地すべり 移動の原因

地すべり

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 14:58 UTC 版)

移動の原因

地すべりが発生する場所には、地形・地質条件など幾つもの自然条件から規制を受ける素因と、すべり滑動発生の引き金となった何らかの誘因がある。この地すべり発生機構を把握することで、形態や範囲を特定したマスムーブメント(移動ブロック)として対策が可能となる。

地すべりの移動は、すべり面上に載っている地塊が滑動しようとする力が、すべり面の剪断強度を上回った場合に発生する。地すべりの移動には、地質的な条件に加え、地下水の分布状況が非常に密接に関わっていることが知られている。一般に、地すべりは雪解けの時期や梅雨時、台風による豪雨など、地下水の水位が大きく上昇する時期に多く発生する。土塊が地下水を多量に含んで重量が著しく増加すると共に、地下水の存在がすべり面の剪断強度を大きく低下させるためである。従って、年間の降水量(降雪も含む)が多い地域や、地すべりの発生しやすい地質条件の地域(特に、火山性の堆積物が多い地域や凝灰岩泥岩などが多く産出する地域)では、地すべりの多発地帯として知られる場所が多い。本州の日本海側から東北地方、北海道東部などに多く存在するグリーンタフ地域や、雪解け時期の豪雪地帯において地すべりが多発することがよく知られている。

移動速度

一般に地すべり地塊の移動の速度は通常年間数mmから数cm程度で、目に見えないほど緩やかなものである。従って、よほど注意して観察しない限り、地すべりの活動を実感することは少ない。そのため、非常に古くから活動している地すべり地帯では、沢山の集落が形成されている例も多い。古くから地すべりが多く発生する場所は一般に地下水が豊富であるために住みやすく、また土壌も肥沃であることから稲作や畑作に非常に適しているため、先人が好んで定住し、集落が形成されるのである。一方、地震による地すべりは地震波の衝撃が刺激となり数十秒から数分で滑る。

しかし、地すべりの運動が活発になると、徐々に地盤が変形することで家の構造に歪みが生じ、ふすまやドアが開かなくなる、壁にヒビが入る、周辺地盤が陥没する、井戸水が濁る、道路に亀裂が入る、などの変動が見られることがある。また、豪雨など短時間に多量の降雨があった場合などは、希に地塊の移動速度が急激に加速することもあり、動態観測によって危険と判断されれば、周辺住民に対して避難勧告や避難命令が出される場合もある。しかし、地すべりが突発的に活動を始めた場合や、移動の活発化の兆候を把握できなかった場合は避難指示が追いつかず、多数の死者や行方不明者が出る惨事になることも多い。さらに、滑落した土砂や隆起した地盤によって河川が閉塞されてしまうと天然ダムができ、それが一気に決壊することで土石流が発生し、下流域集落を飲み込むなどの災害を引き起こすこともある。

対策

  • 地すべり地塊の移動が顕著に認められた場合には、災害からの安全を確保する防止施設として対策工事が必要に成る。対策工法は個別に地すべり機構、保全対象物、工法の経済性等を勘案した「抑制工」と「抑止工」に大別される。
  • 抑制工は、地すべりの活動を活発化させる要因である地下水を、井戸集水井)や排水用のトンネル、横穴ボーリングなどによって地すべり区域から排出して地下水位を下げ、さらに雨水などが浸透しにくいように水路を整備するなど、移動土塊類の推進力を低減させるための自然条件を変化させる工法を指す。崩れた斜面をブルーシートで覆い、雨水の浸透を防ぐ応急処置も抑制工の一つである。また、土砂掘削が可能な場合は、地すべりの上部の土砂を取り除いて荷重を減らし、逆に末端部では盛土をして地塊の重量バランスを安定させ、移動を押さえ込むこともある。地すべり災害関連などでは、後の抑止工をスムーズに行うことを可能にするための「応急処置」と位置づけられることも多い。
  • 抑止工は、コンクリート杭や鋼管杭などを移動地塊に打ち込み、すべり面より下の堅固な地盤に固定することで地塊の移動を止める「杭工」や、同じくすべり面下の地盤にワイヤーの束等を固定し、それを引っ張って地表面に定着させ、ワイヤーの張力で移動地塊を締め付け又は待ち受けて引き止める「アンカー工」などが多く採用される。一般には、抑制工によって地すべりの運動が概ね沈静化してから着工し、これを恒久的な対策工事として定着させることを目的として施行される。抑制工のみで地すべり滑動が沈静化したと推察される場合は、長期間に亘って動態観測等を実施した総合的な効果判定により、抑止工施工の有無が決定される。
  • 日本の地すべり地で、民家や農地に影響を与える箇所については、農林水産省国土交通省地すべり等防止法に基づき「地すべり防止区域」に指定し、国や都道府県が対策を行っている。地すべり防止区域内では、地すべりの運動に影響を与える恐れのある土砂掘削や地下水のくみ上げなどの行為を無許可で行うことが禁じられている。
  • 日本の地すべり対策事業の先駆者に谷口敏雄がいる。

  1. ^ 岩松暉 "『地すべり学入門』第1章" 国立国会図書館 インターネット資料収集保存事業 2021年3月14日閲覧。
  2. ^ a b 斜面調査 北海道地質調査業協会、2017年5月21日閲覧。
  3. ^ 地すべりとは? 地すべり地形とは?”. 防災科学技術研究所. 2012年4月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月17日閲覧。
  4. ^ すべりに伴う物質の移動と変形 第4回” (PDF). 小松吾郎 (2004年). 2013年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
  5. ^ “土星の衛星に巨大な地滑り跡”. ナショナルジオグラフィック. (2012年7月31日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6480/ 2023年11月27日閲覧。 





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