イボイボナメクジ 分類

イボイボナメクジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/22 18:38 UTC 版)

分類

経緯

湊は1981年に徳島県で採集された本種標本を見て、これをナメクジ科ナメクジ属の新種と判断したものの、単一個体であったためツブツブナメクジという暫定的な和名だけを示して判断を保留した[8]。その後あちこちで、それぞれごく少数個体ながらも採集され、それを元に1989年、やはり湊がナメクジ科の新属新種として記載した。この時点で四国と本州の5県から発見されていた[1]。ツブツブをイボイボに変更した理由は示されていない。

原記載
  • Granulilimax fuscicornis Minato, 1989 Venus (Jap. Jour. Malac.) 48 (4): 255-258[1]
  • タイプ産地:香川県綾歌郡綾歌町富熊大原(現・丸亀市綾歌町富熊)
  • ホロタイプ:体長24mm、体幅2.3mm タイプ産地産。国立科学博物館所蔵(登録番号:NSMT-Mo 65844)
  • パラタイプ:体長11.5mm、体幅3mm 徳島県高越山産。国立科学博物館所蔵(登録番号:NSMT-Mo 65845)
  • 備考:原記載ではタイプ産地がパラタイプの産地である高越山と記されており、ホロタイプの産地と齟齬を生じていたが、これは当初ホロタイプに予定していた高越山産の標本を後にパラタイプに変更し、新たに綾歌町産の標本をホロタイプとした際に、原稿のタイプ産地の方を訂正し忘れたために生じたミスであることが明らかにされている[3][4]:38。従って、原記載の記述とは異なり、ホロタイプの産地である丸亀市綾歌町がタイプ産地となる。

先述のとおり原記載では柄眼目のナメクジ科 Philomycidae の種として記載されたが、後に記載者である湊自身により収眼目のホソアシヒダナメクジ科 Rathouisiidae に分類が変更された[5]:90-91。ホソアシヒダナメクジ科は東アジアから東南アジアを経てニューギニアオーストラリア北部まで分布する他の陸産貝類を捕食するグループである。イボイボナメクジの諸特徴は、原記載に示された生殖器の問題を除けば、この科の特徴によく合致する。

本種はイボイボナメクジ属のタイプ種であるが、全く系統の異なるナメクジ科のナメクジ属 Meghimatium との比較で新属と判断されて創設されたため、その後の分類先であるホソアシヒダナメクジ科の他属、すなわち中国から記載された Rathouisia[9] や東南アジアやオセアニア地域から知られる Atopos[10]Prisma を含む)などとの関係は十分に明らかになっていない。ミトコンドリアDNAのCOI領域を調べた研究によって、イボイボナメクジ属の種はAtoposの種やゴマシオナメクジ類(後述)とは遺伝的に大きく離れていることが示されている[11][12]

2000年代初頭頃までは、山梨県から日本最西端の沖縄県与那国島に至るまでの広い範囲から記録されたものが全て本種と考えられていた[5]。しかしその後になって、非公式ながらも研究者らの見解として、それらには複数種が含まれている可能性が示唆されるようになり、少なくともタイプ産地である四国以外のものについては、外見からの区別が困難な多くの種を含む同胞種群としてイボイボナメクジ類と表記すべきかも知れないとの意見も出されている[4]:41


  1. ^ 以下、記載は湊(1989)[1] による。
  1. ^ a b c d e f 湊宏 (1989). “日本産ナメクジ科の新属新種,イボイボナメクジの記載”. 貝類学雑誌 Venus Japanese Journal of Malacology 48 (4): 255-258. 
  2. ^ 多々良有紀・一條さくら (2015). “御蔵島新記録の希少陸産貝類イボイボナメクジ(収眼類:ホソアシヒダナメクジ科)” (pdf). Mikurensis -みくらしまの科学- 4: 3-8. http://mikura-isle.com/pdf/mikurensis2015/3-8.pdf. 
  3. ^ a b c 湊宏 (2015). “陸産貝類研究備忘録(14)イボイボナメクジ種群(ホソアシヒダナメクジ科)の分布とその文献抄”. かいなかま (阪神貝類談話会) 49 (1): 1-12. 
  4. ^ a b c d e f 多田昭・矢野重文 (2010). “イボイボナメクジ Granulilimax fuscicornis Minato, 1989 の分類・生態的特徴” (pdf). 香川生物 (37): 37-42. http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/metadata/5782. 
  5. ^ a b c 湊宏 (2000). “京都大学瀬戸隣家実験所構内の陸産貝類”. 南紀生物 42 (2): 89-92. 
  6. ^ 大崎晃 (1996). “飼育下でのイボイボナメクジの食性行動”. かいなかま 30 (4): 5-7. 
  7. ^ a b 岐阜県自然環境保全課 (2010)「岐阜県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)改訂版−岐阜県レッドデータブック(動物編)改訂版−」(イボイボナメクジ
  8. ^ 湊宏 (1987). “珍奇な日本産ナメクジ類2種”. ちりぼたん 18 (3・4): 115-117. 
  9. ^ Heude P. M. (1884 ["1883"]), "Note sur un Limacien nouveau de Chine". Journal de Conchyliologie 31: 394-395.
  10. ^ Simroth H.(1891). "Über das Vaginuludengenus Atopos n. g.". Zeitschrift für wissenschaftliche Zoologie 52: 593-616. plate 37. page 593.
  11. ^ Kimura, Kazuki; Sano, Isao; Kameda, Yuichi; Saito, Takumi; Chiba, Satoshi (2020/01). “Phylogenetic Position of the Japanese Land Slug Genus Granulilimax Minato, 1989 Based on Preliminary Analyses of Mitochondrial and Nuclear Genes”. American Malacological Bulletin 37 (2): 53–61. doi:10.4003/006.037.0202. ISSN 0740-2783. https://bioone.org/journals/American-Malacological-Bulletin/volume-37/issue-2/006.037.0202/Phylogenetic-Position-of-the-Japanese-Land-Slug-Genus-Granulilimax-Minato/10.4003/006.037.0202.full. 
  12. ^ a b Kimura, Kazuki; Hirano, Takahiro; Chiba, Satoshi; Pak, Jae-Hong (2020-12-30). “Note on occurrence of the land slug family Rathouisiidae Heude, 1885 from South Korea and its DNA barcode”. Biodiversity Journal 11 (4): 1015–1019. doi:10.31396/Biodiv.Jour.2020.11.4.1015.1019. http://www.biodiversityjournal.com/pdf/11(4)_1015-1019.pdf. 
  13. ^ シライボイボナメクジ 福井県(2016)『改訂版 福井県の絶滅のおそれのある野生動植物』(p.252)
  14. ^ 沖縄県環境部自然保護課(2017)改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-
  15. ^ 環境省(2017) 環境省レッドリスト2017の公表について
  16. ^ 兵庫県(2015)兵庫県版レッドリスト2014(貝類・その他無脊椎動物)イボイボナメクジ
  17. ^ 香川県(2004)「http://www.pref.kagawa.jp/kankyo/shizen/rdb/rdb_text_06.htm 香川県レッドデータブック 香川県の希少野生生物」(p.384)
  18. ^ 愛知県環境部(2015)第三次レッドリスト「レッドリストあいち2015」(p.120)
  19. ^ 滋賀県生きもの総合調査委員会(編)(2016).『滋賀県で大切にすべき野生生物ー滋賀県レッドデータブック2015年版ー』 滋賀県自然環境保全課・サンライズ出版
  20. ^ 徳島県版レッドリスト(改訂版) その他の無脊椎動物<改訂:平成25年> (http://www.pref.tokushima.jp/_files/00176682/tayousei-07a.pdf p.204)
  21. ^ 静岡県自然保護課(2004)「まもりたい静岡県の野生生物-県版レッドデータブック-[1]
  22. ^ 大阪府みどり企画課 「https://www.pref.osaka.lg.jp/midori/tayouseipartner/redlist.html 大阪府レッドリスト2014」
  23. ^ 奈良県景観・自然環境課(2016)奈良県版レッドデータブック 2016 改訂版
  24. ^ イボイボナメクジ 愛媛県自然保護課(2014)「愛媛県レッドデータブック 愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物」
  25. ^ 岡山県自然環境課 『岡山県版レッドデータブック2009』 (format=pdf p.326
  26. ^ 宮崎県環境森林部自然環境課(2015)宮崎県2015年度版レッドリスト





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