マインド・ゲーム (アニメーション映画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 07:05 UTC 版)
制作
企画
漫画『マインド・ゲーム』の映画化企画は、STUDIO 4℃の田中栄子プロデューサーによって提案された。もともとは当時同スタジオに所属していた森本晃司が目を付けて、スタジオ関係者や周囲の人に勧めていたものだった[3]。それをたまたま手に取った田中プロデューサーは「これは絶対に自分たちの手で映像化しなくては」と決意した[3]。しかし、原作をアニメーションにした場合、いくつかの問題があることがわかった。まず原作の絵にはリアルな躍動感を伝えるために極端なパースがついているが、理解できないスタッフにそれを納得させるのが難しかった[4]。また原作にはセックスや暴力シーンが出てくるが、当時のアニメーションではこれらは厳禁だったため、資金調達も困難だった[4]。そこで実写を組み入れることで「この映画は実写作品です」と言って押し通そうかとも思ったという[4][注 2]。映画化は決定したものの具体的なビジュアルプランが見えず、原作のテイストはそのままにアニメーションとしてそれを成立させ得る人物も思い当たらなかった。皆が頭を悩ませていた時、田中プロデューサーは「湯浅政明ならできる」と直感し、監督を依頼することにした[3]。当時、湯浅は長編の監督は未経験だったが、田中はアニメーターとして『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』に参加していた湯浅を「ファミリー向け作品で斬新な映像を手掛けた彼がこの映画にはぴったりだ」と判断した。
湯浅はすでに『音響生命体ノイズマン』(1997年)制作中に監督の森本晃司やアニメーターの田中達之に原作を見せられ、その非凡な面白さと表現の達成度の高さに感銘を受けていたという[3][5][注 3]。ちょうど演出意欲が高まっていた時期でもあり、「これは面白いものが作れるかもしれない」と感じた湯浅は、すぐにオファーを快諾[3]。『マインド・ゲーム』の企画が正式にスタートした[3]。
キャスティング
大阪府の街を舞台とする原作通りの雰囲気を出すために大阪と結びつきの深い吉本興業との連携がなされ、その所属芸人たちが多く参加している[6]。彼らは声優として演技するだけでなく、顔の実写映像も加工されて本編のアニメーションに使用されている[6]。
吉本の芸人が出演する読売テレビの番組『プロの動脈』でオーディションが実施され、ヒロインのみょん役に声優の前田沙耶香、みょんの姉のヤン役には吉本所属の女優・たくませいこが選出された[7]。
制作工程
本作では、アニメーションと実写映像の融合が図られている[注 4]。
まず最初に従来のアニメーション制作と同様に、アニメーターによる手書きのレイアウトで背景/キャラクター/オブジェクトなどの造形や配置を決める[4]。次に美術によって描かれた背景素材をイメージスキャナーで取り込み、3Dオブジェクトに貼り付ける[4]。そして各素材を完成させ、3ds Maxで実写映像と組み合わせて3DCGアニメーションを作成し、Adobe After Effectsでその映像の編集作業やエフェクト(特殊効果)の適用を行ってアニメーションを仕上げる、という方法で完成した[4]。
湯浅監督の意向で、「CGっぽくなり過ぎないこと」「手書き感覚を残すこと」を重要視した[4]。
実写映像には、当時コマーシャルの制作で評価を得ていた中島哲也の撮影チームが招集された[注 5]。
劇伴
劇中の音楽はマルチアーティストとして知られる山本精一が担当した。音楽はロック、ボサノヴァを始めとする多様なジャンルの楽曲が制作された。プロデューサーには『カウボーイビバップ』『アニマトリックス』などを手掛けた渡辺信一郎が就任。渡辺は山本に加えて作曲家の菅野よう子を紹介し、菅野はピアノソロで参加、『ハンガリー狂詩曲第2番ハ短調』を演奏した[8]。
完成
映画はおよそ2年をかけて完成した。しかし、映倫を通らなければ公開はできないため、田中プロデューサーは最初、R18+指定になることを覚悟していた[4]。しかし、映倫の担当者に見せると意外なほど好意的に扱われ、結局、年齢制限なしの一般公開となった[4]。田中は、それが作品への自信にもつながったという[4]。
注釈
- ^ 今田にとって本作は初にして唯一のアニメーション映画主演作となった。
- ^ 「全編のうち半分を実写映像にする」「冒頭10数分を実写にする」などの案が出された。
- ^ 湯浅は完成度が高いながら比較的マイナーな原作、新人監督と企画時点で挑戦的な内容であったとインタビューで振り返っている。
- ^ アニメーションの映像に時折実写映像が突然挿入されるという手法が取られ、登場キャラクターの容姿が声優を担当する演者の実際の顔に置き換わったり、実写をベースにした独特のパースの映像で心理描写を効かせたりする。
- ^ 制作後、STUDIO4℃は中島が監督した映画『下妻物語』のアニメーションパートを制作した。
- ^ 関口現と同点。
出典
- ^ a b c d e “湯浅政明監督の長編デビュー作 伝説の映画『マインド・ゲーム』を観れば「アニメ」のイメージが変わる”. トレンドニュース. GYAO、Yahoo Japan (2021年8月26日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ a b c d “湯浅政明監督「マインド・ゲーム」Blu-ray化に向けたクラウドファウンディング開始”. アニメ!アニメ!. イード (2017年3月23日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ a b c d e f “■『マインド・ゲーム』応援団 第2回 『マインド・ゲーム』映画化への道”. アスキー. 角川アスキー総合研究所 (2004年7月16日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “Too/ディスクリート/STUDIO4℃、今夏公開予定の映画『マインド・ゲーム』のCGメイキングプロセスを公開”. アスキー. 角川アスキー総合研究所 (2004年7月16日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ “湯浅政明は「マインド・ゲーム」監督を押し付けられた?ロビン西「押し付けて正解」”. 映画.com. 株式会社エイガ・ドット・コム (2018年11月2日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ a b c “湯浅政明監督とスタジオの化学反応が生み出した奇跡 BD化を機に『マインド・ゲーム』の真価に迫る (2/2)”. リアルサウンド. 株式会社blueprint (2018年2月9日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ “プロダクションノート”. STUDIO4℃. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “カラフルな音楽。”. STUDIO4℃. 2020年3月29日閲覧。
- ^ “上映情報”. MIND GAME. STUDIO4℃ (2004年7月16日). 2022年8月26日閲覧。
- ^ a b c “湯浅政明監督とスタジオの化学反応が生み出した奇跡 BD化を機に『マインド・ゲーム』の真価に迫る (1/2)”. リアルサウンド. 株式会社blueprint (2018年2月9日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ “毎日映画コンクール 第59回(2004年)”. 毎日新聞. 2020年3月29日閲覧。
- ^ Official award list of the 9th edition of the Fantasia International Genre Film Festival Fantasia Film Festival、2005年7月26日(2014年8月10日閲覧)
- ^ “アニメ先進国だからこそ、新たな気持ちで創作への挑戦を”. 文化庁. 2020年3月29日閲覧。
- ^ “【作品カテゴリ別講評】長編アニメーション・OVA”. 文化庁. 2020年3月29日閲覧。
- ^ “あの星野源によしもと芸人も! ボイス・キャストで探る天才アニメ作家・湯浅政明の世界”. WOWOW (2018年3月23日). 2020年3月29日閲覧。
- ^ a b “■『マインド・ゲーム』応援団 第3回 DVD、マンガ、イベント、特集上映で予習!”. アスキー. 角川アスキー総合研究所 (2004年7月16日). 2022年8月27日閲覧。
- ^ “『マインド・ゲーム』Blu-rayプロジェクト”. STUDiO4℃FUN& (STUDIO4℃). (2017年8月2日) 2020年3月29日閲覧。
- ^ “湯浅政明「マインド・ゲーム」BD化のクラウドファンディングがスタート”. 映画ナタリー. 株式会社ナターシャ (2017年3月23日). 2022年8月26日閲覧。
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