ライニッシュ式(押引異音)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 09:28 UTC 版)
「バンドネオン」の記事における「ライニッシュ式(押引異音)」の解説
日本語では「ライン式」とも言う。71ボタン(左 33、右 38)142音(142 voces)が基本で、タンゴの本場アルゼンチンではこの方式のボタン配列が標準仕様である。 20世紀前半、アルゼンチンのバンドネオン奏者たちは、ドイツのメーカーに新品を発注する際、タンゴを弾きやすいようボタン鍵の増設を特注した。タンゴ形成の発展途上の試行錯誤の積み重ねから生まれたのが、ライニッシュ式配列である。ライニッシュ式配列の中央のボタン配列はドイツ本国のアインハイツ式とよく似ている。隣同士の特定のボタンを同時に押すと、ダイアトニック・コンサーティーナあるいはアコーディオンの左手と同じように、和音が鳴るようになっている。しかし、周辺部の音階配置は、アルゼンチンの奏者からのオーダーに応じてその都度増設を繰り返したという歴史的な経緯もあり、ほぼ不規則である。 アルゼンチン・タンゴの象徴的な楽器であるライニッシュ式バンドネオンは、習得が非常に難しいことから「悪魔が発明した楽器」とも呼ばれる。ただし小松亮太は「演奏の巧拙はともかく、バンドネオンのボタン配列を記憶すること自体は特別な才能を要することではない」と反論したうえで、自分は「悪魔の楽器」云々は「自分の商売道具に勿体をつけているようで、どうも僕には人前で口にする勇気がない」と述べている(小松2021,pp.101-103)。 タンゴの独特の音楽性は、複雑な構造を持つバンドネオンの運指、吸気リズムを自然に活かした演奏技術との相互発展の産物であり、単純に合理性で解釈できるものではない。 小松亮太によれば、ライニッシュ式バンドネオンであることは、アルゼンチン・タンゴのバンドネオンであることの必要条件ではあっても、十分条件ではない。(1)ボタン数は右手38個、左手33個ていどのライニッシュ式、(2)ボタンの音階配列が不規則で押し引き異音式、(3)通称AA社または通称ELA社の製品、(4)およそ1920年代から第二次世界大戦前までに(3)のメーカーがアルゼンチンへの輸出用に製造した仕様である、という4つの条件のうちの1つでも逸脱した楽器は、アルゼンチン・タンゴでのバンドネオンと違う音色であると述べる(小松2021,p.110)。
※この「ライニッシュ式(押引異音)」の解説は、「バンドネオン」の解説の一部です。
「ライニッシュ式(押引異音)」を含む「バンドネオン」の記事については、「バンドネオン」の概要を参照ください。
- ライニッシュ式のページへのリンク