紹介された。
- ^ a b 日本将棋連盟公式サイトの表記に準ずる。
- ^ 『近代将棋』連載の「名人義雄」によると、日本将棋連盟設立前の対局である、1921年の木村義雄四段対金子金五郎四段(段位は当時)戦では持ち時間は設定されておらず、3日間の長丁場の戦いとなっている。
- ^ 2日制のタイトル戦番勝負の場合、残り時間が少ない方の対局者の持時間が2時間となるように同じ時間が加算される。
出典
- ^ a b c d e f “対局に遅刻をしたときはどうなる?意外と知らない、将棋の「時間」についてまとめてみました|将棋コラム|日本将棋連盟”. www.shogi.or.jp. 2023年10月23日閲覧。
- ^ a b c d TIMES編集部, ABEMA. “羽生善治九段、フィッシャールールの戦い「慣れた人も増えて洗練されてきた」「日によって出来不出来の波が結構ある」/将棋・ABEMAトーナメント | ニュース | ABEMA TIMES | アベマタイムズ”. ABEMA TIMES. 2023年3月28日閲覧。
- ^ “The Origins of Canadian Byo-Yomi”. 2006年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月20日閲覧。
- ^ a b “第30回世界アマチュア囲碁選手権戦 静岡大会”. www.nihonkiin.or.jp. 2023年4月23日閲覧。
- ^ 対局規定(第4条 持時間)
- ^ 世界コンピュータ将棋選手権 大会ルール 第22条1項
- ^ 田丸の勝率、里見香奈女流四冠へのコメントと遅刻の罰則規定について - 田丸昇、2013年9月2日(2014年5月28日閲覧)。
- ^ 女流将棋界で対局ボイコット騒動 プロ資格巡り対立 - 日本経済新聞・2013年1月30日
- ^ 対局規定(抄録) - 日本将棋連盟
- ^ a b 日本棋院対局管理規定 - ウェイバックマシン(2004年7月17日アーカイブ分)
- ^ “囲碁用語 秒読み”. 日本囲碁連盟. 2022年11月12日閲覧。
- ^ 棋士の昼食、対極の手 将棋は外食業が協力、囲碁は廃止検討:一面:中日新聞(CHUNICHI WEB)
- ^ NHK囲碁フォーカス 2022/8/14放送分
- ^ 日本棋院対局時間中の外出禁止実施のお知らせ
- ^ 王銘琬『こんなに面白い世界の囲碁ルール』日本棋院、2019年、136-137頁。
- ^ 04. Rules & Regulations for the FIDE World Championship Match (FWCM) 2016
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