封神演義 評価

封神演義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/10 10:28 UTC 版)

評価

四大奇書として古くより『西遊記』、『三国志演義』、『水滸伝』、『金瓶梅』が挙げられるが、本書の評価はこれらより一段低いものとなっている。魯迅は「『水滸伝』に比べたら幻想的に過ぎ、『西遊記』に比べたら雄偉さに欠け、今に至るまでこの二作品と同列であると見なした者はいない」と評している[15]。また、斉祐焜は「『封神演義』は思想面でも芸術面でも、作者が意図した『小説界に於いて水滸伝と西遊記と共に鼎立する』という抱負を果たすことは到底できなかった」と評している。一方で「だがそれでも『封神演義』は中国小説史で一定の重要な地位を占める」とも記している[16]

文学面での評価が低い理由として、中国文学研究者の二階堂善弘は、文体のぎこちなさ(堅苦しい文言体を必要以上に多用する)、ストーリーの欠陥(太公望が天数(天命)と称して自分の行為を過度に正当化する、典型的な悪臣として描かれている費仲や尤渾まで他の登場人物と一緒に封神される)、時代考証の無視(殷周時代に存在しない神仙・人物が登場する)などを挙げている[17]

以上のように、『封神演義』は二流の文学作品とされている。しかし、中国の民間信仰に与えた影響はきわめて大きく、従来の神々であっても本書で改変された名前や格好で神像が作られたり、本書が初出とされる通天教主や申公豹などが従来の神々に混じって信仰の対象になったりしており、明代以降の宗教文化を研究する際には特に重要な作品であるといえる[18]

『封神演義』を日本語でリライトした小説家安能務は、「三大怪奇小説」として『三国志演義』『西遊記』『水滸伝』を挙げた後、怪奇性の高さを理由に、『水滸伝』より『封神演義』が相応しいとしている[19]。しかし、「三大怪奇小説」という呼称自体一般的ではなく(前述のようにこれらに『金瓶梅』を加えて「四大奇書」とすることはあるが、奇書は怪奇小説という意味をほとんど含まない)、歴史小説である『三国志演義』を「怪奇小説」に区分することも定説とは言い難い[20]。また、民間での評価が高く知識人の評価が低い理由として、安能は儒家の影響(儒教で理想とされる周公旦を持ち上げるため、太公望が活躍する本書の価値を不当に貶めた)があったとしているが、士大夫層は小説全般を軽視していたのであって『封神演義』を特に貶めたわけではない[20][21]


  1. ^ 榜とは立て札のこと
  2. ^ 二階堂善弘『封神演義の世界 中国の戦う神々』大修館書店、p2
  3. ^ 二階堂、89-98p。なお、二階堂はこれらの説を挙げた後、「許仲琳・李雲翔合作説」を支持している。
  4. ^ 二階堂、90p
  5. ^ a b c 岩崎加奈子「『封神演義』周之標序の検討」、京都府立大学国中文学会編『和漢語文研究』第18号、P88
  6. ^ a b 中塚亮「封神演義の版本について」
  7. ^ 『全訳 封神演義』完結記念トークイベント会場リポート
  8. ^ 尾崎勤「『封神演義』第九十九回の検討」、古典研究会編『汲古』第65号、P45-P46
  9. ^ 尾崎勤「『封神演義』第九十九回の検討」、古典研究会編『汲古』第65号、P48
  10. ^ 二階堂、98 - 100p
  11. ^ 中塚亮「『封神天榜』の成立について―『封神榜』との関係から―」、中国古典小説研究会編『中国古典小説研究』第14号、P63
  12. ^ 二階堂、58-76p
  13. ^ 二階堂、83 - 86p
  14. ^ 二階堂、103 - 162p
  15. ^ 魯迅著、長島長文訳 『中国小説史略』 全2巻、東洋文庫、平凡社
  16. ^ 斉祐焜 『明代小説史』 中文・浙江古籍出版社
  17. ^ 二階堂、36 - 55p
  18. ^ 二階堂、104-162p
  19. ^ 安能務『封神演義』上巻、講談社文庫、26-29p
  20. ^ a b 『封神演義』は「3大怪奇小説」の1つなどではありません - 関西大学文学部・二階堂研究室の旧ページ。
  21. ^ 安能、21 - 26p
  22. ^ 中塚亮「『封神演義』の日本における受容-三浦義臣・木嶋清道の翻訳を中心に-」、中国古典小説研究会編『中国古典小説研究』第21号、P39 脚注4
  23. ^ 宝永二年(1705年)刊。清地以立作。別名『通俗列国志伝前編』。
  24. ^ 三宅宏幸「馬琴読本『開巻驚奇侠客伝』論-『封神演義』『通俗武王軍談』との関連を中心に-」、日本文学協会編『日本文学』2010年59巻2号、P9-P19
  25. ^ 中塚亮「『封神演義』の日本における受容-三浦義臣・木嶋清道の翻訳を中心に-」、中国古典小説研究会編『中国古典小説研究』第21号、P39
  26. ^ ただし楊戩については後の著作「隋唐演義」にて「ようせん」とルビが振られていた。
  27. ^ 安能務『八股(パクー)と馬虎(マフー)―中華思想の精髄』(講談社文庫、1995年)
  28. ^ a b 封神演義書房/封神演義の翻訳書
  29. ^ 二階堂、196-198p
  30. ^ 翠琥出版『封神演義』
  31. ^ Amazonの翠琥出版『封神演義』の内容紹介
  32. ^ 必読のスーパーサイキック仙人アクション!-『全訳 封神演義』全4巻刊行開始記念特集(勉誠出版HP)






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