アルセロール・ミッタル・オービット
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評価
肯定的
『インデペンデント』紙のジェイ・メリックは、「『オービット』の立体芸術としての魅力は、何かになろうとする過程における未完成の形態を示唆する手腕にある。」と述べ、イギリスの街々の至る所に作られてきたパブリック・アート運動の凡庸な作品たちと比べ、『オービット』の芸術的冒険性がいかに一線を画しているかを指摘した。メリックは「美しいほど謎めいていて、なかなか理解し難い」デザインは、好き嫌いの分かれるところだろうと考えている[23]。
『ガーディアン』紙のジョナサン・グランシーは、『オービット』は野心に燃えるオリンピック選手であり、魅力的な芸術と大胆な工学の融合であると述べ、アクアティクス・センターは別として、その他のオリンピック大会関連の景観および建物が比較的地味に抑えられているならば、一連の計画の中で『オービット』は建築的に際立ったアクセントだとした。また、聖書のバベルの塔を付添い人として、エッフェル塔と、初期ソビエト時代に計画だけで終わったタトリン塔が風変わりにも惹かれ合って結婚したような変わった形状によって、オリンピックのテレビ放送でまぎれもなく人目を引くに違いないと、グランシーは述べている[16]。
否定的
オリンピック塔の計画が最初に報じられた時、ロンドンの貴重な景観を守るため高層建築を厳しく取り締まるというジョンソンの以前の公約を、マスコミは指摘した[6][7]。『タイムズ』紙は、この計画はジョンソンの虚栄心から来たもので、そのデザインは彼の虚勢の表れであり、自らの業績に箔を付けようとしていると批判した。そしてローマに立てられたムッソリーニの「ウェディング・ケーキ」ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世記念堂、あるいはトルクメニスタン大統領サパルムラト・ニヤゾフが建てた中立の塔(一日かけて回転する黄金の大統領の彫像がついている)のようなものになるだろうと非難し、ジョンソンをオジマンディアスになぞらえた[6]。美術評論家のブライアン・シューエルは、「我が国には全くもって無価値なパブリック・アートがとり散らかっている。そして今度はファシスト的巨大趣味の時代に入ろうとしている。エゴの記念碑は数あれど、ジョンソンほどの記念碑的エゴはないであろう。」と述べた[6][7]。
『タイムズ』紙のリチャード・モリソンは、『オービット』を「巨大なフレンチホルンの鐘に空しくからみつく大量の金網フェンスのよう」だと評し、「東ロンドンに眼を向けるとき、実に目障りであるように思われる」とつけ加え、1600万ドルをかけて建設されたブルックリン橋を揶揄したコメディアンの一節を引き合いに出した[28]。モリソンはジョンソンを、大仰な記念碑を建てる「男根崇拝的政治」行動という点で、オジマンディアスだけでなく、20世紀の独裁者であるヒトラー、スターリン、チャウシェスクと同類だとした[28]。また外部の関与が欠如していたことを批判し、「少数の者が、他の多数の者の意識に対し、望まれていない押し付け」をすることになろうだろうと述べた[28]。彼は『オービット』が、イギリスの最近の「何千という品のない悪趣味な品々」の一つになってしまうのではないかと危惧している。そしてセント・パンクラス駅の抱き合うカップル(『落ち合う場所』)、ドックランドの『信号塔の木』、ブルネルへの賛辞として提案されているロザハイズ・タネルの『マッチ棒の男』を例に出し、それらのロンドン版になると述べた[28]。
『デイリー・メール』紙は、『オービット』の姿を「2台のクレーンの破壊的衝突」のようだと描写し、建物がすぐに「魅惑の塔」(Eyeful Tower、エッフェル塔 (Eiffel Tower) のもじり[31]) と渾名を付けられたこと、ネット上の「1900万ポンドをかけたジェットコースター」「巻きついたスパゲッティ」「恐ろしいのた打ち回り」「錯乱した子供のおもちゃ」といった声も紹介した[27]。『タイムズ』紙は「パブリック・アートのゴジラ」という表現も報じた[12]。
『タイムズ』紙のトム・ダイクホフは、『オービット』を「タブロイド紙への贈り物」「巨大なミスター・メッシー(ミスターメンの登場人物)」と呼び、オリンピック会場に無意味なシンボルを付け加える必要があったのかと疑問を呈し、『オービット』がロンドン・アイのように時間の試練を持ちこたえてエッフェル塔に伍する真のシンボルになるか、あるいは只の無用の長物と化してしまうか、どちらだろうかと問いかけた。そしてこの計画のタトリン塔からの影響、また特にコンスタント・ニーヴェンホイスが提唱したユートピア都市ニューバビロンからの影響を示唆しつつ、『オービット』は革命的あるいは同じイデオロギー的目的を持っているのか、あるいは単に世界最大の多国籍企業の巨大な広告塔であり、ただの悪戯心なのであろうかと問いかけた[22]。
『ガーディアン』紙のローワン・ムーアは、『オービット』は金持ちの趣味的大建築以上のものになるか、自由の女神像のように人々に感銘を与える代物たりうるだろうかと問いかけた[32]。そして彼は、この計画が、停滞した地域の活性化に大型のシンボルを使うのを社会が止める転換点になるかもしれないと考察した。そしてビルバオ・グッゲンハイム美術館やエンジェル・オブ・ザ・ノースが成功したのと同様に、大会後も『オービット』がストラトフォードに人々を惹き付けるかどうかについては疑問を呈した[32]。さらに、エンジェル・オブ・ザ・ノースのように心の琴線に触れるようなものが『オービット』にあるかと問いかけ、エンジェル・オブ・ザ・ノースは少なくとも鑑賞者に満足感をもたらすような要素を持ち、ゲーツヘッドに誇りをもたらしたが、『オービット』は誰もが敢えて取り壊す気にもなれないような、愛されない腐った残骸になるだけではないかと述べた。また建物にフロアとエレベータを設けたことは、カプーアの以前の成功作に比べて『オービット』の簡潔さを損ねたと主張し、「何か大きいものを作ろうというアイデア以上に、何らかの大きなアイデアがあるようには見えない」と締め括った[32]。
『ガーディアン』紙のジョン・グラハム・カミングは、『オービット』をエッフェル塔のようなシンボルと比較することを拒んだ。すなわちエッフェル塔はそれ自身は永続的なモニュメントとなることを意図して建てられたのではなく、その有用性によって芸術として公に受け入れられてきたに過ぎないとし、またロドス島の巨像が20-30年もしないうちに取り壊されたこと、バベルの塔が「建設者自身の栄光を讃えるために建てられた」ことを指摘した。そして『オービット』を20年後に取り壊すべきかどうか、ジョンソンは再考すべきだとした。さらに計画に大企業が関与している点に疑義を呈し、それによってこれが芸術でなく、虚栄心を満たすための計画だと思われるようになったと述べた[26]。
アルセロール・ミッタルの『オービット』に対する後援と命名は、公衆への商標提示に関する大会ポリシーに反するのではないかという『タイムズ』紙の懸念に対して、オリンピックの規制によれば『オービット』は大会中に何の商標も冠することはできないとジョンソンは述べた[8]。『ガーディアン』紙の環境問題ブログのフェリシティ・ケイラスは、アルセロール・ミッタルが排出する二酸化炭素量を考えると。「初の持続可能的オリンピック」と宣伝された2012年オリンピックの記念碑として、『オービット』は相応しいのかと問いかけた[33]。
一般公開に合わせて『ガーディアン』紙が行なったオンライン投票では、「アニッシュ・カプーアのオリンピック塔は立派なデザインだと思いますか?」という質問に対し、38.6% が「はい、立派なデザインです」と答え、61.4% が「いいえ、ガラクタです」と答えた[34]。
何とも言えない
『ガーディアン』紙のマーク・ブラウンは、永続的に人々を呼び寄せる『オービット』の潜在力に関して、その他の象徴的な大規模建築のロンドン観光名所がそれぞれ辿った運命に思いを至らせている。すなわち、よく知られてはいるが金ばかり食うテムズトンネル、チャーチルの命令で取り壊されたスカイロン塔、そして成功したロンドン・アイである[11]。
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