ラグランジュ‐てん【ラグランジュ点】
読み方:らぐらんじゅてん
ラグランジュ点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/21 09:31 UTC 版)
ラグランジュ点(ラグランジてん、英語: Lagrange point あるいは Lagrangian point(s)[1][2])は、天体力学における円制限三体問題の5つの平衡解であり、二つの天体系から見て第三の天体が安定して滞在し得る位置座標点である。ラグランジュ点において第三の天体は、二つの天体から受ける重力と慣性力(遠心力)の釣り合いが取れており、外力による加速を受けない[3]。5つすべての平衡解(座標点)を解析的に発見したジョゼフ=ルイ・ラグランジュ[注 1]にちなんで命名されている[3]。
注釈
- ^ ラグランジュは、18世紀後半にレオンハルト・オイラーと共にラグランジュ点の存在を確認した。
- ^ a b c 本記事の説明において、天体名やその物理量の添字に「E, M, A」を用いる。この説明は条件を満たすどのような天体系でも成り立ち、これらの記号「E, M, A」は実在の特定の天体(たとえば地球、月、人工衛星など)を指定するものではない。
- ^ 一般に、連星系を記述するときは、それぞれを主星、伴星と表記することも多い。ただし、連星において主星とは観測された明るさでより明るい方の天体のことであり、伴星は暗い方の天体である。ラグランジュ点の理解においては、明るさではなく質量が主に問題となるので、特に必要のないかぎり「主星・伴星」という表記は本項では用いていない。
- ^ ただし、天体Aの速度等によっては天体間の引力を振り切り、周回軌道は描かず無限遠へと過ぎ去る軌道(双曲線や放物線)となる。すなわち、一般に解は円錐曲線となる。なお、ここでいう「楕円」には、もちろん「真円」も含まれる。
- ^ この名について。太陽と木星の系において、そのラグランジュ点L4とL5には数千個(以上)の小惑星群が存在する。この小惑星群を構成する小惑星の一部にトロイア戦争における英雄の名が付けられていることに由来する。⇒木星のトロヤ群
- ^ 以下の式では、座標変換後を意味する ' (プライム記号)は除いて、書き改めている。以降の方程式の扱いにおいては、回転座標系のみが問題になるので ' を省いても問題の一般性は失われない。
- ^ このはスカラー量の位置による勾配を求める演算子である。に対するという演算は、位置において物体がポテンシャルエネルギーの場から受ける力を求めるものである。このようなとの関連付けは、本記事のような重力や遠心力の取り扱いにおいて可能であることが知られている。
- ^ 演算子は各項で共通なので、()の外に括り出した形で示している。
- ^ ただし、ラグランジュ点に関しては、2天体の公転軌道しか問題にしない。そのため、3成分のうち実質的に議論になるのは、公転軌道上の平面の2成分のみである。
- ^ ある質量比におけるロッシュ・ポテンシャルが与えられたとき、そのスケールは天体Eと天体Mの間の距離に比例する(天体間距離等は相似変形のパラメーターに過ぎない)。
- ^ 物体が地球に近ければ近いほどこの効果は大きい。
- ^ ただし、太陽の陰に定置すると、観測に必要な電力源である太陽電池の発電力が著しく低下する。このために、実際はL2付近に滞留させて、太陽の陰の位置では観測を、陰の外の位置では発電をする、といった運用が望ましくなる。例えば、NASAのWMAP やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は太陽-地球系のL2に置かれている。
- ^ 参考までに、月の平均公転半径は384,400kmである。
- ^ ここでの周期の計算には、天体Eの影響を考慮していない。
- ^ より正確には、この値はである。
- ^ a b この定数24.96は、より正確にはである。なお、ラグランジュ点を解析的に求める過程においても既に近似を行っているので(⇒#力学的背景)、この表記から有効数字をどれだけ取れるかは、対象となる系から判断する必要がある。
- ^ 天体Mの質量の方が大きい場合も同様である。なお、恒星系(二重星)において、天体Eや天体Mのいずれかを「主星」や「伴星」と呼ぶことがある。
- ^ これは 2 体の重力の横方向の成分が足し合わされて引き戻す力を生むためである。
- ^ a b c 正確には、三次元空間のことなので「等ポテンシャル面」と表現するべきだが、ラグランジュ点の検討では、天体Eと天体Mの公転軌道上の平面内の運動だけを問題とするので、「等ポテンシャル線」と記した。
- ^ ラグランジュ点と同様に重力場に束縛されているが、正確に同じ軌道を繰り返し描くわけではない。
- ^ そのため、ヘレネという固有名が付与される以前は「ディオネB」と呼ばれていた。
- ^ ヤヌスの質量は、エピメテウスの質量より約4倍大きいのみである(エピメテウスの質量は無視できるほど小さくない)。
出典
- ^ “WMAP Observatory: Lagrange Points”. map.gsfc.nasa.gov. 2023年8月27日閲覧。
- ^ “Lagrange point | Definition & Distance | Britannica” (英語). www.britannica.com. 2023年8月27日閲覧。
- ^ a b c d Cornish, N. J. (Wikinson Microwave Anistropy Probe team)『The Lagrange Points』National Aeronautics and Space Administration、1998年 。2023年8月19日閲覧。
- ^ Joseph Louis de Lagrange (1772). “Essai sur le problème des trois corps”. Œuvres complètes 6: 229.
- ^ “L₂点”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2018年2月20日). 2023年1月11日閲覧。
- ^ L4、L5を経由しての通信は可能
- ^ JAXA (2017年4月11日). “太陽−地球系のL5点付近の観測について”. はやぶさ2 拡張ミッション. 2023年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月21日閲覧。
- ^ Brucker, E., Gurfil, P. (2007). “Analysis of gravity-gradient-perturbed rotational dynamics at the collinear lagrange points”. J. Astronaut. Sci. 55: 271. doi:10.1007/BF03256525.
- ^ Salazar, F. J. T., Macau, E. E. N., Winter, O. C. (2014). “Alternative transfer to the Earth–Moon Lagrangian points L4 and L5 using lunar gravity assist”. Adv. Space Res. 53: 543. doi:10.1016/j.asr.2013.11.055.
- ^ Michael, Jr. W. H.『Considerations of the Motion of a Small Body in the Vicinity of the Stable Libration Points of the Earth–Moon System』National Aeronautics and Space Administration、1963年。
- ^ グレイら (2009): 210 頁。
- ^ グレイら (2009): 220 頁。
- ^ “中継通信衛星「鵲橋」の打ち上げに成功”. フジサンケイ ビジネスアイ (2018年5月24日). 2019年1月10日閲覧。
- ^ “米中ロ「3強時代」 資源・軍事競争 月の裏側に無人機着陸 中国高まる存在感”. 東京新聞 (2019年1月4日). 2019年1月10日閲覧。
ラグランジュ点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 02:26 UTC 版)
円制限三体問題において、共動回転系において第三体が静止することが可能な5つの点をラグランジュ点と呼び、記号 L1, L2, L3, L4, L5 により表される。このうち L1 から L3 の3点は第一体、第二体、第三体が一直線上に並ぶもので、オイラーの直線解として知られる。一方 L4 と L5 は三体が正三角形を描くもので、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュによって1772年に発見された。ラグランジュの正三角形解は一般三体問題の場合にも存在する。 詳細は「ラグランジュ点」および「馬蹄形軌道」を参照
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