心電図 心電図の大まかな読み方

心電図

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 10:12 UTC 版)

心電図の大まかな読み方

正常の心電図の概略図

大まかな考え方

心電図の所見のとり方から診断のプロセスは記載すると膨大になるので、財団法人心臓血管研究所の山下武志による分類をここで記す。どんな心電図をみたにしろそれによって行うことは「放置する」、「自分の力で片付ける」、「緊急に他人の力を借りる」の3つに分けることができる。緊急性の評価には心電図よりもバイタルサインの方がはっきりとする。モニター心電図をみてVTのような波形があって循環動態が悪く意識障害などを起こしていれば緊急に処置をする必要があるが、声をかけて「何ですか?」と言われるようだったらそれはあくまで心電図上だけの問題であり、循環動態は全く悪くなっていない。

開き直った考え方

医療行為において、医療者が行うことは次の3つのパターンしかない。第一に放置する、第二に自分の力で片付ける、第三に他人の力をかりるということである。心電図を見るときも同じである。特に重要なのは他人の力を借りるかという判断である。これはバイタルサインなど他の情報が大いに参考になる。この判断は大抵、心電図以前の不整脈の知識で解決ができる。不整脈かどうかの判断は主に心電図によって行われる。あくまで不整脈のスクリーニングをしたいだけならば12誘導のうちII誘導とV1誘導のみで十分である。特にII誘導はP波が読みやすく重宝する。このやり方は不整脈以外を見落とすことがある。ST変化の見落としを避けるためにあらかじめST変化だけ12誘導で除外することもある。モニター心電図などにはSTの情報はないと認識しておくことが大切である。経験的に心拍数が正常でQRS幅が狭ければ大抵の場合は血行動態は安定している。頻脈でQRS幅が広ければ患者の状態を確認する必要がある。不整脈の場合は放っておいたら悪くなるのではという不安が常に付きまとう。しかし、まず必要なのは今治療が必要なのかという問題であり、将来のことは後回しに考えるのが通常である。悪くなる場合は基礎心疾患があることが多く、心電図だけをみても何もできないことが多いからである。

まずは12誘導で洞調律であるのか?異常なQRSやST変化がないのかを調べる。特に肢誘導ではI、II誘導、胸部誘導ではV5を中心にみる。次にII誘導とV1誘導で不整脈のスクリーニングをする。特に重要なのは患者の様子、心拍数QRS幅である。

徐脈の考え方

心拍数の正常値は60〜100/minであり、60/minを下回ると徐脈といわれる。脈拍は日内変動があり夜は遅くなる傾向がある。即ち、夜の脈拍に関しては多少正常値を下回っても気にしなくてよい。気にするべきところは不整脈となるのかという点であり、これは急に遅くなった、2秒以上脈が止まったらといったエピソードや心電図所見から考えていけばよい。徐脈性不整脈の診断は非常に簡単である。P波が正常に存在していれば房室ブロックであり、P波が存在しなければ洞機能不全症候群である。このふたつの違いは非常に重要である。房室ブロックは心室の障害であり突然死のリスクにあるからである。これをみたら心疾患のスクリーニングをし、原因がわからなければ命を守るためペースメーカーの適応となる。洞機能不全症候群の場合は、症状がなければ放置であり、症状があった場合も治療をしたとしても予後に変化がないのでQOL向上目的の治療となる。

頻脈の考え方

心拍数の正常値は60〜100/minであり、100/minを上回ると頻脈といわれる。頻脈でも洞性頻脈というものがあり、運動で徐々に頻脈がおこるのは極めて正常な反応であるので不整脈をみるという観点からは突然早くなるというエピソードや心電図所見が重要である。不整脈としての頻脈の場合はQRS幅が非常に重要である。QRS幅が0.12秒、即ち3mm未満なら上室性(大抵は心房性)の不整脈であり、0.12秒、即ち3mm以上であれば心室性の不整脈である。心室性の不整脈の場合は緊急事態であり、即急な対応が求められる。QRS幅によって不整脈の部位を特定できるというのは、正常な特殊心筋を刺激が伝導した場合は0.12s以内に伝導が終了するであろうという経験則である。重要な例外として変行伝導という言葉がある。これはQRS幅が広いのに上室性の不整脈である。しかし、QRS幅が狭いのに心室性の不整脈という現象はほとんど知られていないのでまずはQRS幅が広ければ緊急事態と考えておけばミスは少ない。心室性か上室性かの判断ができたら、上室性ならPP間隔で心房拍数を心室性ならRR間隔で心室拍数を調べ、それによって不整脈の名前をつける。それとは別に触診法で有効な脈拍数を別に数えておくのが重要である。これは患者の状態を把握するもので不整脈の診断にはそれほど重要ではない。頻脈性不整脈の場合はどれがP波かなど波形をひとつずつ定義するのは難しい場合が多々ある。その場合はイメージで行うのだが経験がないと難しい。基本的には電気的な拍数が100〜250/minなら頻拍で250〜350/minならば粗動であり、350/minをこえれば細動という。但し、心室粗動という言葉は臨床上は存在しない。たまに速い脈が出る程度なら期外収縮という。

変行伝導

脚ブロックが発生すると上室性期外収縮でもQRS幅が広くなる。脚ブロックは器質性のものでもよいしただの不応期によるものでもよい。こういった場合、心室性頻拍との鑑別が重要となる。経験則として次の手順で診断すると便利である。右脚ブロック(V1でM型)の場合はV6誘導をみる。心室性頻拍であればrS型(S波が大きい)であり、変行伝導であればRs型(R波が大きい)となる。左脚ブロック(V6でM型)ならばV1やV2誘導のS波をみる。心室性頻拍ならばS波にノッチが見られるのに対して、変行伝導ではノッチはみられない。

不整脈以外の情報のとり方

心電図は不整脈の診断以外の診断も行うことができる。特にモニター心電図ではなく12誘導の場合はST変化やQRSの異常を読み取ることが重要である。特に見逃してはならないのが虚血性心疾患である。12個の誘導を見る場合に個々の誘導に正常といわれる像があると考えてはならない。特に胸部誘導は所見の連続性に注意をすれば大抵の重要な所見は拾うことができる。

心拍数
50〜100/分
QRS波
幅0.12s(3mm以内)
肢誘導 第I、II誘導に幅の広い(1mm以上)のQ波がない。
胸部誘導 V1〜V6誘導に連続性がある。即ちV5誘導でR波が最も大きく、それから徐々に小さくなっている。
ST部分
全ての誘導で基線上にある。尚心電図において基線とは心室の収縮終わりから心房の収縮が始まるところである。
T波
QRS波の大きな波の方向を向いている。
P波
不整脈の情報以外は専門的になるので専門家に相談する。

QRS波の診かた

QRS波の異常としては、上記の正常所見を満たさないものである。具体的にいうと形の異常と大きさの異常に分けることができる。形の異常としては肢誘導、第I、II誘導において下向きのQRSや胸部誘導においてR波の連続性が保たれていないものまたは、3mm以上という幅の広いQRS波などが考えられる。特に重要な所見は虚血性心疾患を示唆する異常Q波であるが、この定義は誘導によって異なり非常に難しい。異常Q波の定義を用いずに異常Q波を診断するには

肢誘導
第I、II誘導に幅の広い(1mm以上)のQ波がない。かつR波が上向きである。
胸部誘導
V1〜V6誘導に連続性がある。即ちV5誘導でR波が最も大きく、それから徐々に小さくなっている。

という正常の定義から離れたものは異常Q波がある可能性が高いと考える。心臓と誘導の位置関係は個々人でずれがある。そのため理解しがたい心電図は数多くある。そのためPoor R Progressionという言葉もある。これは胸部誘導におけるR波の増高不良であり、連続性が保たれていないように見えるが異常Q波とまではいえないという所見であり、こういった場合は症状や病歴が決め手となる。心電図はそこまで万能ではないのである。

  • 形の異常としては他に脚ブロックがある。右脚ブロックではV1でM型左脚ブロックではV5でM型となる。右脚ブロックには病的意義を伴わないものが多い。左脚ブロックでは、波形に経時的変化が無ければ問題ないが、突然出現した左脚ブロックでは虚血性心疾患が疑われる。
  • 大きさの異常としてはV5誘導で26mm以上などがある。心肥大の所見は健康診断ではスクリーニングとして重要であるが一般病棟ではあまり価値のない所見である。心肥大の原因がわからなければ心臓の精査をする位しかやることはない。

ST部分の診かた

日本では異型狭心症(冠攣縮型狭心症)なども多く一概には言えないがSTが上昇していれば心筋梗塞、STが低下していれば狭心症を疑うのが原則である(非貫壁性や心内膜下病変などによる非定型的変化もありうる)。異常Q波と同様にどの部位でその所見があるのかである程度は梗塞、虚血部位を特定することができる。明らかな所見は見落とすことはまずないが、他の所見と同様、微妙な所見というものが存在する。基本的にはST上昇ならば緊急的に対処し、ST低下であったら患者の状態を確認するのが重要である。ST低下の場合は狭心症ではなくただの心肥大で出現することもある。気をつけなければならないのは無痛性狭心症というものもあることである。リスクファクターの聴取などは行うべきである。統計学的に狭心症で心電図に異常があるのは70%といわれておりその診断は難しい。

T波の診かた

陰性T波は心筋梗塞、狭心症を疑う所見であるが、心肥大でも起こりえる。高いT波は高カリウム血症や心筋梗塞で見られる所見である。しかしT波で疾患を想定する機会は非常に少ない。T波の増高では左右対称なテント状T波は高カリウム血症、左右非対称なT波の増高は心筋梗塞を疑う。

電解質代謝異常の診かた

高カリウム血症のテント状T波や高カルシウム血症のQT短縮という所見は非常に有名である。心電図は血液検査に比べて結果が速くわかるので経過をみるのに非常に便利である。

小児心電図

子供は大人のミニチュアではないとは小児科における格言のひとつであるが、小児の心電図は成人のそれとは全く異なる。まず、子供は脈拍数が早いので100/分をこえても正常である。また新生児は右軸偏位が著明である。逆に新生児の心電図で左軸変位が認められたら先天性心疾患を疑う。もしチアノーゼを認めれば三尖弁閉鎖症、認めなければ心内膜症欠損症を強く疑う所見である。


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