L3計画に不可欠だったN1ロケットの開発失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/15 14:07 UTC 版)
「ソ連の有人月旅行計画」の記事における「L3計画に不可欠だったN1ロケットの開発失敗」の解説
N1ロケットは5段ロケットで構成されるが、下段にいく程、束ねられたロケットエンジンの数が多くなり、三段目は4基、二段目は8基、そして最下部の一段目は実に30基のエンジンをクラスタさせて、高い精度で同期制御させるという技術的命題が課せられていた。スプートニクロケット、ボストークロケット、ソユーズロケット、そして今日に使用されているプロトンロケットと同じく、旧ソ連・ロシアの宇宙ロケットのお家芸とも言えるクラスター・ロケットではあるが、旧来から使用していた小推力のロケットエンジンを流用出来て(使用実績も長く蓄積されているので信頼性も高い)、より推力の大きな新型ロケットエンジンを開発する場合に掛かる膨大な費用や開発期間を考慮せずに済むという利点があった。その反面、運搬物が重くなればなる程、推力も比例して大きくさせねばならぬ手前、束ねて同期制御すべきロケットエンジンの基数も増やしていかねばならなかった。N1ロケットの開発実験では、失敗の全てが30基もの大量のエンジンを束ねている一段目部分に集中していた。これだけの数のロケットエンジンを完全に同期制御させることは、現在の科学技術水準を持ってしてもかなり困難であり(ただし、ファルコンヘビー離床時同時作動ロケット27基は問題なく同期制御された実績が複数回あり、他にアレス等同等程度のクラスターエンジンは現在計画中のものもある)、それを半世紀近くも前、しかも当時の世界の先端を走っていたとはいえ旧ソ連一国で開発に挑んでいたことの無謀さ・クラスター・ロケットへの過度の執着こそが、同計画の実現を結果的に阻んだと言えるだろう。奇しくも有人月旅行計画の末期に過ちに気付き、より推力が向上された新型ロケット・エンジンNK-33の開発に成功、同エンジンを大幅に採り入れた改良型N1ロケット(N1F)の開発に着手するも時既に遅く、N1Fとしての性能実験も殆ど行えない内に開発継続は中止となった。 一見、N1ロケットはクラスター・ロケットに見えないが、全段全ての筐体がロケットエンジン部分を包んで覆っているためである。 競合相手であったアメリカが開発に成功していたサターンロケットも厳密にはクラスター・ロケットである(ただしエンジン数はずっと少ない)。サターン1B(全2段):1段目にケロシン-液体酸素のロケットエンジン × 8基 サターンV(全3段):1段目にケロシン-液体酸素のロケットエンジン × 5基。2段目に液体水素-液体酸素のエンジン × 5基。3段目に液体水素-液体酸素のエンジン × 1基
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