品質工学 品質工学の概要

品質工学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 05:18 UTC 版)

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狙い

事業経営の中で技術戦略の重要性はますます高まるばかりであるが、モノ造りの世界が相変わらず従来の科学的思考や統計的な考え方のパラダイムに浸かっていて、開発の効率化は停滞しており、その上、社会的トラブルが頻発して後手管理の再発防止型の生産活動(もぐら叩き)が行われているのが現状である。

品質工学は欧米ではタグチメソッド[1]と呼ばれ、創始者は田口玄一である。

品質工学の本質的な考え方は「社会的損失の最小化」「個人の自由の和の拡大」など頭脳労働の生産性の改革を考えることが狙いである。このことを「技術戦略」と考えている。モノ造りは企業側の理屈ではなく、顧客側の理屈で考えて企業の利益と顧客側の損失とがバランスするような経営をすることを狙っている。

田口玄一は「品質工学の目的は社会的な生産性を上げること。しかも頭脳労働の生産性が大切だということだ。企業でもR&Dで新産業を作る研究をすれば、失業者は吸収できるし、開発段階で機能性の評価をやって無駄な労働時間を短縮すれば、2日の休みを3日か4日にすることだってできる。その休みを旅行やスポーツなどの趣味やレジャーに使えば国全体が潤うことになる」と語っている。

構成する分野

主に3つの分野で構成される。

  1. 開発設計段階、つまり生産に入る前のオフラインでの品質工学(パラメータ設計→損失関数)
  2. 生産段階、つまり生産のオンラインでの品質工学(損失関数)
  3. MT法(マハラノビス・タグチ)法

オフライン(開発・設計)における品質工学

パラメータ設計

パラメータ設計に入る前に重要なことは、時代の潮流を考えて、技術テーマを選択するのは技術責任者の役割であり責任である。技術開発テーマが決まったら、技術者が顧客の立場に立って「システム選択」することになるが、顧客が欲しい機能を考えて、理想機能を満足するシステムをたくさん考案することが大切である。考案したシステムの良し悪しを判断するのが「機能性評価」である。機能性評価はシステムとは関係なく、顧客が使う立場で信号とノイズを考えてSN比で評価することが大切である。

その後で、パラメータ設計(厳密にはロバスト設計という方が適切である)を行うのであるが、品質工学では「品質が欲しければ、品質を測るな。機能性を評価せよ」と言うことが合言葉になっていて、品質問題を解決する場合には、品質特性などのスカラー量は使わずに、理想機能()を特性値と考えてパラメータ設計を行う。 パラメータ設計の手順は以下の通りである。

  1. テーマの分析
  2. 目的機能の明確化
  3. 理想機能の定義(
  4. 計測特性は何か(信号因子とノイズの選択)
  5. SN比や感度を求める
  6. 制御因子を決める
  7. 直交表に制御因子を割り付けて、信号やノイズとの直積実験を行う
  8. データ解析を行う
  9. 要因効果図を作成して最適条件と現行条件やベンチマーク条件を求める
  10. 確認実験で最適と現行の利得の再現性をチェックする
  11. 再現性が悪い場合は特性値やノイズや制御因子の見直しを行う

許容差設計

パラメータ設計は低コストの部品を使って、SN比で機能性の改善を行うが、品質改善の目的はコスト改善であるから、品質とコストのバランスを考えることが大切でマネジメントの問題である。

そこで、パラメータ設計でSN比を6dB改善できれば、市場のばらつきが1/4になるのだから、1/4の低コスト部品を使っても目的機能は変わらないことになる。この場合、3dBを品質改善に、残りの3dBをコスト改善に廻せば、2倍の品質で半分のコストが達成できるのである。

許容差設計は「品質改善の成果をコスト改善に還元できる手法」なのである。

ここで初めて「損失関数」が必要になるのである。損失関数は「目標値からのばらつき」に比例するもので、目標値に調整した後のSN比の真数の逆数に比例する。すなわち、(円) = (1/SN比)で表され、は機能限界、は機能限界を超えたときの損失で市場に出たときの品質損失を表す。

  1. 部品や組み立て品の許容差設計
  2. 直交多項式を使った応答解析による許容差設計

最近社会的トラブルに関係する「安全設計」にこの考え方が適用できる。品質工学における安全設計とは、「信頼性に頼るのでなく、事故が起きたときに被害を最小にする設計である」。例えば、航空機事故の場合、航空機が落ちたとき人命を2億円と考えて、損害に見合うような安全装置を設置するなどである。照明器具が落下した場合、人間の頭の上で止まって直接危害を加えない安全装置を設けるなどである。

許容差決定

許容差設計では、部品コストと品質コストがバランスし、両者の和が最小になるように許容差を決めることである。したがって、「コストが決まらないと許容差は決められない」ことになる。逆に言えば部品が決まれば品質の良否を判定する許容差が決定する。 許容差は下記のように損失関数から決める。

 

 :部品コストやを超えたときの廃棄費用

 :機能限界を超えたときの社会的損失(円)

 :機能限界で消費者の許容限界

生産者と組み立て者の場合は、生産者の許容差は組み立て者の機能限界と組み立て者が機能限界を超えたときの損失から上式で決める。

安全率 は上式から、

で表される。

望目特性と望小特性の安全率であるが望大特性の安全率は

で表される。

組み立て品の許容差を決めるときには、機能限界から出力特性の許容差を求め、直交多項式

安全率 

出力特性の許容差 

A部品の許容差 

B部品の許容差 

オンライン(製造)における品質工学

「メーカー側(製造者)の損失」と「ユーザー側(顧客)の損失」の和をバランス良く小さくすることが、品質工学の目的である。「ユーザー側(顧客)の損失」の中の機能のばらつきを小さくする手法としてパラメータ設計がある。

「メーカー側(製造者)の損失」いわゆる、生産コストは、

 生産上のコスト=材料費+加工費+管理費+公害等の損失

となる。

この内、材料費、加工費、公害等の損失は、主に設計段階で決まるが、管理費は、生産部門が与えられた工程で規格通りの製品を出荷するための管理(品質管理)費で、管理に依存する。工程の状態を高水準に維持したり、装置が故障する前に予防措置をとらねばならないが、その対策が過剰品質になれば、何れは、価格に跳ね返り競争力を失うことになる。従って、経済性を勘案した工程管理のあり方が重要になる。この分野をオンライン(製造)における品質工学と言うが、許容差決定が最前提にあることは言うまでも無い。

オンライン品質工学は、製造工程において一番少ない経費で一番良い品質にするための仕事のやり方であるが、具体的な方法論には下記のようなものがある。

  1. フィードバック制御: 作った製品の特性値を調べ、目標値とある程度以上の差がある時、工程を正常に戻すフィードバック制御の管理理論.
  2. 工程の診断と調節: 合格・不合格の判定しかできない場合の工程設計理論.例)ビンの製造工程、アルミダイキャスト製造工程
  3. 工程連結のシステム設計: 一連の加工工程を連結する場合の稼働率、在庫費用を考慮した最適連結方式を求める方法.
  4. フィードフォワード制御(適応制御): 部品や中間製品の特性を調べ、相手部品を選んだり、工程条件を変えて製品を目標値通りに作る適応制御方式の設計理論.
  5. 検査設計: 検査方法が決まっている時、工程の品質水準とその工程での不良率を調べ、検査するかしないかを決定する方法.
  6. 予防保全方式の設計: 出荷した製品が機能しなかったり、生産機械が故障して止まってしまう場合の予防保全の設計方式.
  7. 安全システムの設計と保全: 故障表示は設置されていても、故障表示装置自体の異常は人間がチェックしなければならない.この場合の点検方式の理論.

  1. ^ : Taguchi methods


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